【小説】インフルエンサー治療法!
とある一世を風靡したインフルエンサー、AとBの会話を盗み聞きしてみた。(架空のお話です)
A「最近どうよ?」
B「うーん、まあまあかなあ。なんか何呟いても昔ほどいいねもリプも集まらなくなってきた。」
A「お前アガってから大体どのくらい経った?」
B「どうだろう・・・いつだったっけ?あれだ、たしか2年前にこのツイートがバズってから急にうまく行きだしたんだ。ニュースにも取り上げられて、YouTubeの登録者数も増えて。タワマン紹介されたりして。あのころが一番うまく行ってた時期だったかもしれん。それからは、もう右肩下がりよ。」
A「そもそもお前って、何で売ってるんだっけ?」
B「情報商材。SNSでフォロワーを集めるのはどうしたらいいか、とかそこから収入につなげるのはどうしたらいいか、みたいなのを考えてメルマガで売ってる。」
A「今はなんぼくらい儲けてんの?」
B「月ウン万くらいかな・・・」
A「すくねえなあ!そのままじゃマズいぞ!」
B「どうすればいいんだ?なんか教えてくれよ・・・」
A「タダじゃ教えられねえ。ま、でもお前とは友達だから、お前が人気を取り戻した後に俺のチャンネルを宣伝してくれよ。その約束をしてくれるんなら、教えてやってもいいぜ。」
B「約束しよう。人気を取り戻したら、な。」
A「よし。よく聞け。そもそも、人間はどんなものに興味を持つと思う?」
B「なんだろう?おれはずっと人は『役に立つ』ものに興味を持つと思って商売をやってきた。自分でデータを集めて、しっかり考えて、ちょっと試してみたりもして、本当に有効だと思える方法しかメルマガに投稿しなかった。」
A「馬鹿だなあww、そんなんじゃ人気が落ちるに決まってる。」
B「じゃあいったいどうすればいいってんだよ?教えてくれよ!!」
A「いいか。たしかに『正しさ』とか『誠実さ』は大事だ。そして最終的に俺たちを破滅から救うのもそういう要素なんじゃないかとは思う。でも、それは一番大切なことじゃない。いいか、一番大切なことは・・・『寄り添い』と『ゆさぶり』だ・・・」
B「『寄り添い』と『ゆさぶり』??」
A「まず第一には『寄り添い』だ。まず、お前のメルマガにお金を払って登録してる人たちはみんな、SNSで一旗揚げたいと思っているわけだろ?」
B「ま、そりゃそうだよね。」
A「だとしたら、まずは彼らの行動をひたすら褒めないと。彼らだって、未来が不安だったり、今の収入じゃ到底満足できないからお前を頼りにしているわけで。不安なんだよ。自分が投資したものがうまくいかなくて、もしお前に騙されたとしたら大損害じゃないか。そして、もしお前の考えた方法とやらを試してうまくいかなかったとしたら、今までお前のことを『先生』と呼んでいた彼らはどうなってしまうだろうな?」
B「手のひら返したように怒るだろうね。」
A「その通りよ。だから商材ってのは危険なんだ。だって売ってるのはお前自身じゃなくて、方法とか手順とかの情報なわけだから。お前のメルマガのフォロワーはお前のファンじゃない。ただの顧客だ、いいか、ただの顧客なんだ。」
B「で、『寄り添う』って何だい?」
A「おう、話がずれた。いいか、彼らは不安だ。これでうまく行かなかったらどうしよう?月額390円の出費が無駄になってしまう。その不安を和らげてあげないといけない。そうだな・・・まず俺ならこういうだろうな。『ここにいるあなたは、すでに他のライバルたちから数百歩も先を行っている。なぜなら、SNSでの売り込みも、どんなビジネスも、結局運ではなく方法が大事だからだ。しっかりとした方法を学び、手順を踏めばアガれない人なんているはずはない。現に今幅を利かせてるアルファツイッタラーは皆このことを知っている。伸びない人は、みんな知らないだけなんだ。でも、君は既に知っている。君も我々の仲間だ!さあ、もう情弱の世界とはおさらば!君には新たな世界、新たな風景が待ち受けている・・・』」
B「要するに相手をホメるってことだな?でも、もしそこまで持ち上げといてほんとにうまくいかなかったらそれこそ危険じゃないのか?『あれだけ持ち上げといて、なんだこのインチキ商材は!!』なんてことになりゃせんか?」
A「ばーか。そんなのいくらでも後からなんとでもなるんだよ。お前のメルマガをちょっとだけ難解にしとけ。カタカナ言葉を多用するといいぞ。なんかそれっぽく見える。それで、もしうまくいかなかった人が文句言ってきたら、こう言い返してやればいい。『あなたはほんとに私の方法と手順を完璧に踏襲しましたか?ほら、この部分!ここが抜けている!一つでも抜けたらダメなんですよ、あなた。』」
B「まあ、完璧にマネできる人なんてそうそういないもんな。」
A「その通りよ。新しいことに挑戦すれば必ずうまくいかないことが出て来るし、その人にはどうしてもできないこともある。だから手順をできるだけめんどくさく、数も多く、複雑にしろ。なんかそれっぽく見えて、実際はよく分からないっていう商材が一番売れる。なぜなら、読んだだけで売れた気になるからさ・・・」
B「この悪魔めww」
A「悪魔?悪魔だと?なにを言ってるんだ?ほとんどの商売がそうじゃないか!みんな自分に都合の良いことだけ聞いて、自分の都合の良いものだけ読んでるのさ!『共感』と『安心』を得るために、みんなお金を払ってる。そんな世の中で、求められているモノを供給する、これのどこが悪魔なんだ?商売の王道だろ?」
B「たしかに。お前の言う事はもっともだ。」
A「わかったらさっさとやれよ。あともう一つ、言い忘れた。『ゆさぶり』だ。」
B「揺さぶるってどういうことだ?」
A「いいか、真面目でつまらない男はモテない、違うか?」
B「まあ、ナンパ師界隈の常識だよね。」
A「それと同じだ。ずっと一本気に、同じような商材の話をしていたってたかが知れてるんだよ。さっき、お前のフォロワーはお前のファンじゃない、顧客だと言ったな。」
B「言ってたね。」
A「最終的に一番お金を払ってくれるのは顧客じゃない。お前のファンだ。ホストクラブだってそうだろ?一番売り上げをあげるのはサービスが上手な人じゃなくて、よく指名されるようなリピーターのついてる人だ。」
B「たしかにそうだね。」
A「いいか、お前の人間味をだせ!しかも、片方だけ!」
B「ちょ待っww、どういうことよ?」
A「人間味ってのは、お前が彼らと一緒に悩んで、苦しむ姿のことだ。いいか、ファンは誰かを応援したい人たちの集まりだ。お前がいっつも『俺は間違えることはない。俺は先生だ。みなみな、俺についてこい!』なんてやってたらいつか嫌われちまわあ。それよりかは、ある程度売れて女性のフォロワーが増えてきたら、『こんな方法を考えてみたんだけど、なかなかうまくいかない。みんな、どうすればいいかな?一緒に考えてくれよ。つらい、つらいよ俺は、まったく・・・』なんてYouTubeでやってみろ。あっという間に『どうしたの?大丈夫?』なんて言って寄り添ってくれる人が現れる。そして、その次の投稿は『なんとかうまくいきました。ほんとに皆さんのおかげです!ありがとう!』ってのをやるんだ。これで完璧。彼らはお前に首ったけさ。」
B「なるほど、『共感』を集めて、応援してもらうってことだな。」
A「完全無欠の指導者ってのは昔から嫌われるもんだ。それよりかは、庶民感覚を持っていて、恥ずかしい失敗もしたりして、どこか『人間味』を持っている指導者の方が必ず好かれるもんなんだ。お前には、何も言わなくても追従が現れるようなカリスマ性はない。だから、『人間味』で売れ!『人間味』の良い面だけ、愛おしい面だけ見せるんだ!そうすれば、必ずお前のファンが現れる。そしたらもうこっちのもんだ。ファンは何にだってお金を使ってくれる。情報商材だけじゃなくて、グッズとかサインとかも売り出せる。」
B「なるほどな・・・。お前はほんとに賢いな。尊敬するよ。参考にさせてもらうわ。」
A「おう、この通りにやれば必ずうまく行くぞ。これでお前は他の連中よりも数百歩先を行っている。こんなことみんな知ってることだ。うまくいってる奴はみんな知ってる。お前も今日からその仲間入りだ!情弱の世界とはおさらば!お前には新しい世界、新しい風景が待ち受けているぞ!」
B「ありがとな!持つべきものはお前だ!恩に着るぜ!」