仏のような年下夫が小動物に憑かれ悪者に変貌した話(実話)第4話
【結婚記念日にふさわしい盛大なBOMB】
ご家族からの訃報は、静かな部屋で聞いた。
年甲斐もなく大泣きしてしまった。
先日のおじいさんの手のぬくもりはまだ思い出せるし、まだ渡すお手紙だってあったのに。
ご家族にお礼を伝えて電話を切ったあと、もうひとしきり泣いた。
でも子どもたちに心配かけたくなくて、「そろそろ泣き止んでリビングに戻ろう」と、冷静な自分もいた。
なぜならその日の夜は、週末に合わせた結婚記念日のお祝いをするつもりで、夕食の準備をしていたからだった。
準備をしていたリビングから別室に移動する際に、おじいさんに何かあったかもしれない、もしかしたら…と伝えて出てきたし、私がなかなか戻ってこないから、きっとみんな心配しているだろう。
悲しい気持ちを隠す必要はないから、このままの気持ちでリビングに戻ろう。
お祝いをする日だったけど、きっとみんな理解してくれるはず。
リビングに戻ると、すぐに子どもたちが駆け寄ってきた。
「ママ…。」と私に掛ける言葉すら出てこないようだった。
あまり記憶にないけれど、ふたりとも目に涙をためていたかもしれない。
その姿は心配しているどころか、どうにか寄り添ってあげたいのに、何をしてあげればいいのかわからないという歯がゆい気持ちすら感じて、愛おしさに包まれた。
「おじいさんが亡くなってしまって…」と絞り出すように伝えると、たまらずまた涙が溢れてしまった。
そんな私を抱きしめたり、頭をなでてくれたりしながら、子どもたちは一緒に泣いてくれた。
・・・・・・・・・・あら?
ちょっと待って。あら?え?
あの人どこ行った?ほら、あの人、私の主人。
子どもたちの思いやりと温かさに包まれて、随分落ち着き始めていた私は、主人がリビングにいないことにようやく気が付いた。
出掛けた?
もしかして、私を元気づけようとサプライズ…とか?
いや、今サプライズされても喜べないし、などと考えつつ、なんとなく和室の扉をスーッと開くと、そこには嘘のような惨状があった。
なんやこれ…。
さっきまで記念日の準備を手伝っていた主人が口を開けて、お腹を出して、眠っている。
私の、妻としての、女性としてのぬくもりや情みたいなものが、まるで温度計が冷める時のあの赤い液体のように、スー…と下がっていくようだった。なんの感情も湧かない。
ただ、思わずその醜い物体に向かって携帯のカメラを向け、パシャリと1枚だけ記録に残した。
アルバムのどのジャンルにも属さない、今まで撮ったこともないような画像だったが、その時の私には必要だった。
「これ」を忘れてはいけないと思った。
感情を失ったようだった私は、感情を失ったのではなく、そこに僅かなエネルギーさえ消費しようとしていなかったのかもしれない。
怒りにさえ値しない。そういうこと。
そして私の少し後ろで、怒りに燃えたぎるふたりの子どもたち。
そのオーラは「信じられない」「最低」みたいな旗を掲げて、今まさにデモ活動に出陣する人たちのようだった。
私は、主人を起こしたくもなくて、またスー…と扉を閉めた。
永遠にお休みなさいませ~
第5話に続く
【スピリチュアル界隈からのお誘い】