映画評 WAVES
ストーリーにはあまり触れてはいませんが、 ネタバレありです。
何の予備知識も入れずに鑑賞をオススメしますので、既に観た方のみ、お読み頂けると幸いです。
夢見るころを過ぎて、あなたは今どう生きていますか。と17歳だった頃の自分からの私信をこの映画から渡されたような気がした。
本作はハイスクールに通うタイラーの身の周りで起こった事にフォーカスを当てて幕を開ける。 アップショットを多用し、カメラは登場人物の周りを執拗に回転しながら、「目まぐるしい思春期の感覚」を切り取っていく。
プレイリストムービーと呼ばれる本作らしく冒頭からTame Impala のリズミカルで太いビートに乗って、レスリングのハードな練習風景が映し出される。学校生活や恋人との仲睦まじい様子に寄り添うように、2000年〜以降のブラックミュージックからバンドものまで様々なジャンルのインディーな音楽が鳴らされる。アニマルコレクティブ・レディオヘッド・アラバマシェイクスが流れるシーンが個人的にはGOODでした。トレントレズナー・アッティカロスの名コンビの劇伴も上手く作品にマッチしていました。
凶暴なくらいにコロコロと変化する思春期の感情の機微や心の声や痛みを、音楽が代弁しているかの様なシーンが絶妙でした。
他では、
まずスマホの画面がアップに映されてから、その持主のキャラの顔アップへと変わる。そこからゆっくりカメラがパンしていくと、スマホでやりとりしていた相手の顔アップに最終的に変化して、また逆方向にパンすると、離ればなれの場所でやりとりしていたはずの2人がいつの間にか一緒に居る場面へとシームレスに繋がるシーンなどが幾つかあり印象的でした。
…こんな落書きで伝わりますでしょうか…。
気になった点では、
全編を通してという訳では無いのですが、執拗なアップショットや目まぐるしいカメラの動きは観ていて「落ち着かなさ」を感じました。個人的に引きの画が好みというのも要因かと思います。
様々な人物の目線から浮き彫りになっていく 愛の形や家族の在り方。
17歳として生きる息子にとっては世の中には未体験な事ばかりだ。そして、その成長を見守る親にしてもこれからの人生は未体験な事ばかりだと思います。刻々と成長していく自身の子供の将来の事や、家族内での立場や老いなど。
いくら手塩をかけようと、努力しようとも、育児や恋愛に(というか人生に)正解は無い。
ただ茫漠と横たわる時間、波のように寄せては還す「今」という瞬間を生きる事が大切だと私は最近思うようになりました。 本作を観ていて、のらりくらりとしつつもピンピン生きている現在の私の姿を、余裕が無かった17歳の頃の私が見たらきっと驚くだろうな、とも鑑賞しながら思いました。
人間の悲しい面や美しさ、どちらにも優しい眼差しを向ける本作は多くの人に長く愛され続ける 作品になるような気がしています。
鮮やかなエンドロールも素敵でした。
長くなりましたが最後までお読み頂きありがとうございます。
それではまた。
マンチェスターバイザシーで知ったルーカスヘッジズ君が本作でも素敵でした。