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王者の凱旋


■備忘録的な

今日こそは長編を!、と意気込んだのも束の間。
子どもたちの出かけたい攻勢に、穏やかな執筆という牙城を崩された私は、子どもたちを連れて冒険の旅に出るのでした。

小さな勇者たちを引き連れたものの、王様(妻)が不在のため支度金をもらうことはできず、ぬののふくをしっかりと着こんで、いざダンジョン(百貨店)へと向かうのでした。

小さな勇者たちはダンジョンに着くなりカジノへと飛び込んでしまい、私に小さなメダルを要求するので、一枚ずつ渡して放流するのでした。その隙に私もイソイソと闘技場(クレーンゲーム)に向かって小さなメダルを投入したのです……!

そしてあのモンスターがおきあがり、仲間になりたそうにこちらを見ているじゃありませんか。


キングスライム。王者が我が家にやってきた!!

小さな勇者たちはカジノという魔窟の魔物に破れたものの、キングスライムが仲間に加わったことで、ほくほく顔の私たち。
お腹が空いたとぴいぴい囀る小さな勇者たちのために、レストランへと向かいました。

結局それ以外の戦利品はありませんでしたが、経験値を得て、スライムの王者とともに我が家に凱旋しました。

以上、ドラクエ風に備忘録をお送りしました。

■冒険のワンシーン的な落書き

 両手が大きな鎌になっている深緑の体色が特徴的な甲虫が、羽を広げて跳び上がり飛来すると、シルヴィアは避けるよりむしろ踏み込んだ。
 鎌は重く、大ぶりの一撃しか放てない。それならむしろ、懐に潜り込んだ方が小回りが利く、と考えてのことだった。
 右手に構えた直剣を鎌が生えている腕の節目掛けて差し込むと、緑色の体液が舞った。甲虫は悲鳴のような甲高い擦過音のようなものを響かせると、転がって丸まった。
「ヨーク! 今よ」
 動きを止めた甲虫から離れ、シルヴィアは振り返って青い髪の若いローブの男に向かって叫んだ。
「心得ているよ、シルヴィア」
 ヨークはアメジストのような紫色の原石が載った杖に意識を集中し、空気がその杖の先端に収斂していく。やがて凝縮された空気は加速されて熱を帯び、発火して巨大な火球となる。
 火球はヨークの杖の動きに呼応して指向性を得て、甲虫目掛けて飛んでいく。甲虫と火球が激突すると、轟音をたてて爆発し、甲虫の脂に引火して激しく燃え上がり、火柱となり、甲虫は丸まった体を広げ、擦過音の叫び声を上げて絶命し、その場に倒れ伏す。
「やったわね」
「ナイスアシストだよ、シルヴィア」
 二人はすれ違いざまに手を打ち合わせて、その場に散らばっていた鉄のマグカップやケトルなど、キャンプ道具を拾い集めて、ザックの中に押し込んでいく。
 ダンジョンを探索していた二人は、ひらけたこの場所までやってくると、疲労を癒すべく、キャンプを張って休息をとっていたのだが、他のパーティがあの甲虫に追いかけられてこの広場に逃げ込んできたせいで、否応なく戦闘に巻き込まれてしまった。逃げてきた四人パーティは動きを見ても素人だったので、邪魔だから逃がした。そのため、二人で甲虫と相対することとなったのだ。
 風が変わった。
 シルヴィアは異変を敏感に感じ取り、ヨークの名を鋭く呼んだ。シルヴィアの勘を何より信用しているヨークはザックを捨て、杖を構えた。
「上だ、シルヴィア!」
 ヨークが叫ぶより速く、シルヴィアは回避行動をとり、剣を抜いた。シルヴィアが立っていたところに巨大な物体が飛来し、砂埃を巻き上げていた。
「ヨーク、呪文!」
「分かってるさ」
 シルヴィアは砂埃が舞い終わって視界がはっきりする前に、間合いを詰めようと前進した。こちらにも相手の姿が分からなければどんな魔物か分からないというリスクがあるが、相手の機先を制するチャンスも生まれる。そしてシルヴィアには、どんな魔物だろうと動きに対応できる自信があった。
 砂埃が薄れる。シルエットが浮かび上がるが、想定よりも大きく、そしてずんぐりとしている。また甲虫の類か、とシルヴィアは試しに剣を振ってみる。すると硬質な感触を予想していたのが、弾力のあるゴムのような感触に阻まれ、剣が跳ね返される。
「シルヴィア、離れろ」
 ヨークが先ほどと同じ火球を放ち、火球は巨大な影に衝突して弾けるが、影の主は蠕動して、体をぐねぐねと震わせる。
 砂埃が晴れると、そこにいたのはスライムだった。
「スライムね」
「スライムだな」
 二人は唖然として口を開いていた。
 スライムはありふれた魔物だが、その体躯はせいぜい赤子くらいの小さなものだ。だが、今二人の目の前にいるのは、優に大人の背丈を超え、その倍はある。幅もキャンプで広げたテントと同じほどもある。それほど巨大なスライムの生息が報告されたことなど、これまでのどの記録を紐解いてみてもないだろう。
 しかも、ヨークの呪文を受けて平然としている。シルヴィアの剣も通じない。耐久力もスライムの比ではなく、シルヴィアは斬撃の際に感じた弾力から、あのスライムの重量は相当だろうと当たりをつけていた。その体に体当たりされたり、圧し潰されたりすれば、ただでは済まない。巨大なだけの魔物じゃない、と二人は歯噛みした。
「ヨーク。わたしが呪文を使うから、援護をお願い」
 シルヴィアは剣をヨークに向かって放り投げると、ヨークは回転するそれの柄を易々と掴む。
「だめだ。君の呪文は危険だ。下手すればこのダンジョンごと吹き飛ばしてしまう」
「下手しなければいいんでしょう。ちゃんとコントロールするわよ」
 ヨークは額に手を当てて嘆息し、「そう言って君が」と口にすると、それが栓だったかのように言葉が濁流のごとく迸り出た。
「たかがガーゴイル一匹倒すのに、王城の尖塔を吹き飛ばしたのを忘れたかい!? それにこの間だってそうだ。村の魔物退治で牧場一つ消し飛ばして、家畜や建物やらの損害で、それまでの稼ぎ全部をふいにして! だから僕らがわざわざこんな辺境の遺跡にまでくるはめになったんじゃないか!」
 放っておけばいつまでも続けそうなヨークの剣幕に辟易して、シルヴィアは確信のこもった強い口調で、「ヨーク。信じて」と言い放つ。
 ヨークは頭を抱えて葛藤しながらも、「生き埋めだけはごめんだからな!」と鋭く叫んで杖を放った。
 ヨークはシルヴィアをも上回る速度で駆けると、神速の斬撃を二度三度と放ち、シルヴィアの剣を弾いた巨大なスライムの体にも傷を刻んでいく。だが、やはり巨大すぎるがゆえに、決定打には程遠いようだった。
 シルヴィアは精神を集中し、杖の先に力を込める。眩い白い光が杖の先で圧縮されていく。小さな光の球は周囲の空間を陽炎のように歪ませ、ゆっくりと回転していた。
「ヨーク、もう十分よ」
 ヨークは飛びずさって巨大スライムから距離をとり、振り返って顔が青ざめる。
「待て、シルヴィア、その呪文は――」
「ばいばい、大きなスライムさん」
 ヨークの悲痛な叫びは光の球から発せられた光の波と波動の音にかき消されて消えた。
 その日、一つのダンジョンが地上から消滅した。

■後書き的な

いかがでしたでしょうか。
ライトノベル的なファンタジーは書き慣れないので、ぎこちないところがあったかもしれませんが、我が家にお迎えしたキングスライムにちなんで、落書き的に書いてみました。なのでプロットも何もないという(笑)

キャラクターの名前は思いつきだったり、好きな女優さんからとったりです。ゲームだとパーティって四人とかが多いのかなと思うのですが、四人も入れると長くなるので、二人にさせていただきました。単純に玄人二人のパーティっていうのが好みなこともありますが。
女性が剣士で、男性が魔法使いで、それがスイッチする、というのがこの落書きの肝だと個人的に考えています。武闘派も頭脳派も、性別関係ないよという。

……長編は全然進んでません。こうした落書きに逃げてしまっています。
ただ、ここで気を引き締めて、夜こそ書こうと思います。

長編という巨大な魔王に、私は仲間に加えたキングスライムと立ち向かうのです……!

それでは、みなさま冒険の際は支度金を受け取ることをお忘れなく。

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