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[1分短編SF小説]HEAVEN -我殺さず-

あらすじ

西暦3,000年──天空都市ヘブンシティー。そこでは暦年3,000年を祝うカウントダウンイベントが開かれていた。ヘブンシティーを冠する空中に浮かぶコロニーである人口8,000万人の大気圏国家ヘブンでは人工神と人工天使たちの営みの中、天国の様に完璧に近い世界が広がっていた。

──テロリストと戦う事を仕事とする、対対テロリスト暗殺者カウンターアサシンの21歳の女性カエルムは黒い髪と目、透き通る白い肌、くっきりした鼻筋、ぷっくら膨らんだ唇の美貌の暗殺者だった。カエルムは大統領暗殺を阻止する為講演が行われるヘブンシティーに向かう。

HEAVEN -我殺さず-

カエルムの脳内で声が響く──暗殺者カエルムよ。大統領は狙撃に備えて屋内での講演に切り替えた。今回のテロリズム阻止任務は中止だ。帰宅せよ。
自宅までの量子転送ゲートを開く。人工天使が量子扉を設置した場所にはテレポート出来る。カエルムの場合、自宅だ。
カエルムは家に帰った。仕事は途中で終わったが往路の『押し屋』との戦闘などでどっと疲れていた。カエルムはベットに横になると眠ってしまった。
カエルムの家には小さな蜘蛛が3、4匹住んでいる。蜘蛛の主人と妻と赤ちゃん蜘蛛の子供たちだ。蜘蛛たちはよくカエルムを気にせず家中を飛び回るが無害なのでカエルムはそのままにしていた。
翌日カエルムは泥の様に眠っていた。朝ホログラム式置き時計目覚ましが鳴り目覚ましを止める為に無意識にベットから飛び起きる。目覚ましを止めベットに再び戻るところでベットの端に蜘蛛が丸まっているのを発見した。蜘蛛が丸まって死んでいた。
「知らない間に踏んでしまったのかしら。なんて事を...」
カエルムは蜘蛛を摘み上げ飼っている観葉植物の土に還した。煙草を吸っている時に窓から日が指す部屋の日向にさっきの蜘蛛より小さい蜘蛛がもう1匹いる事に気付いた。さっきの蜘蛛の妻の蜘蛛だ。カエルムは呟いた。
「奥さんか。」
カエルムは考えた。自分は今まで無数の敵を倒してきた。しかしその敵にも家族がいたのだ。カエルムは決断し人工天使ピースエンジェル量産型を呼んだ。ピースエンジェル量産型がホログラムで現れ「どうした?麗しき暗殺者マダムカエルム。」と問いかける。カエルムが返事する。
「今日蜘蛛を1匹死なせてしまった。私の方を見つめる残された雌蜘蛛を見て決めた。これからは、正当防衛を除いて殺しを止める。生捕りにして連邦警察に引き渡す。」
ピースエンジェル量産型は「そうか。蜘蛛が教えてくれたか。ならば君に新たな名を与えよう『不殺者』カエルムだ」と返答する。
カエルムはじっと動かない部屋の雌蜘蛛を見つめる。雌蜘蛛は多眼の4つある目でカエルムの事を恨めしそうに哀しそうにじっと見て動かずにいた。カエルムは思った。ごめんなさい...貴方に誓うわ。

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