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ACBDケベックBD賞2024が発表されました!

フランスのバンド・デシネの批評家とジャーナリストの協会ACBD(l’Association des Critiques et journalistes de Bande Dessinée)による「ACBDケベックBD賞2024」のグランプリが2024年10月16日に発表されました。

ACBDケベックBD賞は、フランス語圏であるカナダ・ケベックの作家によるバンド・デシネ作品を表彰するマンガ賞。出版国がケベック以外の作品でも作者がケベック在住のアーティストであれば対象となります。

では2024年のノミネート作品とグランプリを見ていきます!

最終ノミネート

Mourir pour la cause(Are You Willing to Die for the Cause)

作:Chris Oliveros、発行:Pow Pow

作者のクリス・オリヴェロスはケベック出身なのだそうですが、上記のPow Powのページを見ていると翻訳者のクレジットが入っていることから、Drawn & Quartelyから刊行された英語版がオリジナルなのかなと思います。

これ、アイズナー賞2024BEST REALITY-BASED WORKにもノミネートされていてちょっと気になっていた作品です。
カナダの歴史でも物議をかもした、フランス系カナダ人によるケベックの独立運動を主張する左翼テロリスト集団、ケベック解放戦線(FLQ)をテーマにした作品。1963年、モントリオールの裕福な地域で数十個の郵便ポストが手作り爆弾で爆破された事件を発端に、1970年までに死傷者が出るテロリスト活動をおこなった。ケベック出身の作家クリス・オリヴェロスがその歴史を描き一般的な誤解を払拭しようとする試み。

Botanica drama

作:Thom、発行:Pow Pow

数十億年の間、毎日昇り続けた太陽は、前夜の天体パーティのやりすぎから回復し、ベッドにとどまるという運命的な決断を下します。地球が暗闇に包まれ、花のフィロメーヌから死神まで、誰もが悲惨な結末に直面します。永遠の冬に閉じ込められ、影から現れた謎の生き物に囲まれています。太陽を再び輝かせることはできるのでしょうか?
不思議な世界観と不思議なキャラクターのサイレントコミックのようです。

Visions

作:Alexis Mandeville、発行:Front froid

作者アレクシス・マンデヴィルのデビュー作。とあるマンガ家が未来からの来訪者から成功間違いなしのSF小説を持ちかけられる。その小説を出版すれば現実になると言われるが…。1950年代のパプルフィクションのオマージュ。

興味深いのは出版社のFront Froid。マンガの出版だけでなく、ワークショップやアーティスト奨学金などマンガ家育成にも力を入れているよう。

Le petit ramoneur de Québec Misère noire

作:Cédric Loth、発行:Moelle graphik

タイトルは直訳すると「ケベック州の小さな煙突掃除人 哀れな黒人」。
気まぐれで笑いながら古いケベックの建物の屋根で煙突掃除をしている小男の物語。気のいいガブローシュ(『レ・ミゼラブル』に登場する路上に暮らす少年たち)のような容姿を持ち、最大の敵は町の屋根の雪降ろしをする若いアイルランド人。首都の典型的な通りを舞台に、シャトー・フロンテナック(ケベックシティのランドマークになっている伝統ある高級ホテル)の部屋を通って、古き良きケベックへと読者をいざなう。

グランプリ

Je pense que j’en aurai pas

作:Catherine Gauthier、発行:XYZ

タイトルは直訳すると「何も持たないと思う」。何を持たないかというと「子ども」のことで、子どもを持たない選択をした女性をテーマにした作品。産む意思がない、生殖能力の問題、タイミングの悪さなどさまざまな理由から子どものいない女性たちの証言を交えながら、さまざまな角度から母性にアプローチする。
鉛筆で描かれたとてもリアリスティックで写実的なビジュアルが印象的。
出版社のXYZは小説がメインのようですが、一部グラフィックノベルも刊行しているようです。

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さて、みなさん、いかがでしたでしょうか?
ACBDケベック賞を見ていていつも思うのですが、たった5作品といえどめちゃくちゃバラエティ豊かな作品がラインナップされていて大変興味深い。
あとACBDケベック賞は2021年から見てきて、これまで1作品くらいはケベックの作家がフランコ=ベルギーの出版社から刊行された作品が入っていたものですが、今年は5作品ともにケベックの出版社によるものでした。

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ケベックといえば、現在クラファン中の『男の皮』の翻訳をしてくださる井田海帆さんはケベック好き!
ケベックのバンド・デシネについてお話をお聞きしましたので、こちらの動画もぜひご覧ください!

フランスの痛快ラブコメマンガ『男の皮』のクラウド・ファンディングは2024年12月16日までです!
ぜひこちらもチェックしてみてください!

参考資料:過去の受賞作品


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