田舎で~本屋営業日記⑦
早いもので、固定の店舗を始めて10カ月が過ぎようとしている。
決して劇的なことは起こらないけれど、町の本屋としてやるべきことをコツコツ積み上げる日々を送っている。
先日、そんな「走る本屋さんの10カ月」を静岡放送(SBSテレビ)が取材し、放送してくれた。最近の高久書店の様子は確かにこんな感じなのだが、YouTubeで視聴ができるので、ご興味がある方はご覧頂きたい。
https://www.youtube.com/watch?v=WkJeXdZqSLA
この一年を振り返ると、時の流れの早さにただただ驚くばかりである。コロナ禍での開業だったから、計画していたことは殆ど出来ていないけれど、そんな中でも得られた発見や、新しい出会いとご縁には本当に感謝している。
ただ、一つ残念でならないのは前職として勤めた戸田書店掛川西郷店の閉店があった。一報を聞いたその日から、私の心には、どこかぽっかりと大きな穴が開いてしまっている。
当店に足を運んでくれる多くのお客様もその閉店を惜しみ、声を掛けてくれた。
心が痛んだ。もし私が、一年前に辞めていなければ、ひょっとしたら閉店は回避できたのではないか・・・。おこがましくも、本当におこがましくもそんな風に自身を責めたりもした。長年一緒に働いた、同僚書店員の涙を、私は一生忘れないと思う。
建物引き渡しの最後の日、意を決して西郷店に会いに出かけた。
意を決してと申したのは、閉店した姿を直視する自信が無くて、引き渡し最終日が来るまで、近づくことが出来ないでいたのだ。
予想していたこととはいえ、そこにあったのは灯の消えた、どことなく無機質な建物がポツリと佇んでいるだけだった。
15年間を共に過ごし、心血を注ぎ、愛し育んだ彼の姿に、涙が溢れた。走馬灯のように想いが脳裏を駆け巡り、刹那、踵を返してしまった。
ここにかつてあった、君の元気な姿をしっかり胸に刻んで、私はまた本屋として歩もう。
いま、この建物は再び書店が入居し、かつての賑わいを取り戻している。
大きな書店には大きな書店にしか担えない役割がある。この地で、多くの読者をたくさん育んでいって欲しいと心から願っている。