見出し画像

【読書会】宮本輝『流転の海』を読む⑦~『地の星』第1章

こんにちは。

この8月29日(月)より、宮本輝さんの『流転の海』全巻読書会は、第2部の『地の星』に入ります。今回は、その第1回分のレジュメとして、第1章の分をお届けします。なお、第1巻の『流転の海』分のレジュメは、以下のリンクからご覧いただけますので、適宜ご参照ください。


第1巻まででは、50歳にして初の実子・伸仁を授かった主人公の松坂熊吾が、終戦後大阪に戻ってきて、事業の再建に奔走する場面が描かれていきます。その中での出会いや反目、裏切り、また、妻・房江との出会い等が綴られていきました。事業は軌道に乗りますが、熊吾は妻子の健康のため、故郷で4~5年を過ごすことを決意して大阪を発つところまでが描かれます。第2巻『地の星』は、昭和26年・故郷の愛媛県南宇和郡一本松村から始まります。

概略

①伸仁と出かけた先で、上大道(わうどう)の伊佐男が熊吾に絡んでくる。少年期に怪我をさせられたことを恨んでいる。
②伊佐男の件を、生家にいる長八じいさんに尋ねる。熊吾の母・ヒサとの顛末が綴られる。
③中田牛と魚茂牛との闘牛があることを知る。伊佐男がからんでいるらしい。
④勢子(せこ=牛を追い立てる役)が、妹・タネに子を産ませた政夫であることを知る。熊吾は、タネの子らが父を喪うことを危惧し、この闘牛を「ご破算」にすることを算段し、魚茂牛を撃ち殺す。

ポイント

①母・ヒサは、夫の亀造を亡くしたあと、50を過ぎて再婚すると言い始めた。熊吾は激昂する(15)

②「その母への思いは、いまだに熊吾の中でくすぶっていたが、同時にそれが松坂熊吾という男の深い部分における病理を成していることを、熊吾は気づいていなかった」(15)

③「あいつ(=伊佐男)は人間の格好をした蛭やっちゅう者(もん)が何人かおるけん」(18)

④「御影の時代にはまるで無縁だった嫁姑の問題に悩んでいるらしい房江の、いっそう精気の萎えたような容姿」(19)

⑤「とにかく、いなかというところは、保守性とか閉鎖性などという言葉でひとくくりにしてしまえない底意地の悪さがうごめいている(略)己の郷里を決して愛していなかった。それどころか、ほとんど憎悪していたと言ってもよかった」(20-21)

⑥「第二次大戦が終結してすでに六年が過ぎようとしているのに、この南宇和の一本松周辺だけでも十名近い男たちが戦死のしらせもないまま、戦地から帰っていなかった。その数は、日本全国ではどれくらいになるのだろう・・・」(23)

⑦「わしはこの郷里に蟄居したんやあらせんがなァし。わしは仕事をしに来たんや。五十で授かった、病気ばっかりしとる息子を、丈夫な体にするっちゅう仕事をしに来たんじゃ」(24)

⑧「おそらく今後、弟も妹も持つことのないであろう伸仁にとっては、親や叔母以外に最も近い血族となるこの二人の従兄弟は」(26)

⑨「この瞬時に湧き出た二つの考えは、いみじくも熊吾がタネに言ったのと同じく、熊吾自身のどうしようもない病気だったのである」(34)

⑩「どんな魔がわしの身に入りよったのか、他人の牛を撃ち殺すなんて(略)わしはまだ少年みたいな見栄をはっちょる」(43)

⑪「世の中というものは、この天と地が、いっしょくたになっちょるようなもんじゃ。お前はまだチビ助やが、そんなお前の中にも、この空よりもでっかい宇宙がある」(46)

        *       *       *

今回はここまでといたします。最後までお読みくださり、ありがとうございました。それではまた!

追記(実施報告と、ややネタバレ)

今回から、実施後の簡単なご報告を「追記」することにいたしました。ご参照くださいますと幸いです。

①松坂熊吾は、カラマーゾフやジャン・バルジャンに匹敵するような人間像として、今後語られるのではないか。

②「カラマーゾフ」とは「カルマ(業)」+「マーゾフ(塗られた)」に由来。つまり、「業にまみれた」という意味。松坂家の「業」の何を、伸仁が受け継いでいくのか。

③熊吾と、その母や妹が共通して抱えている「病」=「業」。

④房江の「不在」。一本松での「平穏」な2年が破れた第1章の幕開け。

⑤牛のアカと、魚茂牛の射殺。幼少期を象徴するアカを撃ち殺すということの意味。何が幕を下ろし、何の幕が開いたのか。

※思い出したことがあれば、順次追記したいと考えています。






最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。ときどき課金設定をしていることがあります。ご検討ください。もし気に入っていただけたら、コメントやサポートをしていただけると喜びます。今後ともよろしくお願い申し上げます。