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傷んだ花びら
これ以上なにも見ないように僕は目を閉じた
僕は目を閉じた すると涙が出た
もうおまえを見ないのだと思って。
暑い日々が続き、何度かの雨が降り、秋がやってきた。庭の葡萄はまだ実をつけない。木が育ちきっていないのだ。となりの薔薇のブルームーンが顔を海の方にむけていた。渇いた葉、傷んだ花びら。
ボリス・ヴィアンのカクテルのピアノが波の合間に現れて、ラフマニノフを奏でた。
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柔らかい土とたくさんの肥料と水を五月だか、六月だかにあげた。
そのあとも朝夕と水をやる。
海の底から大聖堂の鐘が鳴り響き、その音に共鳴する僕の心。
やがて、幻想の寺院が静かに、ゆっくりと顕在化し、あらゆる罪を思い出す。
朝日を浴びたファサードは黒よりも深い黒の影をつくる。
薔薇がダマスクの薫りを海風に乗せて、熱い頬を撫でて、エリュアールの詩を運んできた。
三十八度──熱にうかされた僕は、名もなきひとに、いまさら、やさしく愛をわけてあげたくなって、アダージョを流した。
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