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「いま」を耐え凌ぐお供に

おはようございます!!! 書評行きます!!!

パルプ (ちくま文庫) 筑摩書房 2016年出版 
チャールズ・ブコウスキー著 柴田元幸訳 325P 

(以下は読書メーターのアカウント https://bookmeter.com/users/49241 に書いたレビューです)

中身などない。途中まではある気がしたけど、やっぱりなかった。始めからなかった(ブランキー・ジェット・シティー「ガソリンの揺れかた」とこの本はまるでコーラとポテトチップス)。でも内容がどんなにパルプでもブコウスキーの文章には品がある。嘘で上品ぶらないから。小説は辻褄警察や伏線回収警察のためにあるのではない。結局我々がフィクションに求めるのはいっときの救いだ。他に何がある? あと東山彰良の解説が素晴らしい。彼も柴田氏も異口同音に「ブコウスキーは訳によってかなり変わる」と述べている。中川五郎氏の評価が高い模様。

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以前、新潮文庫で出ていたものの復刊です。加筆・訂正もあるみたいですが、基本的には一緒でした。もちろんいい意味で。

無頼派作家ブコウスキー最後の作品。一言で要約すれば、とっくの昔に亡くなった外国の著名作家と宇宙人と金髪美女が入り乱れるハードボイルド探偵小説(というかそのパロディ)。内容が想像できないですよね? すさまじい破壊力です。ザ・荒唐無稽。でありつつ支離滅裂というわけでもなく、最低限の責任はちゃんと取る名人芸。そこがいいんです。だからこそ人生とは何か、どう生きるべきか、みたいなことを悩みがちな人にオススメできる一冊なのです。

どうしようもない虚無感に襲われる夜。誰の日常にもあると思います。無論私にも。良からぬ妄想に支配されかかったタイミングで何気なく視線を向けた部屋の書棚にこの本を見つけて欲しい。それがささやかな一時(いっとき)の救いをもたらしてくれるかもしれないから。そこまで悩むことじゃない、そもそも人生なんてこんなものじゃないか、と。ハチャメチャで適当でその場凌ぎの辻褄合わせ。それの何が悪い? 無事切り抜けられればいいじゃないか、他人が何を言おうと知ったことじゃない、と。

一時の救い。それで何が変わるのか、と笑う人もいます。例の十万円給付を無意味だったと言う人がいるように。ここは太宰治「走れメロス」を思い出してください。メロスがあの時、水の流れる音に気づかなかったら、彼の親友はどうなっていたか? そしてメロス自身も。人は誰しも弱いのです。特に強そうに見える人、強いと自覚している人ほど。一時の気の迷いが取り返しの付かない事態を招くことがあるように、ちょっとした一言やふとした気づきが決定的な過ちから身を守ることもあるのです。

この「パルプ」と以前に紹介した伊坂幸太郎「フィッシュ・ストーリー」をぜひあなたの書棚に。ありふれた表現ですが、緊急事態に備えるための薬箱として。我々にとっての最優先は「いま」を耐え凌ぐことだから。


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