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田舎で~本屋営業日記⑥

先日、静岡で最大の書店が閉店した。
世の栄枯盛衰と諸行無常、そして一抹の寂しさを感じている。

もともと私は、その書店グループの一員であった。フランチャイズの書店員として5年目を迎えた年に、静岡駅北口に旧長崎屋のビルに入店する形で1000坪という巨大な書店が誕生することとなった。

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当時、菊川市で150坪の店を任されていた私に、直営本部から(軌道に乗るまで間)力を貸して欲しいと、逆出向の形で声がかかったのはその時のことだった。
前例のない召喚には驚いたけれど、一書店員として、持てる力を役に立てられるのであれば、巨大な新規書店作りに尽力したいと思ったのだった。
せいぜい200坪クラスの郊外店を運営してきた書店企業が、静岡駅前に空前絶後の規模の、しかも専門書を大量に誂える書店を作る。県内外から、そのジャンルに精通した書店員が集められた。
私の担当は、1階:文芸書、文庫、新書のフロアだった。店舗の入口、そして顔として如何に魅力的な売場にするのか、試行錯誤の日々を重ねた。休日ともなれば、東京など都市部の大型書店を見学に出掛けた。
本の単品管理を始めたのも丁度その頃だった。
イベントやフェアも毎月企画し、静岡の読者に提案していく。私が携わった一年の間に、来てくれた作家の中でも石原慎太郎さん、石田ゆり子さん、綾小路きみまろさん、山田詠美さんらのイベントは大盛況で、特に印象に残っている。
オートバイ本のフェアを開催したときは、本物のハーレーダビッドソンをPOPとして展示し飾った。まさか、本屋でハーレーダビッドソンそのものが売れると思っていない出来事もあった。
地方郊外店ではあまり扱わないような出版社、例えば買切出版社や地方小流通の各出版社、官報、洋書、直取・・・その後に繋がる多くの経験をさせて貰ったのもこの書店だった。
在籍した一年間は兎に角忙しすぎて、週休一日をとるのが精一杯だった。

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あれから18年が経ち、元同僚や後輩スタッフたちが深々とお辞儀をし、幕が降りる瞬間を、目の当たりにした。胸が詰まった。殿(しんがり)を務めたスタッフの皆さんに、心から敬意を払いたい。

どんなに品揃えが良かろうが、立地が良かろうが、大きかろうが倒れてしまう時代。
昨今の書店の廃業や減少を「本離れ」による収益悪化という一言で片付ける論調は多い。
これまで沢山の現場も見てきた。現場レベルでいえば、どこの現場も懸命に頑張っている。
その現場を生かすも殺すも、矢張り会社(トップ)の経営理念と経営手腕が伴ってのことであるとしみじみと思う。

今年、小さいながらも自分の本屋を始めた。開店直後からのコロナ禍で、いろいろな活動を自粛しながらのスタートとなった。今でも暗中模索の手探り状態ではあるけれど、何とか日々を送っている。

ここ掛川は、報徳の町としても有名である。二宮尊徳(金次郎)は「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」と言っている。少しでも近づけるよう、理想と経済のバランスを常に考え乍ら、本屋道を歩んで行きたい。

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