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【掌編小説】満員電車の小さな戦場

夕方の通勤ラッシュ、寄り道をしていた彼女は慣れない場所で電車を待っていた。車生活だった彼女にとって、この東京の満員電車という戦場は久しぶりの戦いだった。彼女は誰かが押してきたり、不意にぶつかったりしても負けじと構える。なにせ、「負けたらあかん」という関西魂が彼女の胸の中には常に燃え盛っていた。

ドアが開くと、人々がぎゅうぎゅう詰めに押し込まれる。彼女も体を小さくして乗り込むが、どこか冷たい視線が自分に向けられているのを感じる。振り返ると、大きなキャリーバッグを持った若い娘達が彼女のほうをじろっと見て、不満げにため息をつくように何か暴言を吐いた。イントネーションから同じ関西人だとわかった。どうやら彼女が少しでも奥につめず出入り口付近のスペースを取っていることが気に食わないらしい。

彼女は最初、黙ってやり過ごそうとしたが、娘達がさらに腕を押しつけてきた。耐えかねて、つい口を開いてしまった。

「痛いなぁー‼︎なに?そんな押さんでもええやん!」

その瞬間、娘達が不機嫌そうに顔をしかめ、

「うるさいババァ‼︎何言うとるねん‼︎狭いねん‼︎」

周りを気にせず大声で返した。その態度に火がついた彼女は、さらに一歩前へ踏み出し、にっこりと微笑みながら言った。

「あんたら関西人やろ?見境なく大声で…同じ関西人として恥ずかしいねん‼︎」

周りの人々が小さく笑いをこらえ、彼女と娘達の間に一瞬の沈黙が流れた。結局、娘達は少しうつむき、押すのをやめた。彼女はその様子を見て内心「よっしゃ」と思いながら、再び静かに揺れる電車の中で立ち続けた。

東京の肌寒くなった夕暮れ、彼女の中には、温かくも少し毒の効いた関西の魂が確かに息づいていたのだ。

—黄昏時—

いかにも〝大阪から来ました〜〟と言わんばかりの豹柄ファッション、何日泊まるの?と思うぐらいの大きなキャリーケース。そして車内中丸聞こえの大阪弁。我が道をゆく20代大阪女。

何が起こるかわからないこのご時世にそのファイティングスタイルにあっぱれながらも拍手。しかし民度の低さがうかがえると同時に〝これだから関西人は…〟の常套句が頭によぎる…。
品がない‼︎
私も根は関西人。関西大好き人間だ。
〝人の振り見て我が振り整えよ〟
咄嗟にこの言葉が頭に浮かんだ。
知らず知らずのうちに私こそ関西魂が溢れ出ていたのではないだろうか?
走馬灯の様に日頃の自分を思い出しながら
記憶を辿ってみる。
そして思い改めてみた。何故か心が浄化する。
今日の出来事で一皮剥けた気がした。
そう!【気づき】があったからだ‼︎
〝私も同じ関西人として華の都大東京で恥じぬ様に暮らそう〟と…
今はここが性に合っている。
関東弁でも関西弁でもないミックス弁を使いながらもこの街が好きだ。
そう思うと、20代大阪女よ。ありがとう。と言いたい。出来る事なら娘達も少しでも反省したのなら次からは品良くしてくれ。
些細な事でもふるさとへの好感度の貢献になる‼︎
そう思いながら今日の事は水に流そうとお清めをして彼女は眠りについた。 (了)

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掌編小説 #1
筆者:BOOK &me


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