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2020最高傑作『忍者と極道』を読んでほしい話

はじめに


 皆さんは『忍者と極道』というタイトルを聞いたことがありますか?また、『危機が迫り、仲間たちに麻薬を摂取するよう必死な表情で叫ぶおじさん』『執刀医の超越的技術に熱狂する手術室』『上司をタコ殴りにしながら退職を申し出るサラリーマン』『ベラベラしゃべる生首』、などのなんだかよくわからないけどインパクトの強い画を見たことはありますか?
 これはそんな2020発最高エンタメ『忍者と極道』が大好きな筆者が全力で推薦していく記事です。

 この『忍者と極道』は、講談社のウェブコミック配信サイトコミックDAYSで毎週月曜日に更新されている、近藤信輔先生による漫画作品です。

 既刊は2巻、現話数は大体4巻分で漫画好きのオタク間から高い評価を得、また10/14に発売される3巻収録分のエピソードが更なる人気に火をつけ月曜午後のTwitterトレンド常連となっている、おまけに先日のWeb漫画総選挙で中間ベスト5入りを果たした本作ですが、まだまだ世間的な知名度は低く発展途上にあるというのが現状です。

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 前述のようなアク、もといインパクトの強い絵面を生み出すこの作品を『何だコレ』という一笑で終わってほしくない、ネタ要素だけで占められた作品ではないと知ってほしいし欲を言えば大人気になってほしい1オタクのプレゼンにお付き合いしていただけると幸いです。

ハイテンション・ハイクラスアクションエンタメ


 皆様は二大勢力の激突、能力バトル、友情と悲喜こもごも、ニチアサ、ロック、イケメンなどといったものはお好きでしょうか?どれかひとつでも当てはまるのなら読んでいくべきですので、先に無料の1話と2話、9/17まで期間限定公開されている外伝(全5話)を貼っておきます。


:『ベラベラ喋る生首』でお気づきとは思いますが、本作は『断面(メン)』『中身(モツ)』は事細かに描写されないものの、首が飛ぶ程度の欠損描写は滅茶苦茶あるため暴力描写自体が受け入れ難い場合の閲覧にはご注意ください。

 冒頭で述べた通り本作はインパクトの強い画が話題に上りやすい、奇抜な要素にカモフラージュされているものの内容は実に王道的でもあります。3話から激化していく両陣営のバトル展開はとても読み応えがあり、『ジョジョ』や『うしおととら』などの名作にも引けを取らない、熱量と勢いが込められた作品と自分は感じています。身体が超常の域にある忍者、心が人ならざるものの域にある極道という設定から編み出される展開は非常にドラマティックかつハイテンポで、私にとっての明日を生きる糧となってくれています。漫画というステージを最大限に活かした表現技法にも注目です。

 また登場人物も非常に魅力的であり、メインを張る全員がストーリーにふさわしいパワー、格好良さを持つ存在と言えます。Wikiがあることにはあるのですが、登場人物の最期が載ってしまっているという致命的な点があるため、主人公たちを紹介し、本作の魅力を伝えていきたいと思います。

二人の主人公(ネタバレ注意)

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多仲 忍者(たなか しのは)
  帝都八忍=忍者に属する高校生です。画像の右側。幼い頃極道に家族を殺され、そのトラウマによって本人が楽しい、面白いと感じても笑うことができません。本人はそれに引け目を感じており、手で口を動かして笑おうとするなど、根は優しく情深い性格がみられます。忍者の唯一の弱点である相手への情を抱くことはあれども、それを抱いたまま一切の容赦をせず戦い抜き、人々の笑顔を守ろうとする強い意志の持ち主です。他の『帝都八忍』の中で彼だけは特異体質ではありませんが、戦いの中相手に適合した戦術を生み出すなど、戦闘のセンスに優れています。アニメ『プリンセスシリーズ』の熱狂的ファン、いわゆるプリオタで、最近極道(きわみ)さんという初めての友達ができました。

輝村 極道(きむら きわみ)
  二代目竹本組の裏組長と、玩具会社企画部長の二足の草鞋を履く青年です。画像の左側。家庭の事情と事故により感情を失っており、理屈の理解も演技もできますが世界の誰にも共感できず偽り続けることを憂いているようです。そのため社会から弾かれた『孤独な者』の寄る辺である大事な極道を脅かそうとする忍者をひどく敵意を抱いています。戦闘力だけでなく人心掌握にも長けており、扇動はお手の物です。前述のとあるアイテムに加え、彼を含む強大な極道技巧(ごくどうスキル)を持つ『破壊の八極道』と彼以外のメンバーが所属するコミュニティの力を借り、忍者に戦いを挑みます。彼もまたプリオタであり、弟がいたらこんな感じかなあ、と言えるほど忍者(しのは)くんとの絆を大事に思っています。

ここがすごいよ忍者と極道


 多すぎるので自分がすごいと思ってるところを2つに絞って紹介したいと思います。


①縦横無尽のパワー系作劇、とその制御センス(ネタバレ注意)

 この記事で何度も述べた奇抜要素ですが、特に鬱陶しいと思っているわけではありません。むしろ読んでいるときしょっちゅうこちらのツボをついてくる大事要素です。『何だコレ』が読み続けるきっかけになってほしいだけで。

 すごいのはこれがバランスを崩さず、浮かずにしっかりと作中に根付いていることです。本作は景気の良すぎる首飛ばしはもちろんのこと、何食ったらそれ思いつくんだよというような振り切れたルビが最高なのです。例えば、これは10/14に発売される3巻の帯つき裏面なのですが(ツイートの三枚目です)、

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 忍者と極道は大体こんな感じでお送りされています。絵面が楽しすぎる連中の行進(こいつらの関係性を一目で見抜ける人、絶対いない)、宇宙を背景にする一人称が神(オレ)の男、どこでも耳にした覚えのない『極道車』というワード、恐らくネットでの使用者はこんな読みはしてない『虚無(シャバ)い』そして帯のセンターを陣取る生首。すごい。どこをとっても最高です。ルビが最高だと先程述べましたが、これを使うことによってシンプルなセリフにも意味合いが増して満足度を高めています。

 また、作中でのバランスがこの漫画上手いな~と思うところです。ここで述べるバランスとは近藤先生が作品を描く上でオマージュにしたものだったり、忍者と極道両名のヘイトコントロールなどに対して機能しているものです。

 前者は、近藤先生が影響されたものを個々のネタとしてきちんと昇華し、必然的な価値を持つものにしているということです。例えば、ロックバンドの曲目がサブタイトルとして挙げられた回がいくつか存在するのですが、歌詞を調べてみると…というようなところにあります。

 『好きなもの』を無理に話に組み込まない、というのは『好き』で話が捻じ曲がっていった作品を何度も読みその度幻滅してきた身にとってはすごく有難く思われ、要するにそういった押しつけがましさが感じられず毎週その技術力に脱帽しています。『癖』は作品にとって大事ですし、時には核ともなりえますが、それだけで発展性がないとみるみるついていけなくなるような気がしています。

 後者は、②で述べる作中での命の比重にもつながっています。戦いのトリガーとなった第3話では、極道とはどういうものか、ということを顕著に表すセリフがあります。

「組長(オトン)も忍者に殺された!!女子供10人ぽっち拷問しただけで…血も涙もねえ!!」

 そう、極道の持つ『情』というのは完全に仲間にしか発揮されることはなく、それ以外はどうなろうが無関心。こんな笑顔でワイワイやってる極道が大量に生首にされて死ぬなんてかわいそうじゃない…?と忍者の持つ圧倒的武力に向けていた困惑の瞳がそのまま極道に移される形となります。しかし読者が極道のことをただ憎み切れないのは、悪事を働くときの滅茶苦茶いい笑顔と、我々も普遍的に抱く孤独感に関係があると考えられます。

 極道のやる悪事は規模が大きく、無関係のモブが絶望しながら死のうが家が燃えようが滅茶苦茶いい笑顔です。暗黒微笑とかではなく、ニカッというオノマトペが連想されるくらいに。加えて基本的に極道は仲間との密接な絆、努力のような尊いとされるもの(一応忍者にも絆はあるが、極道はそれが顕著)を使って戦うため、「頑張って!」と「くたばれ!」が同時発生するという摩訶不思議な現象が起きています。

 しかしその一方で、被害者意識全開の彼らの抱える苦しみや人間臭さは、自身にもありえたものかもしれないから、我々は彼らを憎み切れないんだろうなと考えています。作中の最たる例である『孤独』を力に変えられたかどうかが忍者と極道の両陣営を分けるラインとなっているのでしょう。今のところ忍者か極道にマジ切れしている読者は二人三人くらいしか見かけません。


②愛ある最期

 『忍者と極道』はとんでもない描写に反して、人の命が軽い、のに重いタイプの作品です。メインの帝都八忍や破壊の八極道もその限りではなく、既に何名か死亡者が出ています。両陣営はキャラクター性をよく対比されていますが、彼らは輪から外れた存在であること以外にも共通していることがあります。それは、『笑って死ぬこと』です。いくらルビやビックリ人間描写でふざけ倒しても『忍者と極道』は真摯にこの点を描きます。

 どんな善人/悪人であろうと、前途有望であろうとやるべきことが完遂できた、最期にあなたと話せてよかった、だから悔いなんかあるものかと両陣営はその命を最後まで燃やし尽くし、散っていきます。彼らの仲間同様、読者にとっても登場人物の死は悲しいものでありますが、陰鬱さを感じられず、彼らの人生にむしろ拍手を送りたくなるのはそのおかげでしょう。

 私は苦しみながら生き続けることの意味とはなんだろうかと時折考えてしまうことがあり、作中で示される『笑って死ぬため生きる』という最期を見据えたアンサーにひどく感銘を受けました。『忍者と極道』は推しの最高の終わりが見たい方にもオススメです。

 そして、先述した主人公紹介にある通り、原因こそ違えど忍者(しのは)くんと極道(きわみ)さんは『笑えない』男たちでもあります。気に病むほど顔が笑ってくれない忍者(しのは)くんと感情を理解しないまま偽物の笑みを浮かべる極道(きわみ)さん。交流を通じて互いに感じる価値は高まっていき、変わることのなかった二人に待つ悲劇は変わらずとも、確かに変化の兆しが見えようとしています。笑えない二人は、最期に笑って死ぬことができるのか。これも『忍者と極道』の見どころです。

結びに

 二大勢力の死闘という昔ながらの題材でありながらここまでオリジナリティをふんだんに発揮し魅力たっぷりに描く本作は本当唯一無二の作品です。絵や題材に関係なく、この作品独自の熱さを皆様にも感じ取っていただきたい、どうか生首を見るとショック死するだとかそんなことがなければ触れてほしいと思い、この記事を書くに至りました。他の何よりも優先して読めとは言いませんが、外伝も読めて2巻の重版が決定し3巻も来月発売される今が『忍者と極道』を読むいい機会の一つであることは間違いなく断言できます。とりあえず、最初のリンクから読んでいただければと思います。

(おまけの新規読者お得情報)                     

 コミックDAYSはとんでも幅広ウェブコミック配信サイトでありますが、アプリも配信されています。アプリを初めてインストールした状態であれば無料チケットが多数配布されます。つまり単行本を買って残りをチケットに使えばかなり追いつけるということです。また、単話を買うとDAYSで配信される電子版単行本の値段がそこから差し引かれます。興味を持った方はぜひ参考に。