本屋発注百景vol.3 書泉グランデ
本の街・神保町にある大型書店
独立書店や街の本屋以外にもBookCellarは利用されている。それは例えばナショナルチェーンだったり、ローカルチェーンだったりするのだが、今回訪れたのは神保町の書泉グランデ。本稿をお読みの方はご存知かもしれないが5階(2023年9月改装)にある鉄道関連コーナーは鉄道ファンに広く知られている。
そしてそのほかにも占いやミリタリー、数学・理工、ライトノベルに特撮・映画・音楽などのカルチャー、コミック、アイドルや格闘技・スポーツなど、趣味人のための店として振り切った品揃えとイベントが特色の店である。
(近所には総合書店として三省堂書店、文芸・人文の東京堂書店、棚貸し本屋PASSAGE by ALL REVIEWSがあり、神保町は実は古書店だけでなく新刊書店という切り口で見ても楽しい街だ)
話を聞いたのは数学愛好者たちの間で聖地とも呼ばれている4階の数学・理工コーナー担当(4階フロア全体も見ている)の布川路子さんだ。
数学愛好者にとっての聖地
――一度取材させていただいていますし何度も来て全フロアをざっと見て回るのですがいつもすごい品揃えですよね。僕は数学書のことはほとんど知らないのですが教科書的なものから、ZINE界隈で一時期話題となった暗黒通信団のZINE、さらには博物フェスのグッズなどこんなにも広く、奥深い世界なのかと圧倒されます。
布川 中には著者に直接お願いしたり、本来は会員さん向けのものを「書泉グランデさんならば……」と取り扱わせていただいているものもあるんですよ。
―――道理で見たこともない本が多いわけですね。布川さんはいつからいまの担当なんですか?
布川 1996年に入社して以来、27年間ずっと書泉で働いています。コミックや文芸、スポーツ、コンピューター、ビジネスなどいろいろなコーナーを担当してきましたが、数学・理工コーナーに配属されたのは2010年の冬頃だから11年くらいですね。
―――長いですね。数学は好きだったんですか?
布川 それが子供時代から算数は苦手で、配属されたときも本当はやりたくなかったんですね。ですが、分からないなりにX(旧 Twitter)アカウントの運用を頑張ったり(書泉_MATH @rikoushonotana)、フェアを積極的に仕掛けることで、業界を盛り上げる役割の端っこを担わせていただけるようになりました。2011年に開催した「数学者が読んでいる本ってどんな本? 数学者○○先生の本棚フェア」は本にもなっているんですよ。
―――すごいですね!
布川 そのあとも20回以上開催しました。そのご縁で数学者の先生方とも知り合わせていただいて講演会やサイン会を開催しています。
神保町の新刊書店に聞く「発注、どうしてる?」
書泉グランデの一日
―――選書に棚作りにフェアやイベント開催とお忙しいかと思いますが、一日の仕事の流れはどのようなものでしょうか?
布川 まず。9時に出社して、メトロシステムで前日の売れ行きを見つつ発注をします。西村書店(※1)さんや弘正堂図書販売(※2)さんに頼めば、在庫があるものならその日の14時便で店に届きますし、急ぎのときは店の裏にあるので電話して直接取りに行くこともあります。
少し前に西村書店さんから仕入れられる本があったのでBookCellarから注文したら、通常通り、1、2日で入荷できました。
神田村を利用していない出版社の本の場合は版元ドットコムで注文票をダウンロードしてPCからFAX注文します。西村書店さんなど当店と取引のある取次から仕入れられる場合はBookCellarから注文することもあります。
―――新刊についてはどうしていますか?
布川 一番書誌データが多いイメージがあるBooksPROで近刊情報を見ています。でも、わざわざ出版社にメールで注文しないといけないのが面倒ですね。
―――発注業務のあとはどうされていますか?
布川 10時頃から朝の荷分け(日販の配本と、既刊・注文品が主)、宅急便の開封、朝礼を行って11時にオープンです。
11時から14時、15時までは荷分けした本の棚出しや客注の電話をして、昼過ぎには日販からの午後便が届くのでそこに入っていた新刊のSNS投稿を接客をしながら進めます。
お弁当を食べて、15時から18時の退社時間まで、西村書店さんなど神田村からの午後便が届くのでそれの荷分けと棚出し、SNS投稿です。
―――ネット通販やイベント関連のお仕事をはいつされていますか?
布川 合間を縫ってですね。特にネット通販サイトへの商品登録は各担当者に任されているので大変です。
―――独立書店でもネット通販の登録や発送は大変のようです。
布川 当店の場合、発送は別ですけどね。土曜日の休配日にはBooksPROの近刊情報を見ながら、発注するものはネットにも登録します。ですが、配本がないときもあるので、その場合は別途注文します。
―――注文したのに入荷されないときもあるんですね。
布川 大取次からの配本の場合は最終的な出荷の判断は取次側が決めるのでそういうこともあるんです。例えば、著者がSNSで宣伝したとして当店で注文していたとしても配本分にその本がなかった場合、発売日に店になくて売り時を逃すこともあります。そんなときはAmazonに流れてしまっている人もきっと多いでしょうね。
―――前回の今野書店さんではFAXの注文票を確認するのが大変だと聞きましたが布川さんはどうですか?
布川 私の場合はFAXは殆ど見ていませんね。理工書はコミックなどと違って拡材も特に無いことが多いですし、近刊についての情報はBooksPROや、X(旧Twitter)で出版社のアカウントからの発信や、数学者の方々などから集めています。そうしていると著者先生より早く新刊発売のポストをしてしまうこともありますね。そういうときは気まずい思いをすることもありますが(笑)いかに情報を早く出すかは常に気をつけています。
意外と便利! 出荷連絡メール
―――BookCellarはどういった経緯で使うようになったのでしょうか?
布川 元々トランスビューに電話注文していたのですが、あるときBookCellarのことをお聞きして登録して使うようになりました。当店で一番初めに登録したのでアカウントが私のメールアドレスになっています。出荷連絡のメールが飛んでくるのは親切で嬉しいですね。他の棚の担当者が頼んだ本のメールも飛んでくるのもおもしろいです。
そのほかにも4階にはミリタリーの棚もあるので、ミリタリーの担当者に「あの本、お気に入りに入れといたから頼んでおいてね」と話すということもありますね。
―――BookCellarを複数人で利用するという例はなかったので興味深いです。出荷メールが良かったということですが逆に不便なことはありますか?
布川 例えば大取次と直取引は対応しているけど西村書店には対応していない出版社を始めたり、八木書店さんは対応しているけど弘正堂さんには対応していない、などが分かりやすく表示されてくれると嬉しいです。
というのも、以前、とある出版社の本をBookCellar経由で発注したのですが当店の帳合取次を通して仕入れることが難しいことがあとから分かり「直取引でしたら……」と直接メールをいただいたのですが、当店は直取引をするためにはあらたな窓口を作るために会社からの承認が必要でして、結果として注文しなかったということがありました。
―――書泉グランデさんで取引している取次から仕入れられる出版社のみ表示できたら便利ということですね。
BookCellarでこの本発注しました
―――BookCellarで発注した本の中で印象的だった本をお願いします。
布川 数学・理工書ではないのですが、私は同じ4階(取材時。2023年9月時点で地下フロアに移動)のミリタリーコーナーにある『弾道弾』『核兵器』『放射線について考えよう。』(すべて明幸堂)はよく動きますね。どれも多田将さんの本で、特に『核兵器』は5,400円(税別)と高額なのに何度も入荷しています。サッカー関連書の『無冠、されど至強』(ころから)もよく動きます。
―――書泉グランデさんならではの売れ方ですね。最後に、お知らせしたいイベントなどありましたらお知らせください。
布川 10月13日(金)に『関孝和全集』刊行記念トークイベント「関孝和の数学:一般論の追究」を7階で開催します。日本独自の数学・和算を、世界に通じるレベルまで高め、死後、算聖とよばれた数学者関孝和の独創性についてお話いただきます。是非ご参加ください。
取材日:2023年8月19日
取材・文・写真 和氣正幸
書泉グランデで売れた本
『弾道弾』(明幸堂)
『核兵器』(明幸堂)
『放射線について考えよう。』(明幸堂)
『無冠、されど至強』(ころから)
※『数学者が読んでいる本ってどんな本』(東京図書)は版元品切れ中
BookCellarをご利用いただくと、書泉グランデ布川さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
注文書はこちら。
https://www.bookcellar.jp/orderlist/573829/
本屋発注百景とは
本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。本屋発注百景は、独立書店、まちの本屋、本屋+αの業態、チェーン系書店まで、様々なお店の「発注」にクローズアップする連載企画です。取材は、独立書店ウォッチャーであり、ライター・書店主の顔をもつ、和氣正幸さんにお願いしました。「本を仕入れる」という単純なようで奥の深い営みを続ける6つの書店の風景をお伝えできますと幸いです。