個の自由と良心の呵責(後編)
この記事は、前編後編の後編なので、前編を読んでからご覧いただいた方がと分かりやすいと思います。
さて、前編にて、日本は現状稼げないが、より稼ぐことを推奨する流れがあることを説明した。
しかし、これらの資本主義をベースにした価値観は地球環境と他者を「資源」として搾取することも、前述したとおりだ。
大航海時代以降の奴隷制度の話を前半でしたが、これは過去のことして無いものとしてとらえている人も多いと思う。しかしながら、形を変えてこれらのシステムは存続しているのが実態である。
例えば、石油資源のよく取れる中東地域やアフリカ大陸では、紛争も多いが児童の強制労働が報告されている。最近の国連の報告では、コロナの影響もあり、アフリカ大陸で7200万人の児童が働いているという。しかも、その中では給料をもらえていない子も少なからずいる。
他にも鉱物資源の多い地域では紛争が絶えない。これらは「資源の呪い」と呼ばれるが、実際のところそういった場所にいる武装勢力は、住民を強制労働させて鉱物資源を採掘させ金を得る。その資源は、様々なルートを通って一般に流通している。銅やコバルト、金や銀やチタンや様々なレアメタルが、そういった強制労働者の手によって採掘されている。
こういった鉱物資源についてはなじみが無くても、フィリピンのバナナ園や、コーヒープランテーションやカカオの産地では、不当に安く買い付けが行われているのは身に覚えがあるだろう。故にフェアトレードが一時叫ばれたのだから。
日本の過労死も、企業が不当に労働力を搾取し続けた結果であるとも言える。人権を無視した行いは許されることではないが、人権を無視して経済的な合理性だけを求め続けると、そういったことが発生する。
そのような状況は、国連をはじめ、様々な国家にとって周知の事実である。しかし、国家間は基本的に主権が成立するため不干渉だ。故に、形だけでも国家が成立していれば、その中がどうなっていようとも、他国はあまり手出しができない。そして、そういった資源のある国では、大体指導者が大国に操作されているため、そのような現状は見逃されいる。
これは人の話だけではない。環境面でも搾取は起こっている。例えばブラジルのアマゾンの森林は今年は去年の1.5倍のスピードで進んでいるらしい。加えて、今年1~6月の森林破壊面積は計3069平方キロで過去最大だそうだ。
この破壊された森林の土地を使って、食肉の生産や鉱物の採掘、農業をするそうだ。これらの食材は先進国にも販売されているのは言うまでもない。
他にも最近海洋プラスチックの問題が起こっているが、これも、合理化の結果だろう。ゴミを処理するのはコストがかかる。それよりも海に捨てた方が遥かに楽だし、見えなくなる。
この見えないというのが厄介で、見えない物は近くできないため、無いものとされがちだ。それを如実に表しているのが、CO₂である。煙をいくら出そうと一見大気には何も変化は見られない。
こういったことを専門用語で「負の外部化」と言う。要は、嫌な物を遠ざけて無い物として扱うという思考で、大なり小なり様々な場所でみられる現象だ。日本の原子力発電所はなぜ東京に無く、地方にあるのか。それは東京が負を地方に押し付けた結果である。では押し付けられた方は?
このように、資本主義を突き進めると、中心だけが快適でリッチな生活をしているが、周辺は搾取され負を押し付けられ、貧困の中であえぐしかないといったディストピアが出来上がる。
この状況を脱却するのは簡単だ。世界中で生活の幾ばくか、半分ぐらいを自給自足のライフスタイルに戻せばいい。
問題はそれができるか、というところである。
自給自足と言えば聞こえはいいが、我々の世代は親からの土地を受け継いでない人が多い。土地があったとしても、あなたは農業ができるのか?都会でオフィスワークしている方が、農業をするより肉体的には圧倒的に楽である。本当にそれがやりたいか?
コロナで証明されたが、人間やりたくないことを強制されても長くは続かないものである。少なくとも、労働からの解放は人類の悲願であった。それがいくらか達成されている現状、その悲願を手放すことがあなたにできるのか?
少なくとも私は、個人単位でできても、全体は無理だと思っている。また、自分だけ自給自足に片足を突っ込めば、それは搾取の対象になる。それはそれで厳しい。
環境問題が言われて続けて50年ぐらいになるが、研究者たちが一番苦戦してきたのはこれだ。我々は楽を手放せるのか?
と、ここまで考えて、やっぱり袋小路に陥るのである。自分の充足を考えるのならば、やはり市場経済の中で勝ち抜く方がいい。その方が安楽な暮らしができる可能性が高い。
しかし、地球だったり他者のことを考えると、ライフスタイルを自給自足にどんどんシフトさせる必要がある。
本当は自給自足を取り入れたライフスタイルを取るべきなのだろう。でも、現状手を出したくない。
だから、ずっと足踏みをしたままだ。