考察「もし作家活動だけで生活できる状況が整ったら書店員を続けるか?」
1月に現役書店員として芥川賞を受賞した佐藤厚志さんが、丸善・仙台アエル店を10月末で退社していたそうです。
職場で得られる現在進行形の体感を作品へ盛り込めるメリットよりも、執筆に専念できる環境を選んだのでしょう。「書店員小説」を主軸に据えているわけではなさそうだし、正しい選択だと感じました。
ではもし毎週日曜に発表している「ハードボイルド書店員日記」が書籍化し、それなりにヒットし、作家活動だけで生活できる状況が整ったら自分はどうするか?
結論。書店員を続けます。さすがにシフトは減らしてもらいますが。
「ハードボイルド~」は、事実を忠実に描いた私小説ではありません。しかし私はいま時間を最も注ぎ込んでいる何かをジャンプ台に据えないと、想像力の翼を上手く使えない。小説すばる新人賞で三次選考まで残った作品も、営業マン時代のエピソードが中心でした。
作家は誰しも経験を想像力で膨らませるもの。ただ私の場合は事実が原料として占める割合がかなり高い。なおかつ100に近い私小説よりは低い。ややこしいところで書いているのです。
ほぼ頭の中だけで組み上げた小説もいくつか新人賞へ送っています。怪我からの復活を目指すプロ野球選手が主人公の長編や、古本屋のバイトの日常を綴った短編など。でも地に足の付かない感覚が拭えませんでした。
実体験でも直接見聞きしたわけでもないことを知り尽くしているように記し、読者を作品世界へいざなえてこそのフィクション作家。その意味では私には才能がないのでしょう。でも日々経験していることを創作へ落とし込む方が楽しいし熱が入るのも事実なのです。
もうひとつ。執筆を通じて書店業界の現状を末端の立場から訴え、いい方向へ変えていきたい。そのために現場へ留まる必要がある。こちらの方が重要かもしれません。
佐藤さんといつかじっくり話してみたい。応援しています!!