半空文学賞に応募した話
こんにちは、ニシハラです。
皆様は半空文学賞というものをご存知でしょうか。
香川に住んでいる方なら名前を聞いたことがある人も多いと思うのですが、一応簡単に説明をさせていただきます。
半空文学賞は、香川県高松市にあるブックカフェバー「半空」さんが主催する文学賞です。毎回決められたテーマに沿って、A4用紙1枚に収まる小説・エッセイを募集。今回の文学賞のテーマは「おへんろさん」で、入賞作品の発表は4月8日㈯に行われました。
実は今回、勇気を出して今回の半空文学賞にエッセイを投稿してみました。前から気になっていた半空文学賞。個人的に「おへんろさん」にまつわる思い出があること、A4用紙1枚分の文章でいいという気軽さ・誰かとこの思いを共有出来たらいいなあ。という気持ちから、12月31日ぎりぎりに書き上げてポストに投函しました。
残念ながら入賞とはいきませんでしたが、思い出を一つの作品にまとめるという経験はとても楽しく、そして内容自体も個人的にとても気に入っているため、この場を借りて誰かに読んでもらいたいと思った次第です。(ちなみにBOOK遍路は全く関係ない内容です)
海を渡って、おへんろへ
大学を卒業して初めて入った会社は、地元の旅行会社。主な仕事はツアーの企画とそのツアーの添乗業務。春は桜、夏はお祭り、秋は紅葉、冬は蟹。四季折々、その時にしか味わえないものを、お客様の幸せそうな顔とともに楽しめる素敵な仕事だった。
「ねえ、島遍路の下見についてきてくれん?」
そんな仕事にも慣れてきたころ、会社の先輩に誘われた。その先輩は私が所属する観光部門ではなく、お遍路部門の人だった。
「しま、遍路?」
島と遍路、二つのキーワードが頭の中でうまく結びつかない。
「そう。今やっている四国八十八か所巡りだけやなくて、小豆島の霊場もまわろうという話になって、一緒についてきてくれる人を探してるんよ」
私の中での小豆島の思い出といえば、大学の時に友達といった旅行。何も調べずにとりあえず行った結果、広すぎて何もわからず帰ってきた。小豆島はそんな場所だった。
「行きます!」
よくは分からなかったが、元気に返事だけはした。
小豆島遍路の下見は、お遍路担当の先輩が霊場の確認と行程を組むため、月に一度、先輩と私の休みの日をすり合わせて行われた。私は先輩と一緒に島の霊場をまわり、近所の美味しいごはんを食べて、ついでに話のタネになりそうな観光地を見て帰る。私の中では下見という名の息抜き旅行、仕事ということは頭の中からすっかり消えていた。それもそのはず、そのころの私は新卒特有の(と書くと、まっとうな新社会人に迷惑がかかるけれども)ふわふわとちゃらんぽらんな人間だったのだ。ある時は山の上に行くというのにもかかわらずヒールの高い靴を履いてきたし、ある時は連日の業務で疲れて車内でずっと眠りこけていたりした。
あの頃の先輩は、そんな私に対してどう思っていたのだろう。毎回欠かさず私を誘ってくれる先輩。へらへらと笑うか、すやすや眠るかしかしていない私を嫌に思わなかったのか。思い出の中の先輩はいつだって変わらない。やさしくて静かで、何を考えているのかよくわからない人だった。
話を戻して、島遍路の下見で特に印象に残っているのは帰りの船から見る景色であった。船に乗った時、人は二つのタイプに分かれると思う。ソファ席でゆっくりくつろぐ人とぼんやりとデッキで潮風を浴びる人。私たちはその後者のタイプで、暑い夏も寒い冬も潮風を浴びていた。疲れていたこともあって、帰りの時間はただひたすら海を眺めていた。私はそんな時間がとても好きだった。
海はいつ見ても変わらない。高松港に着く約一時間、見える景色は一辺倒。ゆっくり、ゆっくりと時間が流れる。そんな中にいると、自然とため息が漏れた。毎回、何度もため息をつくので、そのたびに先輩は面白そうに私のほうを見る。あの時は深く考えていなかったけれど、私は本当にこの島遍路の下見が、先輩と旅をする時間が大好きだったのだ。この時間が終わってしまうのが嫌で、残念で、ひとつの抵抗としてため息をこれ見よがしに吐いていたのであった。
船が高松港に着いてしまうと、社用車を会社に返して、明日の添乗業務を済ませて、慌ただしく大変な日常へと戻らなくてはならない。それが嫌で仕方がなかったのだ。
正直に言ってしまうと、旅行会社は心身ともにまあまあ大変だった。朝早く夜遅く、根性で乗り切る事態もまあまああった。もちろん、社会人になりたてというプレッシャーもあったのだと思う。私は内心、疲れと不安でぐちゃぐちゃになっていた。
そんな状態の時に、大好きな先輩と小豆島を巡れた。本当に楽しくてかけがえのない時間であった。小豆島は晴れの日はもとより、曇りの日でも雨の日でもどこか清々しい空気が漂う場所である。自然の雄大さ、島にあるもの全てが興味深くて、カメラ不精な私でも撮りたくなるようなものばかりだった。
現在私は旅行会社を辞めて、別の仕事をしている。今の仕事でも私生活でも、やっぱり嫌なことはたびたび起きる。けれど今の私には、ストレスと戦う術がある。少しくらいのダメージなら、あの時に撮った写真を見れば回復する。中くらいのダメージなら、船に飛び乗り瀬戸内海を眺めればいい。それでもダメなら、先輩に会いに行けばいい。そうやって私は強く楽しく、今を過ごしている。
いやぁ~、恥ずかしいですね!!!!!!!
これまでちょこちょこと小説や絵、短歌に写真といろいろつくってきてはいたのですが、あまり人に見せることはしていませんでした。ただ、このnoteしかりBOOK遍路MAPしかり、思いを形にすること・誰かに見てもらうことは楽しくて幸せなことだと気づくことができたので、めちゃくちゃ恥ずかしいのですが載せることにしました。ここまで読んでくださった方がいたら、とても嬉しく、また今後の生きる糧にします。
最後に
半空文学賞の入賞作品集は、県内外の本屋をはじめとするお店、図書館やお寺などで無料配布されています。(詳しくは半空さんのHPにて、配布先をご確認ください)