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ACBD批評グランプリ2025が発表されました!
こんにちは!
大阪・谷町六丁目にある海外コミックスのブックカフェ、書肆喫茶moriの店主です!
12月ですね。年末ですね。
この季節になると発表されるのが、フランスのACBD(l’Association des Critiques et journalistes de Bande Dessinée:バンド・デシネの批評家とジャーナリストの協会)によるACBD批評グランプリです!
バンド・デシネのプロたちによるマンガ賞!
いつも楽しみにしている賞のひとつです。
2025のグランプリも、ノミネート15作品のうちから最終ノミネート5作品が選ばれ、2024年12月3日に最優秀グランプリ1作品が発表されました。
今回の記事ではその結果を紹介していきます!
なお、Youtubeライブでもお話しています。よかったらこちらもご覧ください。
https://youtube.com/live/NHfXKeflerM?feature=share
ノミネート作品
『Au-dedans』(『In: A Graphic Novel』)
作:Will McPhail(ウィル・マクファイル)、発行:404 ÉDITIONS(原書はMariner Books:英語)
The New Yorkerのアーティストであるウィル・マクファイルの『In: The Graphic Novel』。人とつながることができない若いイラストレーター、ニックは、近くの病院に勤務する皮肉屋で明るいガン医師レンと出会うことによって物語が始まる。人生の苦痛と孤独をカラーとモノクロで描く半自伝的な作品。
2022年アイズナー賞ノミネート。2023年のイタリアのマンガ賞でもよく見かけた作品。ACBDコミック賞2024のグランプリを受賞しています。
アングレーム国際漫画祭2025公式セレクション、Fnac France Inter BD賞2025最終ノミネート作品です。
『Idéal』(理想)
作:Baptiste Chaubard(バティスト・シャバール)、画:Thomas Hayman(トーマス・ヘイマン)、発行:SARBACANE
アンドロイドが世界中の日常生活に存在している近未来、唯一の例外は近代化と新技術に対して極度に保守的な島国キノだけで、徹底的な保護のもと20世紀末の日本を再現していた。エレーヌとエドの夫婦はこの理想的な鎖国で長年幸せに暮らしてきたが、陰りが見えていた。有名なピアニストであるエレーヌは、若く才能ある音楽家が到着してから自分の立場が脅かされ、エドも妻への愛が薄れ始めていた。そんなときキノ国にアンドロイドが密かに存在していることを知ったエレーヌは…。
浮世絵を思わせるようなビジュアルが特徴的。
Fnac France Inter BD賞2025ノミネート作品です。
『Les Illuminés』(イリュミナシオン)
作:Laurent-Frédéric Bollée(ローラン=フレデリック・ボレ) 、Jean Dytar(ジャン・ダイタール)、発行:DELCOURT
アルチュール・ランボーの詩『イリュミナシオン』をバンド・デシネ化。この詩が生まれた背景とともに1872年から1877年にかけてランボーはもちろん、ポール・ヴェルレーヌやジェルマン・ヌーヴォーの3人の詩人が互いに自由になろうとしたり、自由になれないことにもどかしさを抱えたり酔いつぶれたり逃げ出したりなどした交友を描く。
上記サイトに試し読みができるのですが、ページの上段と下段で別の物語が進んでいくという不思議な構成になっています。
『It’s lonely at the centre of the Earth』
作:Zoe Thorogood(ゾイ・ソログッド) 、発行:HI COMICS(原書はImage:英語)
新型コロナ禍の6か月を描いた自伝的作品。不安、鬱、インポスター症候群など精神的な浮き沈みと闘いながら、生き延びるために創作に打ち込み、その過程で自分自身を見つけていく様子を、メタ的表現も交えつつ感動的で独創的に描く。
2023年アイズナー賞ノミネート、2023年ハーベイ賞ノミネート、ACBDコミック賞2024ノミネート。
『Oh, Lenny』(おお、レニー)
作:Aurélien Maury(オーレリアン・モーリー) 、発行:TANIBIS
ジューンは自然と動物を愛する獣医師だったが、パートナーのブラッドの仕事の関係で仕事を辞め引っ越すことになる。退屈な日々を過ごしていたジューンはある日、具合の悪い不思議な生き物「レニー」を引き取り、地下室で世話をする。はじめは面白く可愛いものと思っていたレニーだが、無害なだけではないことが分かり…。
『La Route』(ザ・ロード)
作:Manu Larcenet(マニュ・ラルスネ) 、発行:DARGAUD
コーマック・マッカーシーの小説でピュリッツァー賞を受賞し映画化もされた『ザ・ロード』を、『ありきたりな戦い』(「ユーロマンガ5号」から連載)のマニュ・ラルスネがバンド・デシネ化。世界は荒廃し、灰と死体で覆われたポストアポカリプス世界。その中を父と息子は、シビアな天候や残忍な略奪者たちから逃れ南へ向かう。
アングレーム国際漫画祭2025公式セレクション、Fnac France Inter BD賞2025最終ノミネート作品です。
『Sang neuf』(新しい血)
作:Jean-Christophe Chauzy(ジャン=クリストフ・ショージー) 、発行:CASTERMAN
2020年、新型コロナ下で世界が外出禁止になっているなか、作者のジャン=クリストフ・ショージーは無菌室に入れられていた。骨髄が血小板を産生しない骨髄線維症と診断され、生命の危険にさらされ、妹のコリンヌがドナーとなることになった。介護の重荷、落胆、死の恐怖、病気との壮絶な戦いを描くグラフィック・メモワール。
『Shubeik Lubeik, vos désirs sont des ordres』(原題は『شبيك لبيك』)
作: Deena Mohamed(ディーナ・モハメド) 、発行:STEINKIS(原書はEl-Mahrousa(مركز المحروسة للنشر والخدمات الصحفية والمعلومات):エジプト)
Shubeik Lubeikは、アラビア語で「あなたの願いは私の命令です」という意味のおとぎ話の韻。カイロの気取らないキオスクで販売されている3つの願いが、アジザ、ヌール、ショクリを結びつけ、彼らの視点と人生を変える。アジザは夫を亡くし、官僚主義や不平等と戦う。ヌールは恵まれた大学生だが密かにうつ病に苦しんでいる。ショクリは友人を救うために宗教的信念と戦う。しゃべるロバやドラゴン、魔法のように混雑を避ける車などが登場するが、3人は抱えている願いを実現するという現実的な課題に立ち向かっている。
2024アイズナー賞、2024年ハーベイ賞ノミネート。
『Ulysse & Cyrano』(ユリスとシラノ)
作:Antoine Cristau(アントワン・クリスト)、Xavier Dorison(グザビエ・ドリソン)、画:Stéphane Servain(ステファン・セルヴァン)、発行:CASTERMAN
ユリスは高校の卒業のためのバカロレアの受験を控えた青年。理工科学校に行き、家業のセメント工場を継ぐという将来が約束されていたが、苦手な数学を避けることはできない。工場を継ぐことは父親の悲願だったが、その工場も10年前であれば戦争でドイツに加担していたという非難を受けることに。そんなユリスは不愛想で秘密主義な男シラノと出会う。そしてシラノと素晴らしい料理が彼の人生を大きく変える。栄光の30年間(1945-1975年)のフランスを舞台にしたグルメと人間ドラマ。
Fnac France Inter BD賞2025ノミネート作品です。
『Walicho』(ワリチョ)
作:Sole Otero(ソロ・オテロ)、発行:ÇÀ ET LÀ(原書はSALAMANDRA GRAPHIC?:スペイン語)
アルゼンチン出身のマンガ家ソロ・オテロさんの新作。ワリチョとはマプチェ語であらゆる悪と不幸を体現する存在。クレオール語とスペイン語で、悪魔、サタン、悪の力。アルゼンチン語で、黒魔術または関連魔術によって実行される呪文または呪文。老いたヤギを連れて奇妙な3人の姉妹が植民地時代の船でブレノスアイレスに到着することから始まり、1740年から現代までのほぼ3世紀にわたるアルゼンチンの歴史を横断する。ホラーとコメディ、アニミズム、フェミニズムと魔術が入り混じったマジック・リアリズム。
アングレーム国際漫画祭2025公式セレクション。
最終ノミネート
『Ce soir c’est cauchemar』(今夜は悪夢)
作:Nicole Claveloux(ニコル・クラヴルー)、発行:CORNÉLIUS
ニコル・クラヴルーが眠りにつくとき、頭の中で何が起こっているのか? 想像力の装飾責任者ロイク・ラルーン、感覚の専門家リリとジジ・フリッソン、記憶の専門家マダム・レーヌ・バンカル、そしてもちろん偉大な監督であるニコール・クラヴルー自身もいる。しかし、ある晴れた夜、「論理と理性」部門の洞察力マネージャー、チャールズ・シャポセックがやって来た。この厳格な男は夢の分野で管理したいと考えている。そして、陽気な彼らは夢と悪夢の国へのカラフルな旅に乗り出す。ニコル・クラヴルーの40年ぶりの大人向けバンド・デシネ。
『Impénétrable』(不可解)
作:Alix Garin(アリックス・ガラン)、発行:LE LOMBARD
『わたしを忘れないで』のアリックス・ガランの自伝的作品。美術科を卒業するやいなやマンガ家として活動をはじめ、長年の恋人と幸せに暮らす順風満帆に見えるアリックス。しかし心の中で苦悩を抱えていた。恋人とのセックスが苦痛でならないのだ。関係を続けるためには必要だと自分を責めていたが、すぐに耐えられなくなり、恋人に真実を告げることにする。女性の性的欲求といういまだにタブー視されているテーマに切り込み、多くの女性たちを代弁する。
アングレーム国際漫画祭2025公式セレクション、Fnac France Inter BD賞2025最終ノミネート作品です。
『Les Julys』(7月たち)
作:Nylso(ニルソ)、発行:MISMA
Julyたちは7月の1か月に世界をさまよう妖精たち。作家の父親は幼い息子にそう説明する。子どもの頃にいた空想の友だちJuly。自然の風景のなかを冒険するJulyたちと、親子のシーンが交互に繰り返される。
『Le Roi méduse』T1(クラゲの王)
作:Brecht Evens(ブレヒト・エヴァンス)、発行:ACTES SUD
常にだれかに監視されているという陰謀論を信じ込んでいる父親のもとで育った少年アーサー。学校、近所の人、メディア、友人などあらゆる人を警戒しないといけない。父と息子は悪の勢力との戦いに備えて訓練しているが、父親が謎の失踪を遂げ、10歳のアーサーは自力で父を探そうとする。
アングレーム国際漫画祭2025公式セレクション。
グランプリ
『Deux filles nues』(二人の裸の少女)
作:Luz(リュス)、発行:ALBIN MICHEL
https://www.albin-michel.fr/deux-filles-nues-9782226489579
ドイツの「表現主義」を代表する画家であるオットー・ミュラーが1919年に描いた「二人の裸の少女」。ヒトラーの台頭、反ユダヤ主義に動く国家、退廃的と評される芸術、汚職など、「二人の裸の少女」の絵画の視点から暗黒時代の苦難に押し流されていく日常を描き出す。
アングレーム国際漫画祭2025公式セレクション。
~*~
さて今年のACBD批評グランプリはいかがでしたでしょうか?
アングレーム国際漫画祭公式セレクションやFnac France InterBD賞とかぶる作品も多々ありますが、意外だったのが海外作品も結構ノミネートされているという印象。個人的にフランコ・ベルギー以外の作品を積極的に選出するのはアングレーム国際漫画祭の公式セレクションというイメージだったのですが、今回は15作品中4作品が海外の作品でした。特にACBDコミック賞でも選ばれた2作品がこちらでも候補に挙がっているのが興味深いです。
気になる作品はぜひ読んでみてください!
過去の受賞
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