アイズナー賞2024受賞作品が発表されました!
マンガ界のアカデミー賞と言われるアイズナー賞2024が、2024年7月26日夜(現地時間)、サンディエゴ・コミコンにて発表されました。
2023年1月1日から12月31日に発表された作品を対象に、32カテゴリーにわたってさまざまな作品、クリエイターが選ばれました。
ノミネート作品については以下の記事にまとめています。
以下では作品を中心にノミネート作品を見ていきます。筆者の備忘録代わりなのでスーパーヒーローものは弱いです。ご了承ください。
Best Short Story
“The Kelpie,” by Becky Cloonan, in Four Gathered on Christmas Eve (Dark Horse)
クリスマスイブの伝統的な怪談を4人(Eric Powell, Mike Mignola, Becky Cloonan and James Harren)の漫画家が描くアンソロジーの1作。
BEST SINGLE ISSUE/ONE-SHOT
Nightwing #105, by Tom Taylor and Bruno Redondo (DC)
1人称視点で読者がナイトウィングになりきれるという特別号です。
『ナイトウィング』はここ2,3年ほどアイズナー賞で注目されていますが、2023年のBest Continuing Seriesに続いての受賞ですね!
作者のトム・テイラーは『スーパーマン:サン・オブ・カル=エル』をはじめいくつか日本語訳されていますが、『ナイトウィング』も翻訳されてほしいですね。
BEST CONTINUING SERIES
Transformers, by Daniel Warren Johnson (Image Skybound)
BEST LIMITED SERIES
PeePee PooPoo, by Caroline Cash (Silver Sprocket)
60年代の古典的なアンダーグラウンドコミックを題材にした作品。陽気な『アートスクールコンフィデンシャル』(ダニエル・クロウズ作。テリー・ツワイゴフ監督によって映画化もされた)らしいです。2022年のイグナッツ・アワード優秀ミニコミック賞受賞。
号数も1から順番ではなくめちゃくちゃだったり、ノミネートされていたときも異色作の香りが漂っていた作品ですね。
BEST NEW SERIES
Somna: A Bedtime Story, by Becky Cloonan and Tula Lotay (DSTLRY)
1600年代のイギリスの静かな村、主人公のイングリットは魔女狩りに執念を燃やすローランドと結婚していた。村の名手が殺害され、犯人探しに躍起になっているとき、イングリットは謎の幽霊を見かけて自分がその人物に惹かれていることに気づく。超自然とエロスの混合。
この作品もノミネートのときから気になっていました。
BEST PUBLICATION FOR EARLY READERS
Bigfoot and Nessie: The Art of Getting Noticed, by Chelsea M. Campbell and Laura Knetzger (Penguin Workshop/Penguin Random House)
誰にも写真に撮られず家族に失望されたビッグフットと、どこにいっても注目されるネッシー。ありそうでなかったUMA(未確認生物)ふたりが出会う陽気で心温まるグラフィックノベル。
BEST PUBLICATION FOR KIDS
Mexikid: A Graphic Memoir, by Pedro Martín (Dial Books for Young Readers/Penguin Young Readers)
ペドロは彼のAbuelito(スペイン語でおじいちゃん)の話を聞いて育った。彼のおじいちゃんはメキシコ革命に参加した伝説的な人物。おじいちゃんが家族と一緒に暮らすことになったが、家はすでに8人の兄弟で大混雑。それほど喜んでいたわけではなかったが、おじいちゃんを家に連れて帰るためにメキシコへと向かうロードトリップで大切な体験をする。
今年のBEST PUBLICATION FOR KIDSはどの作品が受賞してもおかしくなさそうなくらい面白そうな作品ばかりでしたが、メキシコ系の少年が主人公の自伝作品『Mexikid』が受賞しました。
BEST PUBLICATION FOR TEENS
Danger and Other Unknown Risks, by Ryan North and Erica Henderson (Penguin Workshop/Penguin Random House)
2000年1月1日の真夜中、世界は終わった。科学技術のためではなく、魔法が原因で。数年が経ち、世界は一変する。魔法が支配する世界で人々はある意味幸せを享受していたが、新しい世界は不安定で、主人公のマルグリットとその相棒で犬のデイジーは何かをしなければ世界は混乱に陥ってしまう。ティリー・ウォルデン"Easily my favorite book of the year.”
ティリー・ウォルデンが推薦文を書かれていて気になっていましたが、これは読んでみたいですね。
BEST HUMOR PUBLICATION
It’s Jeff: The Jeff-Verse #1, by Kelly Thompson and Gurihiru (Marvel)
日本人作家グリヒルさんの作画が可愛い、Marvel Unlimitedの人気コンテンツ、陸ザメのジェフの単行本第2巻。
BEST ANTHOLOGY
Comics for Ukraine, edited by Scott Dunbier (Zoop)
BEST SHORT STORYでもこのアンソロジーの中の作品がノミネートされていた収益はウクライナからの難民支援に使用されるアンソロジー。
ちなみに表紙カバーはアレックス・ロス、ビル・シンケビッチ、デイブ・ジョンソン、アーサー・アダムスの4バージョンがあり、それぞれサイン本も販売されています。
BEST REALITY-BASED WORK
Three Rocks: The Story of Ernie Bushmiller: The Man Who Created Nancy, by Bill Griffith (Abrams ComicArts)
日本語では6代目の著者オリヴィア・ジェイムスの『ナンシー いいね!が欲しくてたまらない私たちの日々』が翻訳されているが、ナンシーの生みの親であるアーニー・ブッシュミラーの生涯と『ナンシー』の誕生を通じてマンガの歴史を紹介。
Bill GriffithはBEST WRITER/ARTIST、BEST LETTERINGにもノミネートされていました。
BEST GRAPHIC MEMOIR
Family Style: Memories of an American from Vietnam, by Thien Pham (First Second/Macmillan)
ベトナム移民ティエンの少年がアメリカに定住するまでの自伝。特に、最初の記憶である西瓜の甘味と魚の塩味、ベトナムから逃亡する際に海を漂流中に食べた食べ物の味、タイの難民キャンプで食べたイチゴやポテトチップス、アメリカにやってきてから食べたステーキ、クロワッサンといった、食にまつわる記憶を中心にたどる。ジーン・ルエン・ヤン『アメリカン・ボーン・チャイニーズ』、ティー・ブイ『私たちにできたこと』のファンにオススメ。
ベトナム系移民や難民の物語を「食」を通じて描くという点がとても興味深いです。
BEST GRAPHIC ALBUM—NEW
Roaming, by Mariko Tamaki and Jillian Tamaki (Drawn & Quarterly)
2009年の春休み、5日間のニューヨーク旅行に出かけた友人3人。予期せぬ恋愛感情が芽生えて、長年の友情のバランスが崩れてしまう。『GIRL』『THIS ONE SUMMER』に続くマリコ・タマキ&ジリアン・タマキのコンビ3作目。
マリコ・タマキはBEST WRITER、ジリアン・タマキはBEST PENCILLER /INKER OR PENCILLER/INKER TEAMも受賞し、3冠に輝きました。
日本語版も近日刊行予定です。
BEST GRAPHIC ALBUM—REPRINT
2作品が受賞しました。
Hip Hop Family Tree: The Omnibus, by Ed Piskor (Fantagraphics)
2024年に死去したエド・ピスコー。『ヒップホップ家系図』は2013年に全4巻中の1巻が出版されて以来、複数の版が発行され、14冊の単行本が出ていた。このオムニバス・コレクションには、140ページを超える追加資料とオリジナルの360ページを1冊にまとめたもの。2023年には日本独自編集版の『ヒップホップ家系図(1970s~1985)2色版』も刊行された。
Wonder Woman Historia: The Amazons, by Kelly Sue DeConnick, Phil Jimenez, Gene Ha, and Nicola Scott (DC)
BEST ADAPTATION FROM ANOTHER MEDIUM
Watership Down, by Richard Adams, adapted by James Sturm and Joe Sutphin (Ten Speed Graphic)
50年以上にわたって世界中の人に愛されたリチャード・アダムスの児童文学『ウォーターシップダウンのうさぎたち』のコミカライズ。
BEST U.S. EDITION OF INTERNATIONAL MATERIAL
Blacksad, Vol 7: They All Fall Down, Part 2, by Juan Díaz Canales and Juanjo Guarnido, translation by Diana Schutz and Brandon Kander (Europe Comics)
原書は『Blacksad Tome 7, Alors, tout tombe. Seconde partie』(フランス、Dargaud)
日本語版『ブラックサッドそして、すべて堕ちる[後編]』(大西愛子訳、ユーロマンガ)も刊行済み。50年代のアメリカを舞台にした黒猫探偵ブラックサッドの大人気ノワールシリーズ最新作。
BEST DIGITAL COMICにもノミネート。フアンホ・ガルニドはBEST PAINTER/MULTIMEDIA ARTIST (INTERIOR ART)にもノミネート。
2023年には[前編]がBest U.S. Edition of International Materialを受賞しましたが、2年連続ですね! アメリカにおける『ブラックサッド』の人気がうかがえます!
BEST U.S. EDITION OF INTERNATIONAL MATERIAL—ASIA
My Picture Diary, by Fujiwara Maki, translation by Ryan Holmberg (Drawn & Quarterly)
藤原マキ『私の絵日記』(筑摩書房)
元女優で漫画家つげ義春の妻である藤原マキが、夫と息子との生活について描いた日記。
正直、日本ではそこまで知名度のある作品ではないと思うのですが、アメリカにおけるつげ義春の人気や関心の高さが関係しているのですかね。興味深いです。
BEST WEBCOMIC
Lore Olympus, by Rachel Smythe, https://www.webtoons.com/en/romance/lore-olympus/s3-episode-226/viewer?title_no=1320&episode_no=231 (WEBTOON)
『ロア・オリンポス』は2022年から3年連続BEST WEBCOMIC受賞です!
しかも6月にシーズン3、エピソード280で完結を迎えました。 『ロア・オリンポス』を追う作品として何が現れるのかも含めて興味深いです。
BEST DIGITAL COMIC
Friday, by Ed Brubaker and Marcos Martin, vols. 7–8 (Panel Syndicate)
クリスマス休暇に実家に戻った大学生フライデーに降りかかる不穏な出来事…。
2021年のアイズナー賞BEST DIGITAL COMIC受賞。この作品の人気も根強いですね。
アーティストに対する賞
BEST WRITER
Mariko Tamaki, Roaming (Drawn & Quarterly)
BEST WRITER/ARTIST
Daniel Warren Johnson, Transformers (Image Skybound)
BEST PENCILLER/INKER OR PENCILLER/INKER TEAM
Jillian Tamaki, Roaming (Drawn & Quarterly)
BEST PAINTER/MULTIMEDIA ARTIST (INTERIOR ART)
Sana Takeda, The Night Eaters: Her Little Reapers (Abrams ComicArts); Monstress (Image)
日本人作家タケダサナさんはアイズナー賞常連ですね。2022年から3年連続です!もっと日本でもこの快挙が報じられるといいのに…!!
『モンストレス』は今年の11月に9巻が出るようなのですが日本語訳の続きはいつ出るのやら(ずっと待ってます…!!!)。
『モンストレス』と同じくマージョリー・リュウとのコンビによる『The Night Eaters』も邦訳が出てほしいです。
BEST COVER ARTIST
Peach Momoko, Demon Wars: Scarlet Sin, various alternate covers (Marvel)
桃桃子さんはもちろんカバー・アーティストとして大活躍なんですが、日本語訳された『デーモン・デイズ』がサイコーだったのでマンガ作家としても今後ますますご活躍いただきたいです!続編『Demon Wars: Scarlet Sin』や2024年からの新シリーズ『Ultimate X-Men』も(たぶん出るとは思うのですが)日本語訳されるのを心待ちにしています。
桃桃子さんは毎回名前を見るような気がしていますが、受賞は2021年以来。
BEST COLORING
Jordie Bellaire, Batman, Birds of Prey (DC); Dark Spaces: Hollywood Special (IDW)
BEST LETTERING
Hassan Otsmane-Elhaou, The Unlikely Story of Felix and Macabber, The Witcher: Wild Animals, and others (Dark Horse); Batman: City of Madness, The Flash, Poison Ivy, and others (DC); Black Cat Social Club (Humanoids); Beneath the Trees Where Nobody Sees (IDW); The Cull, What’s the Furthest Place from Here? (Image); and others
BEST PUBLICATION DESIGN
Bram Stoker’s Dracula and Mary Shelley’s Frankenstein boxed set, designed by Mike Kennedy (Magnetic)
マチュー・バブレの英語訳で大変お世話になったMagnetic Pressさんです。ここは装丁の凝った豪華なボックスセットをクラファンで出すので、好事家にはたまらないのです。
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さて、受賞作はいかがでしたでしょうか?
個人的には、グリヒルさん、タケダサナさん、桃桃子さんと、日本人作家の活躍が目覚ましい年と感じました! もっとこのことが日本でも知れ渡ってほしいくらいです!
そしてマリコ・タマキ&ジリアン・タマキ『Roamingローミング』の3冠が輝かしいですね! 私はまだ読んでいないのですが、邦訳がでるのが待ちきれないです!
みなさんも気になる作品があれば読んでみてください!
参考資料:過去の受賞作品
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