
戯れうたCOMPLEX(16)
いぶし銀タクトが冴える老指揮者ベートーヴェンの偶数番号
(2025/01/18)
1981年に87歳で亡くなったカール・ベームという指揮者のCDボックスから、ベートーヴェンの交響曲全集を聴き始めた。収録当時77歳だったから、上のとおり「老指揮者」と言っていいだろう。彼はモーツァルトやベートーヴェン、ブラームスといったドイツ・オーストリア圏の作曲家が得意だった。シンフォニーはもちろん、オペラも振る(もっとも、この時代の指揮者としては、「シンフォニーも振る」と言うべきだが)。この全集は、名盤としてつとに知られているウィーン・フィルとの録音である。
ベートーヴェンは、よく知られているように九つのシンフォニーを遺した。そのどれもが優れて個性的であり、同時に名作である。特に知られているのは、「運命」「田園」「合唱付」「英雄」といった「愛称」がつけられているもので、それらは奇数番号であることが多い。今書いた順では、それぞれ五番・六番・九番・三番である(第五番を「運命」と呼んでいるのは、ほとんど日本だけらしいことについては掘り下げない)。一方の偶数番号のシンフォニーは、知られていないのではないし、ましてや駄作なのでもない。単に「愛称」が付いていないだけのことであるのだが、後回しにせずにぜひ聴いてみてほしいと思う。
どういう理由かは知らないのだが、彼のシンフォニーは大まかに、英雄的な奇数番号と、豊かなメロディラインが美しい偶数番号という「傾向」が見て取れる。奇数番号は、「盛り上がる」ので「ウケ」はよい。若さやパワーがものを言う場合もある。しかし偶数番号は、それら「だけ」では足りない何かがあるのだと思う。ベームは、その偶数番号も得意とする名指揮者であったのだ。
相和して共に集いし師の元に調べ奏でむサイトウ・キネン
(2024/07/11)
「日本を代表する」と冠されてた小澤征爾さんが昨年亡くなった(2024年2月6日)。彼の功績は多々あるのだが、秋山和慶さんと共にサイトウ・キネン・オーケストラを組織したことが挙げられるだろう。この「サイトウ」というのは、両名の師匠である齋藤秀雄さんのことである。齋藤さんから受けた薫陶に報いたい一心で集まったトップクラスのプレイヤーたちで組織されたのがこのサイトウ・キネン・オーケストラであって、数々の録音も遺されている。このオーケストラには、齋藤さんを直接には知らない世代のプレイヤーまでも集っているが、それは小澤さんの人徳もあってのことだろうと考える。
人と人とのつながりのうちでも、師弟関係というのは語りにくいものだ。ともすれば、古臭く、人を縛るものと捉えられてしまう。しかしこのオーケストラには、その師弟関係が光を放っているのである。ここでの師弟とは美しく、人を魅了するだけでなく、導いてくれるものであるとも思っている。
【お試し版pdfを配布しています】
販売サイト「BOOTH」にて、「戯れうたCOMPLEX」バックナンバーを書籍データ化のうえ、販売していく予定です。24/01/16より無料お試し版を公開しています。よろしければダウンロードなさってみてください。
いいなと思ったら応援しよう!
