ACBDコミック賞2024グランプリが発表されました!
フランスのバンド・デシネの批評家とジャーナリストの協会ACBD(l’Association des Critiques et journalistes de Bande Dessinée)による「ACBDコミック賞2024」のグランプリが2024年9月12日に発表されました。
「ACBDコミック賞」は2019年に創設されたフランス語に翻訳されたアングロサクソン文化圏のマンガ作品を表彰する賞です。
「ACBDコミック賞2024」は2023年8月から2024年7月にフランス語圏で出版された作品を対象にしています。8月18日にノミネート5作品が発表され、その中からACBDメンバーによって最優秀賞が選出。10月にフランスのサン・マロで開催されるケ・デ・ビュル・フェスティバル(le festival Quai des Bulles)で授賞式がおこなわれました。
ちなみにケ・デ・ビュル・フェスティバルは、フランスではアングレーム国際漫画祭に次ぐ大きなイベントです。
では2024年のノミネート作品とグランプリを見ていきます!
(以下、書名がフランス語と英語で異なるものは、英語のタイトルをカッコ書きで併記しています)
最終ノミネート5作品
Au-dedans(In: A Graphic Novel)
作:Will McPhail、翻訳:Basile Béguerie、発行:404 Graphic(原書はMariner Books)
The New Yorkerのアーティストであるウィル・マクファイルの『In: The Graphic Novel』。人とつながることができない若いイラストレーター、ニックは、近くの病院に勤務する皮肉屋で明るいガン医師レンと出会うことによって物語が始まる。人生の苦痛と孤独をカラーとモノクロで描く半自伝的な作品。
2022年アイズナー賞ノミネート。2023年のイタリアのマンガ賞でもよく見かけた作品です。2024年の「ACBD2024年夏の必読10選」にも選ばれていました。
Eerie & Creepy présentent Alex Toth
作:Alex Toth、翻訳:Doug Headline、発行:Delirium
1960年代に創刊されたカルト的なホラー誌『Eerie』と『Creepy』の中からアレックス・トスの作品をフランスの出版社Deliriumオリジナルで完全収録した選集。
Doctor Strange Fall Sunrise
作:Tradd Moore、翻訳:Benjamin Viette、発行:Panini Comics
『シルバーサーファー:ブラック』のトラッド・ムーアによるドクター・ストレンジもの!
It’s lonely at the centre of the Earth
作:Zoe Thorogood、翻訳:Maxime Le Dain、発行:Hi Comics
2023年のアイズナー賞でRuss Manning Promising Newcomer Awardを受賞。同年のアイズナー賞、ハーベイ賞にノミネートしたZoe Thorogoodさんの自伝的な作品。コロナ下にあるマンガ家の6ヵ月の苦悩を描く。
Victory Parade
作:Leela Corman、翻訳:Jean-Paul Jennequin、発行:Çà et là
第二次世界大戦中、ブルックリン海軍工廠で働く女性ローズと、彼女が引き取ったドイツの強制収容所から逃れたユダヤ人移民のルースの目を通した、愛と喪失、トラウマの物語。
グランプリ
以上5作品の中からグランプリに選ばれたのは……
Au-dedans(In: A Graphic Novel)
世界的に評価の高そうな作品なので少し気になります。
選外だけど注目作品
最終ノミネート5作品には惜しくも残らなかったのものの、選考委員会で注目すべき作品として11作品が挙げられていましたのでこちらも簡単に紹介します。
Howard le canard 1973-1977
作:Steve Gerber、Gene Colan他、翻訳:Benjamin Viette/Quentin Belmekki、発行:Panini Comics
マーベルのキャラクター、ハワード・ザ・ダックのフランスで編集された総集編のようです。
Kroma
作:Lorenzo De Felici、翻訳:Benjamin Rivière、発行:Delcourt
イタリアのParlmarès di Comicon Napoli 2024(コミコン・ナポリ2024)において、イタリア語で出版された作品におくられるPremi Micheluzzi(ミケルッツィ賞)のMigliore Serie italiana(最優秀イタリアシリーズ)を受賞しています。オリジナルはImageから出ているみたいなのですが、作者さんがイタリアの方なんでしょうか?
L’œil d’Odinn(Odinn's Eye)
作:Joshua Dysart、Tomas Giorello、Diego Rodriguez、翻訳:Loup Salles、発行:Bliss Editions
Bad Idea Comicsというレーベルの『Odinne’s Eye』という作品みたいなのですが、リトルプレスっぽいコミックなんですかね? もしご存じの方がいれば教えてください。
Love everlasting tome 1
作:Tom King、Elsa Charretier、Matt Hollingsworth、翻訳:Arnaud Tomasini、発行:rban Comics
これ私も買ったばかりです。往年のロマンスコミックの世界で悲恋を繰り返すループにハマった女性のストーリー。ハーベイ賞2024やアイズナー賞2023にもノミネートされていました。
Murmures des sous-bois(Wildful)
作:Kengo Kurimoto、翻訳:Fanny Soubiran、発行:Rue de Sèvres
ポピーのお母さんは、祖母が亡くなり意気消沈してしまった。しかたなくポピーは犬のペッパーと外に散歩にでかけるが、そこで思わぬ友達に出会う。ポピーはお母さんを元気づけてあげることができるのか。子ども向けのマンガ。作者のKengo Kurimotoさんはマンガのほかアニメ、ゲームなど多岐にわたって活躍しているアーティストさんのようです。
Le paradis, pas l’enfer(Heaven No Hell)
作:Michael Deforge、発行:Atrabile
作者のMichael Deforgeはカナダ在住のマンガ家で、アングレーム国際漫画祭2022では、『Familiar Face』という作品で果敢賞(Prix de l’audace)を受賞しています。あまり北米では聞かないように思うのですがフランスでは人気の作家ということでしょうか?
Le passeur(The Giver)
作:Philip Craig Russell、原作:Lois Lowry、翻訳:Patrick Marcel、発行:Phileas
ロイス・ローリーのディストピア小説『ギヴァー 記憶を注ぐ者』をP.クレイグ・ラッセルがコミカライズ。何不自由のない近未来、ただ何か重要なものが足りない。すべての子どもが職業を授けられる「12歳の儀式」の日、12歳の少年ジョナスはコミュニティでただ一人の「記憶の器」に任命される。
Sacrifice tome 1
作:Rick Remender、Max Fiumara、Dave McCaig、翻訳:Benjamin Rivière、発行, Urban Comics
鳥人間の話みたいですね。4人の子供と両親の、完璧と思われた家族に何事かが起きる…というようなお話でしょうか。
Scorchy Smith et le génie de Noel Sickles(Scorchy Smith And The Art Of Noel Sickles?)
作:Noel Sickles、翻訳:Marie Renier、発行:Galerie Barbier
ちょっと自信がありませんが『Scorchy Smith And The Art Of Noel Sickles』のフランス語版でしょうか。「スコーチ・スミス」は1930年から1961年まで続く、パイロットを主人公とする冒険ものの新聞マンガシリーズ。1933年から1937年まで作画を担当したノエル・シックルズによって人気が高くなったそうです。そのシックルズの作品を集めた選集のようです。
The Shaolin Cowboy tome 4
作:Geoff Darrow、Dave Stewart、翻訳:Lorraine Darrow、発行:Futuropolis
日本語版も刊行されたジェフ・ダロウとデイブ・スチュワートの『少林カウボーイ』の4巻です。フランス語版の4巻が英語版のどれにあたるのかはわかりません。
Wonder Woman Historia
作:Kelly Sue DeConnick、Phil Jimenez、Gene Ha、Nicola Scott、翻訳:Thomas Davier
アイズナー賞2024でもBEST GRAPHIC ALBUM—REPRINTを受賞していましたね。
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ACBDという団体のカラーもあるのでしょうが、英語圏の古典作品がたくさんフランス語に翻訳されてノミネートされているなぁという印象です。もちろん新しい作品もたくさんフランス語に翻訳されているんだなと改めて感じるラインナップでした。ちょっとオリジナルがわからない作品もありましたが、英語作品であれば手に取りやすいと思いますので、気になる作品があったらぜひ読んでみてください。