城山三郎 「男子の本懐」
今は消されてしまったがYouTubeで戦後の自民党史をTVタックル風に面白くまとめた動画を見たことがある。
田中角栄の立身出世に始まり宮沢喜一が論語の「智者は惑わず 仁者は憂えず 勇者は畏れず」という一節を引用しながら内閣が倒れるまでをまとめたものだが、とくに選挙戦で田中角栄のローラー作戦が先輩政治家の墓参りにまで及び、総裁選出馬の際に浜口雄幸の墓参りをしていたのが印象的だった。
本書はその浜口雄幸が、盟友の井上準之助とともに国家的政策であった金解禁(金本位制への移行)を断行を達成した生涯を綴った人物伝である。
歴史的には緊縮・デフレ政策下で行われた金解禁は深刻な不況を招き、結局再禁止に至ったので努力の甲斐虚しく徒労に終わったと言える。経済の素人目に見ても、金本位制の復帰=通貨政策・金融政策の放棄になって何もいいことはない気がする。その上、 国民に対して質素倹約を強いていたというのだから前近代的な経済観に映ってしまう。
歴史の教科書で出てくるロンドン海軍軍縮会議での軍事予算削減を行ったのもこの内閣で、浜口雄幸首相、井上準之助蔵相は緊縮による民衆の不評と軍閥からの反感を買い、いずれも襲撃・暗殺されてしまう。タイトルの男子の本懐は、襲撃直後の浜口雄幸が金解禁を達成した今、国に身を捧げる形で死ぬなら本望であると、この言葉を述べたことに由来する。
本書の教訓
本書は、読み手によって大幅に感想が変わる歴史小説だろう。著者の城山三郎、および昭和世代の受け手は、国民や軍部の反発を恐れず信念に基づき政策を断行し死の間際に本懐であるとすら語った彼らを賞賛する。
一方、現代的な経済学からはかなり疑問視される政策であるし、事実当時の国民に苦渋を強いた点は見逃せない。
ただいずれも、信があれば首相や大臣といった地位に上り詰め国家的な難題に取り組めるし、結果がどうあれ人物的に曇りがなければ、当時の実績はどうあれ後代からは美化して見えるということかもしれない。
政治家の評価も富士山のように遠目で見て初めて評価されるもの、その時代のヒトから評価されるもの、と幅があるのだろう。
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