上に立つ人間の孤独。
ーーー王子さまは自分の星から出ていくことにしました。彼は渡り鳥の大群をひもでつないで、それに捕まってたくさんの星を旅したのです。
その星には「王様」がいました。彼はいつも偉そうな様子でしたが、どこか寂しそうでした。
「星の王子さま」より。上に立つ人間の孤独。ーーー
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「星の王子さま」より。王様の星。
王子様の星の近くには、小惑星325、326、327、328、329そして330がありました。
そこで、王子さまは、まずそれらの星を訪れて、何か自分にできることをしながら、いろいろと学んでみたいと思いました。
最初の星には、「王様」が住んでいました。
王様は、純白のマントの上に、緋色の肩掛けをはおっていました。そして、簡素ではあるけれど威厳に満ちた玉座に座っていました。
「おう、家来が来たな」
と、王子さまをみた王様が叫びました。
王子さまは、こう考えました。
「僕をはじめて見たのに、どうして僕が家来だってわかるんだろう?」
王様にとって、自分以外の人間がすべて家来に見える、ということが王子さまにはわからなかったのです。
「もっと近くに寄るがよい」
家来が見つかったので、王様はうれしくて仕方がありません。
(中略)
「もしも、じゃ」王様は言いました。
「もしも、わしが、将軍に向かって、カモメになれ、と命令したとしよう。そして、将軍が、その命令に従わなかったとしたら、それは、将軍が悪いのではなく、わしの命令が間違っていたことになる。」
「すわってもいいですか?」と、王子さまはおずおずと尋ねました。
「わしは、お前に、すわるように命令する。」
王様はもったいぶって純白のマントのすそを引っ張り、場所を少し開けてくれました。
でも、そのとき、王子さまはびっくりしてしまいました。星がとても小さいことが分かったからです。こんな小さい星の、いったいどこを統治するというのでしょうか?
「王様・・・質問してもいいですか?」
「わしは、お前に質問するように命ずる。」と、王様は急いで言いました。
「王様は、どこを統治するのですか?」
「すべてじゃ」と、王様は、とても簡潔に答えました。
「すべてって?」
王様は、控えめな態度で、自分の遊星、他の惑星、そして他の星々を指し示しました。
「ーー全部なのですか?」
「あの星たちを全部じゃ・・・・」
ということは、この遊星の絶対君主であるだけでなく、宇宙全体の絶対君主でもある、ということになります。
「じゃあ、星たちも、王様の言うことを聞くのですか?」
「もちろんじゃ。星たちは、わしの言うことをすぐに聞く。わしは不服従を許さん。」
王様がそんなにすごい権力を持っていることを知って、星の王子さまはすっかり驚いてしまいました。
「王様、僕は夕日が見たいんですけど・・・。夕日を見せていただけませんか・・・。太陽に沈むように命令してください。」
「もし、わしが、将軍に、花から花へと飛びまわる蝶になれと命令したとしよう。あるいは、悲劇を書けとか、カモメになれとか命令したとしよう。
そのとき、もし将軍が、その命令を実行しなかったとしたら、悪いのは、将軍だろうか?あるいは、わしだろうか?」
「王様です。」
王子さまはきっぱりと言いました。
「その通りじゃ。できぬことを求めるべきではない。権威というのは、理性的に行使されねばならぬのじゃ。もし、わしが、国民に向かって、みんな海に飛び込め、と言ったら、彼らはきっと反乱を起こすだろう。
わしが命令できるのは、命令の内容が合理的な場合だけなのじゃ。」
(中略)
「そろそろ、この星を離れる時期だと思います。」
「いや、それはいかん。」
でも、王子さまは、もうすっかり出発の用意を済ませていました。
これ以上年老いた王様を苦しめたくなかったのです。
「王様の命令がしっかり守られるためには、王様は、理性的な命令をしなくちゃいけません。ですから、たとえば、僕に、今すぐ出発するように命令してください。条件は整ったと思います。」
王様は何も言いません。
王子さまはちょっとためらいましたが、ため息をひとつつくと、ついに出発しました。
「わしの大使にしてやるぞ!」
王様は急いで叫びました。ものすごくえらそうな態度でした。
「大人って、本当にヘンだな」
王子さまは、旅をつづけながら、そんなふうに考えていました。
(サン・テグジュペリ作 浅岡夢二訳 「星の王子さま」Kindle版より)
解説 ~上に立つ人間の孤独~
「権力」を手に入れた大人は、いったいどんな気持ちなのでしょう。
よく考えると恐ろしいような気がしてきます。
自分の指一本で、自分の知らない大勢の人間を意のままに動かすことができるなんて、なかなかヤバい話です。
「絶対服従」を命じられた家来は、王様の言うことに是が非でも従わなければならない。
王様に死ねといわれれば死ななければならない。権力というものは絶大です。
しかし、本当に支配されているのはだれでしょうか?
弱き民衆でしょうか?
いや!実は「王様」自身ではないでしょうか。
家来や民衆は、自分たちが「王様」の政策の恩恵を受けているうちは「王様」に喜んで協力するでしょう。しかし、王様が非理性的でヘンテコな命令ばかりを下し、家来や民衆の利益のことを何も考えずに人を動かし続けると、いったい何が起こるでしょう?
歴史上、もうウンザリするくらいたくさん起こってきたことですが、「王様」の首を挿げ替えようとする動きが起こるでしょう。
革命だ!一揆だ!やっちまえ!!
民衆はここぞとばかりに燃え上がります。
その場合、王様は自分が支配している人間すべてを敵に回すことになります。絶対に敵いません。彼はむごたらしく殺されてしまうでしょう。
本当に支配されているのは「支配者」なのです。そして、「支配される側」の人間たちの方が圧倒的に強い力を持っているのです。
王子様が出会った「小遊星の王様」は、家来が来たと言って喜んでいました。そして、自分の威厳を崩すまいといつも偉そうな態度をとり続け、本当は善良でほっぴり繊細な内面を外に出すまい出すまいと、けっこうな無理をしています。
「王様」が弱くてはいけません。常に強がらなくてはいけないのです。
誰にも弱みをみせてはならない。かつ、民衆や家来のことをいつも考えてやらないと、いつ刃が自分の首にめり込むか分かったもんじゃない。
僕たち民衆が憎んだりあがめたりしているあの「権力者」たちは、常に自分の身を危険にさらし、自分の弱い内面をひた隠しにしながら、孤独に頑張っているのです。
そう考えると、テレビの向こうのお偉い方々に対する見る目が変わってくるような気がしませんか?
今日もお読みいただきありがとうございます。皆様の一日が素敵なものになりますように。