軍隊へ行くということ

ここ数年何人かの友達の子供たちがアメリカの軍隊に入隊している。その理由は様々で、大学の学費を軍隊がサポートしてくれるためだったり、人生に意味を見出すためだったり、大学に進学はしたくないけれどスキルを身につけるためだったりと様々だ。Selective Serviceというシステムはあるけれど、以前のような徴兵制がない米国では軍隊へ入隊するというのはキャリアの選択の一つでもあり、目的のための手段でもある。

徴兵制がある国はまた事情が違う。私の美容師さんはギリシャ系の移民なのだが、ある時「お兄ちゃんがギリシャに帰ったんだけど足止め食らっていてアメリカに戻って来られないのよー。」と言う。事情を聞いてみると、ギリシャ訪問中に徴兵されたのだという。「でもね、彼はもう40代でおまけに体が不自由なの。どうやったって軍人になれるわけないじゃない。」ギリシャではアメリカ国籍を持っていてもギリシャに土地があれば徴兵されるとのことだった。そして徴兵を免れるためには罰金を払わなければいけないらしい。彼女のお父さんも50歳代の時にギリシャに里帰りした際に徴兵されて、飛行機の中で足止めを食い、乗り継ぎに間に合わないと苛立った隣の席の女性に鞄で殴られたと話してくれた。その場にいたギリシャ系の別の美容院のお客さんが、「私の夫もそうだったわ〜!政府関係の人はね、足止め食らわせて置いて靴を見るの。いい靴履いてると罰金がたかくなるのよ!」本当だとしたらすごい国だよね。ギリシャも長年、キプロス島をめぐってトルコとの関係が良くないし、地理的にもヨーロッパの南端だし、軍隊は必要なのだろう。

似たようなことがイスラエル人の知人の娘さんにも起こった。長年アメリカで暮らしていて、イスラエルに住んだこともなかった彼女がイスラエルを訪れたところ、空港で「徴兵されます」と言われイスラエル軍に入った。イスラエルは男女共に徴兵される。(男性は3年間、女性は2年間)知人と話した当時ではかなり軍隊の中で活躍しているとのことであった。イスラエルは中近東で敵国に囲まれている小国なので軍隊は絶対に必要。愛国心も強い人が多いし、自分たちの身は自分で守る、という考えが強くあるように感じた。

つい先月知人の息子さんがアメリカ陸軍の基礎訓練を卒業した。知人は卒業式に行ったのだが、息子さんは勝手に基地を離れることもできないから、どれくらい一緒に時間を過ごせるかわからない、と言っていた。「彼はもう国家のもので、国家所有の『武器』と同じ扱いになるみたい。」と寂しそうでもあり誇らしそうでもあった。そして卒業して次の日には配属される基地へと送られたらしい。

BTSの兵役問題に関しては韓国人でない私にはよくわからないし、発言する資格もないと思う。ギリシャやイスラエルと同じで様々な事情があるのだろう。ただ「彼らにとっての最善を」願うという視点では見られないことがある。軍隊に入る、入らないは結局のところ「国家にとって」何が最善かどうかということなのだ。彼らのためでも、ファンのためでもなく。

私にとって嫌なのは、私たちがこういう現実に生きているということなのだ。虫も殺せないような青年たちが武器を持たなければいけないかもしれない現実。BTSメンバーの誕生日を祝うポスターが貼られた地下鉄の駅が、数週間後には、戦争から逃れるシェルターとして使われる現実。住んでいるところがイスラム過激派に制圧されたから、BTSのCDは埋めて隠さなきゃ、というARMYがいる現実。

そういう現実の中で、もう一つリアルなことは私たちが彼らの音楽によって慰められたり、励まされたり、悲しむ許可をもらったり、希望を与えられること。そしてその楽しい気持ちや嬉しさを世界中のARMYたちと共有できることだと思う。それはとても強い現実で、その中で私たちは別な種類の軍隊ーARMY-のメンバーとしてささやかでも平和のために生きられたら、と思う。



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