ダイバーシティ経営を支える価値表明
多様性を活かしたチームをつくる必要性とチャレンジをさまざまな業種の方から伺う機会が増えており、チーム運営の方法をもっと知りたいと手に取りましたが、ダイバーシティを活かすマネジメントに必要なノウハウがわかりやすい実用書でした。
特にマネジメント方法として参考になったのは、ある日系メーカーのインド支社のケースです。
インド支社の日本人マネージャーは、インド人の部下から親族の結婚式のためにその年6度目の1週間休暇を申請され、悩んでいたそうです。
背景にはインドと日本の結婚式の文化のちがいがあり、インドでは結婚式はお金をかけて盛大に行われ、挙式と披露宴は別であり、7日間連続で開催されることもあるといいます。歌、ゲーム、ダンス、コンサートなども催され、費用はすべて招待側の負担のため「結婚式ローン」も存在するほどで、日本と比べて家族のつながりが強い、という特徴があります。私はインド映画で結婚式のカルチャーを見たことがありましたが、ビジネスにおけるコンフリクトのケースはこの本で初めて知りました。
こうした課題に直面した際、組織行動学とコンフリクト・トランスフォーメーションを専門とするロビンソン教授が提案するのが「スピークアップ」という、声に出して発言し、自分の意見や価値観を表明する方法です。
多くの企業では少数派のメンバーの声を拾い上げる手法として用いられていますが、従順な部下ばかりではなく過剰な反論や自己主張をされるケースもあり、言いたいことを我慢する上司がチームの問題が悪化させてしまうこともあります。
私も似たケースの経験があり、話し合いの中で意見に対していつも3倍返しで反論する20代の人がいて、チームのメンバーも彼の言動に疲労困憊し、もう何を話しても時間の無駄だと感じてしまったことがありました。
このような状況で有効な手法として「ジェンティーレの価値表明」というものが紹介されていました。年長者や尊敬する人物から「もしもある特別な状況になったらどうするか? どうしたいか?」と質問され、実際に困難な状況に直面したときにどう行動するのかを心の準備をし、事前の練習をすることで困難を乗り切る力を得られるそうです。
そして、練習時には、下記の「価値観ステートメント」を作成することが重要となります。
・相手との共通する価値観
・自分を悩ませる出来事
・それについての感情
・自分の真意
この価値観ステートメントを元に、たとえばインドの日本人マネージャーのケースでは、下記のような言い方が想定されるといいます。
「私たちはチームの協力でパフォーマンスを上げることと、ワークライフバランスを大切にしています。休暇を6回とる人がいる一方で、一度も休暇がとれず疲弊している人がいます。それが心配です。チームメンバー全員の健康も考慮に入れた業務の分担方法を考えるために、今後どうしていくかを話し合いたいと思います。あなたらからの提案をいただけないでしょうか?」
(『実践ダイバーシティマネジメント』101Pより引用)
私も事前の練習をしていたら多様なメンバーの力をもっと引き出せたかもしれない、と反省すると共に、こうしたナレッジを広めていくこともメディアの役割であると痛感しました。
著者によると、スピークアップの最大のメリットは「集団思考」を避けられることであり、チームで新しい視点を活用でき、透明性につながり、メンバーの関係性をより強固にし、ビジネスの成功の基盤になるといいます。
世界中の企業や組織で起きている粉飾決算、不適切会計、情報の隠蔽、個人情報流出、システム上の欠陥、労働問題などの背景には「隠蔽体質」があり、経営陣・組織全体・個人で気づかないふりをし、それを周囲にも強要する文化があると指摘していました。
このような問題を避けるために、スピークアップできる個人を育てること、価値観を主張できる企業文化をつくることが重要であり、これから動画メディアを通してこの課題にチャレンジしていきたいと思います。