ビジネス本が売れる世の中は焦っているのではないか?
本屋で本のタイトルを眺めるのが私の趣味だ。
新刊コーナーを見たら時事系、社会系の棚を中心に、理系の本や宗教、占い本や音楽や語学辺りを一通りぐるっと回った後に、小説コーナーに赴き、新刊をチェックしたらそのまま漫画本コーナーへ、最後に文具やアクセサリーを物色して終了、というのがいつものパターンである。
たまに趣向を変えて雑誌を物色するが、メイクやファッションとかキラビラしいのがあまり得意ではないので、眺める頻度少ない。車やアウトドアにもあまり興味が無いので基本スルーだ。
そんなふうに1時間ぐらいかけてじっくりと本たちを眺めていると、なんとなく世の中の動きなどが分かった気になってくる。
面白いことに、どんなジャンルであっても流行りのトピックスは見逃せないようで、同じような言葉を使っていることが多いのだ。
そして、ここ5年ぐらいで急激に増えたワードが、「成功」と「お金」と「仕事」だ。
記憶があいまいなので何とも言えない部分はあるのだが、本屋に通っているといつの間にかビジネス本が増えていた。昔はひっそり本屋に積まれていた気がするのだが、最近は大々的に目立つところに置かれている。とくにホリエモンさんが本を出し始めたあたりからだろうか。色とりどりのビジネス本を見るようになった。
その本たちそれぞれが、「うまくお金を稼ぐためには〇〇しろ」「仕事を上手く(速く正確にかな?)やるには〇〇しろ」「競争に勝て」というメッセージを伝えてくる。
最近はビジネス本と時事系の本の融合物なのか、未来予測本も増えた。「5年後にはこうなるからこうしろ」「AIの時代が来たらこうなるからこうしろ」みたいなタイトルのやつだ。
あとビジネス本の亜種として「異端であれ」的な自伝風啓発本も増えた。
こういった類のものは勿論昔からあるのだが、増えた。
これらの本が増えたということは、当然需要があるわけであり、多くの人がそういった情報を求めているということである。つまり多くの人がお金が欲しくて、仕事を上手くしたくて、競争に勝って成功したいと考えていて、その方法を教えてくれと願っているということだ。
まあ、それ自体は別にいいのである。ただ気になることがある。
果たして、そのビジネス本を買ったところで、買った人が「仕事ができて」「お金持ちになり」「成功できる」のか、という疑問だ。
私なりの答えは、否、である。なぜなら社会構造的にそれは無理だからだ。
資本主義という経済体制で動いている世の中では、いわゆる「成功者」の数は極少数に絞られる。富は掃除機のように一ヵ所に吸い取られていく仕組みだからだ。
つまり、現状お金が無い人は、これからもお金は無いだろうし、かつどんどん貧乏になるのが資本主義が蔓延している世の中のリアルなのだ。
今、日本社会においても中流と呼ばれた階層(年収400万円~800万円ぐらい?)は少なくなってると聞くし、年収1000万円以上の人は全体の5%ぐらい、世界を見るともっと格差は酷くて、世界の所得の上位2%の人の所得の合計と世界の低所得の人のだいたい50%(53%だっけ?)の所得の合計が、大体同じだというのだから恐ろしいもんである。
その傾向は資本主義で経済活動を続ければこれからも変わんないだろうし、これを変えるのはなかなか難しい。
資本主義がなぜ、富の格差を生むのかが気になる方は、資本主義について書かれた様々な本があるので読まれたし。ただ、基本的に資本主義というのは搾取対象が無いと成り立たないシステムであるということであり、搾取されるほう(=我々貧乏人)は豊かになれないものであることはここに記しておく。
故に、本屋に並んでるビジネス本を買ったところで、お金持ちにはなれないというのが現実だ。才能がある人ならば小金持ちぐらいにはなれるかもしれない。
しかし、ビジネス本が増えている、売れているということは、もうこの我々の貧困がどうにもならない所まで来ている表れなのではなかろうか。最後の悪あがきに近い。皆が見たくないと目をそらしていた貧困はすぐそこまで来ていて、皆自覚したくないけど貧しくなると肌感覚では分かっているからなんとか生き延びようと手を伸ばさずにはいられない、そんな理由でビジネス本が売れているのではないか、と思わずにはいられない。
もうすぐだ。もうすぐ来る。見たくないけど思わず見てしまう。覆った手の隙間から奴が忍び寄ってくるのが見える。ホラー小説風に言うとそんな感じだろうか。
とはいえ、怯えていてもしょうがないとも思うのである。むしろしっかり見れば、対策は十分にできそうな気もしている。希望は潰えていない。
この際、貧乏は貧乏でいいから、貧乏でも生きられるように環境を整えていくのが良いのではないかと思う。例えば、多少の食糧ぐらい自給するとか。服を作ってみるとか。お金に頼らなくてもそれなりに生きていけるようにすればいいのではないか。
まあ、「言うは易し」というので実際その環境を作るのは大変だろうが。思考を止めなければ方法は様々あろう。
少なくとも、使いどころの無いビジネス本に縋るよりは気休めになるのではないかと思うのだ。
またはAIやロボットによって、私たちが働かなくてもよくなったら別の世界も開けるかもしれない。それはそれで個人的には待ち遠しい。