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【書評】サイゼリヤ創業者「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」

著者の正垣泰彦氏は学生時代のアルバイト経験から飲食店敬遠に興味を持ち、家族から借金をして千葉にサイゼリヤ1号店を創業。しばらく鳴かず飛ばずの時期もあったが、激安イタリアンをヒットさせ、今のサイゼリヤを築き上げた。

週1~2回のペースで通っていて個人的にもかなり気に入っているチェーン店なので、創業者の本に触れてみることにした。

仕事の無駄をなくす一番の方法は、何かを改善しようと考えるのではなく、今までやっていたことをやめること

飲食店ならメニュー数を絞ることが一番無駄を減らせる。(略)絞り込んでメニューを提供すると食材ロスが減り、作業の効率も良くなる。ムダを省くので利益もドンドン出る。そうなってきたら利益の一部は、お客様に還元すべきだから、値下げをする。すると、さらにお客様に喜ばれて、来店客数も増える。つまり、無駄を削ぎ落とすことで、お値打ちな商品になるから、お客様に喜ばれて売上も最終的に増えるのであって、初めに安売りありきではないのだ。

ファミレス=メニューが多いという印象でサイゼリヤのメニューも一般的なファミレスと同じように思っていたが、改めて確認するとページ構成は「パスタ・ピザ・ドリア・グラタン・サラダ」などの基本形で「野菜たっぷりドリア」みたいな○○ドリアで水増ししていたり、生ハムやアンチョビキャベツなどの付け合せをページの至るところで再登場させていて、よく見るとメニューは少ない。

物事をありのままに見る

自分本位に物事を考えてはならない。
世間でずっと言われていることだが、そうした失敗がなくなることは決してないだろう。ただし、「物事をありのままに見る」ことで、私の言葉でいうところの「原理原則」を知り、正しい経営判断ができる可能性を高めることはできる。
そのためには、店で起きているあらゆる現象を観察し、可能な限り、数値や客観的なデータに置き換えて、因果関係を考えることだ。
なお、何らかの事象を観察するときは「なぜ、そうしたことが起きているのか?」と考えるだけでなく、「なぜ自分はそう思うのか?」と何回も自問すること。そうすることで、『売れないのは立地が悪い』→『自分は売上不振を立地のせいにしていないか?」→『悪立地でも繁盛している同規模の店を調べてみよう』という行動につながり、正しい経営判断を導けるようになる。

仕入れは価格より品質を重視する

同じ取引先と長く付き合って、相手が提示した価格で取引をしてきたが、不都合を感じたことはない。そもそも長期的に考えると、買い叩くことで、こちらだけが得をするというのは不可能なんじゃないかと思う。
何が一番大切かといえば、仕入れ業者との間で、納品してもらう食材の品質について下限を決めることだ。
(略)そしてもう1つ、必ずやらなければならない重要なことが、仕入れた食材の品質が前述の条件を満たしているか、仕入れの都度、検品することだ。

私の会社でも数百万とかの発注をかけることが増えてきたのだが、発注する側に回らないと発注側の気持ちはなかなかわからない。以前、受注ばかりする側だったときはこの金額で提案が通るか、この条件をどうやって飲んでもらうかというようなことをよく考えていた。
発注する側の気持ちは、取引によってもちろんケースバイケースなのだが、"一番安いものを選びたい"という気持ちは受注側が思っているほど感じていないケースが多いと思う。基本的に発注側のほうが金を持っていて失うものがあるので、顧客にまずいものを提供したとか関係者に不都合を生じさせたみたいなレピュテーションリスクが高いため、逆に受注側が想定するよりも"安定していて確実なものを選びたい"という気持ちは強い。

あとは値下げを要求する(せざるを得ない)ケースというのは、「適正価格で買うとビジネスが成立しない」「高い金額をふっかけてくる相手と取引をしている」「競合が少ない売り手市場(なのでこちらの立場が強くならないとやはりビジネスが成立しない)」など、根本的に解決すべき問題が潜んでいることが多いと思う。

ターゲットを絞らない

よく飲食店経営の本にはターゲットを絞れと書いてあるが、私はお勧めしない。人口の少ない「地方」では、ターゲットを絞る店は成り立ちにくい。だから、あなたの店が地方にあって、うまくいかないと悩んでいるなら、あなたの店が商圏に合っていない可能性が高い。そして、商圏の広さや人口は、店の利用形態によって異なる。

これもなんとなくわかるのだが、"商売をど真ん中に絞ること"と"顧客を絞ること"は全く意味合いが違うと思う。
商売のど真ん中は、サイゼリヤがカレーやハンバーガーを売らないことで、「学生を相手に商売する」ことではない。
あとはサイゼリヤが高級路線に手を出さないのも「商売を真ん中に絞ること」であり、高所得者層をターゲットから外しているわけではない。
私は収入的にはあるほうだけど、良いイタリアンに行こうと思ったら青山とかで客単2万ぐらいの店を選ぶし、さくっとパエリア食べようと思ったらサイゼリヤに行く。一番安くてそこそこのイタリアンという商売に絞っていれば、それに惹かれる顧客が勝手に集まるだけだろう。

本書の教訓

省略したが本書には実際的な飲食店経営におけるKPIの見方、マネジメントなどもあり面白く読めた。全体を通じて奇抜な話はなく、極めてベーシックな経営論が体験ベースで述べられていると思うが、起きている事実を正しいことと受け入れ、それをどう自分が解釈しようとしているのかの考察にリソースを割く徹底した姿勢は、氏が経営=事実から原理原則を演繹することだと捉えていることが覗えた。

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