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戯れうたCOMPLEX(02)

オーボエの開幕告げしAの音ホールを満たし静かに沈み
(2024/07/02)

中学二年の授業で聴いたスメタナの『モルダウ』(今は『ヴァルタヴァ』と呼び直されている)に魅入られて以来、私はクラシック音楽を鑑賞するようになった。働けていた頃は、悪友たちと連れ立ってコンサート・ホールに出かける予定をよく組んでいた。近年ではつき合うこともなくなってしまったが、出かけているうちにその二人は夫婦になった。

コンサートに出かけるのを再開したのは、東日本大震災のあった2011年の夏に、アマチュア・オーケストラ(以下、アマオケとする)のコンサートが地元ホールであってからのことだ。Twitter利用者たちで編成された「粒谷区」(つぶやく)オーケストラによるベートーヴェンとチャイコフスキーの交響曲第五番のコンサートで、確か「五番なう」と冠されていたと思う。この時に私は、アマオケでも十分楽しめるものだなと感じ入ったと思う。以後、私はしばしばアマオケのコンサートを選んでは出かけていくようになる。

実はこの「五番なう」に出かけられたことは、単にアマオケのコンサートにしばしば行くようになるきっかけとなっただけではない。それまでの私は、精神疾患を理由に部屋で過ごしていることが多かったのだが、これ以降、外に出る理由を見つけるのを厭わなくなったのだ。その意味では、正しく「回復」のきっかけであったのだと言ってよい。

クラシックのコンサート、と言っても私はもっぱらオーケストラのコンサートに出かけていて、室内楽やオペラ、あるいは声楽やら独奏楽器のリサイタルに出かけたことはほとんどない。そのオーケストラ・コンサートでは、壇上に楽団員が揃ったあとでコンサート・マスターあるいはコンサート・ミストレルが登場する。客席も壇上に集中し始め、静寂がホールを満たす。

やがてオーボエが「ラ」の音(=Aの音)を奏で、オーケストラ全体の音合わせが始まる。私はこの時が好きなのだ。ホールを満たす静寂には、これから始まる演奏への期待も入り混じっている。期待と緊張に満ちた静寂の中、指揮者が拍手で迎えられて、コンサートが始まる。それは、私の新しいページへも連なっていく。

人生の扉を開くコンサート妙なる調べいのちのリズム
(2024/01/05)


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しょうじ@マチナカ書房
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