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BONXのチームビルディング。その現在地

チームが全て。

BONXという会社を経営して10年。組織作りにまつわるありとあらゆる失敗をしてきた今だからこそ、心の底からそう言える。いかに魅力的な市場を捉えていても、素晴らしい技術を持っていても、創業者が有能でも、チームが作れなければスタートアップの成功はない。スタートアップの世界じゃなくても、サッカーだってバスケだっていかに市場価値の高い選手を集めても必ず勝てるわけじゃない。

BONXでは本当にたくさんの失敗をしてきた。
セールスチームが崩壊したこともあった。
開発チームが崩壊したこともあった。
経営チームも完全に刷新。
採用ミスも数知れず…。

しかしその度に立ち上がり、立て直してきたからこそ、今がある。
その過程で自分のチームに関する考え方も大きく変わった。
当初はリーダーとして半端じゃなく未熟だったし、今も大いに未熟だから、この先も考え方は変わるだろう。だからといって何も発信しないようだと一生何も発信できないので、どういう考えでチームづくりをしているかを言語化したいと思う。5年後10年後に「何青いこと言ってんだ」と恥ずしくなるかもしれないが、それよりも今伝えるべき人に届けることを優先したい。

さて、本題。
僕の現在のチームづくりに関する考え方は、シンプルにこの図に集約されている。

偉大なチーム作りのフレームワーク

毎月の全社集会では必ずこの図を映して全社員に話している。

「THE GREAT TEAM FRAMEWORK」というたいそうな名前がついているが、僕が勝手に考えたものだ。チームにとって大切だと思うことを、①個人の視点、②関係の視点、③全体の視点の3つに分けて示している。
それぞれについて簡単に説明したい。

①個人の視点 = ゴキゲン / Gokigen

ど真ん中に据えているのが「ゴキゲン」である。

これほど重要視している「ゴキゲン」は、『スラムダンク勝利学』の著者でスポーツ心理学を専門とする辻秀一先生から学んだものだ。
かなり苦しい時期にあった自分が友人の勧めで辻先生の本と出会い、大げさだが革命的な変化があった。自分の内なる変化が会社の変化にもつながり、今のBONXがある。今ではその「ゴキゲン」を組織全体に広げたいという思いから、辻先生にはBONXの産業医になってもらい毎月社内でレクチャーをしてもらっている。

みんなにゴキゲンでいて欲しい理由は色々説明できるが、逆にフキゲンな人がいるときのデメリットを考えると分かりやすい。1人でもフキゲンな人がいるだけで僕らにとってのピッチであるミーティングルームの雰囲気は劇的に悪くなり、自由な発言がし辛くなる。特に上の立場の人間がフキゲンだとみんなその顔色を伺い、物事が滞るし、何かイニシアチブを取ってやろうという気概も失せる。スピークアップができないから「不都合な真実」も放っておかれ、それはやがて会社に死をもたらす。みんなを自分の精神的支配下に置きたいならフキゲンは有効なツールだが、それが有効なのはリーダーがすべてを把握して正しい戦略のもとに一挙手一投足を指示できる場合に限られる。情報で不完全で不確実性が高く、現場が裁量を持って動き回るような柔軟性や機動力が求められるスタートアップの環境とは相容れない。また不機嫌な会社には優秀な人材は集まらないし定着しないだろうし、何より僕個人としてそんな会社で毎日働きたくない。

ゴキゲンというのは揺るがずとらわれず、今・ここ・自分に集中できる心の状態であり、さまざまな外部環境の中でも自分のゴキゲンを取り続けるスキルを磨くことをBONXのメンバー全員に求めている。

ゴキゲンというと何となく「ぬるい」イメージを抱くかもしれないが、それは違う。目指すゴキゲン像を示す素晴らしい言葉が「一生懸命を楽しむ」である。大谷選手の例とともに辻先生がよく使う言葉だ。そこには能天気な響きなど一切なく、いつまでもチャレンジャーとして毎日に向き合う真剣さや純粋さが滲み出ている。
自分がそういう精神で生きていれば、自然と言葉や態度に現れてくるし、周囲に対する感謝・応援・思いやりの気持ちも出てくるだろう。

このように、集団というレベルの話の前に、一人一人がゴキゲンに価値を置き、毎日一生懸命を楽しむというマインドセットを持った成熟した個人であることがチーム作りの出発点だと信じている。

②関係の視点 = 信頼

信頼が重要だという話に反対する人は少ないだろう。個人的信頼関係がなくてもルールと役割分担に従って黙々と自分の仕事をしていれば良いのがいわゆる「官僚的な」組織であるが、それになりたくてもなれないのが未成熟で変化の早いスタートアップというものだ。
しかし信頼関係を育むのは容易ではない。
僕なりに会社組織で信頼関係が生まれる要件を考えたのがこの図である。

関係の視点イメージ

要するに、チームが一人一人に愛と思いやりをもって接する面と、一人一人がチームのために誠実に一生懸命に頑張るという面の、両面が必要だということだ。

前者について、「愛と思いやり」というとちょっと重たいと感じるかもしれないが、まず人対人の関係性や相互理解がないと信頼関係は成立しづらいという考えがある。職場なのだから「プロフェッショナル」としてプライベートのことは一切持ち込まず、お互いが職責を果たすという一点において相互に信頼し合えればよい、という考え方もあるだろう。しかし僕としては「職場というのは人生のかなりの時間を費やす場所なのだから、意味のあるつながりに溢れた質の高いコミュニティにしていきたい」という基本的考えを持っており、仕事以外の様々な側面を持った人間としてお互いに接することで、人対人の関係性を築き、深い信頼関係を育むことを目指している。

しかし「人対人の関係性を築く」といってもそんなに簡単ではない。そこで参考にしているのが霊長類研究者である京大の山極教授の考え方だ。

本来、信頼感というものは「身体の同調」でしか作られないものだからです。
 身体の同調とは、具体的にいえば、誰かと一緒に同じものを見る、聞く、食べる、共同で作業をする、といった五感を使った身体的な共感や、同じ経験の共有のことです。
 これには当然、時間がかかります。その代わり、言葉のやり取りだけではとうてい得られない強い信頼を互いの間に築き上げることができる。

近道などはないということだ。
物理的な存在である人間にとって、物理的に一緒にいることは重要だ。
ここにこそオフィスという物理的空間の価値がある。オフィスで一緒に働き、色々な体験を共にすることは、様々なデジタルツールの登場によって話さなくても仕事が進むようになった現代だからこそ価値があるとも言える。

BONXの一部の社員は地方や海外からリモートワークで働いているが、それはチームの関係性を育むという観点で言えばはっきり言って非常に不利である。
しかしBONXの場合、リモートで働いている社員ほどチームに対する意識が高いようにも感じる。オンラインで自分のavailability を常にわかりやすくし、レスも早く、なるべく他のメンバーにとって働きやすくしている。また積極的に東京にも来て対面の時間も作っている。もちろん実際に会わなくても、1on1で仕事以外の話をするとか、ビル・キャンベルのように意味のある雑談をするとか、人と人の関係性を育むためのやり方はある。しかし人間関係には常に遠心力が働いていて放っておくと希薄化してしまうから、そういった弛まぬ努力がないと、リモートベースで関係性を育みコミュニティを作っていくのは難しいと思う。

このような努力を通じてお互いに人間として接するという土壌を育んでいけば、「愛と思いやり」という本来人間として持っているものも表現されてくるだろう。

一方で、「チームとして一人一人に愛と思いやりを持ちましょう」などと言うと「では僕は電車通勤が苦痛なのでリモートにさせてください」とか「朝が苦手なので午後から働きます」みたいに、なるべく自分に都合よく会社の制度を使って楽をしよういう人間が出てくる。

そこで重要になるのがもう一つの側面である「誠実に一生懸命に」だ。自分は一生懸命やってるのにあいつは一生懸命じゃなければ、土台信頼関係など生まれようがない。「俺もあいつも一生懸命頑張ってる」という状況が職場における信頼関係には必要だ。電車が苦手な人間がちょっと多めにリモートするのも、低血圧な人間が午後から仕事するのも、チームに迷惑がかからないなら別に許容すればいいとも思うが、それも全て「あいつはあいつなりに一生懸命頑張ってる」と周りが信じられればの話だ。この状態を担保するには恐怖やインセンティブといった外発的動機づけで一生懸命やらせるか、内発的動機づけで自ら一生懸命やってもらうかのどちらかしかなく、サステナブルで強いのは後者だと考えている。だからこそ、毎日一生懸命を楽しむというゴキゲンスピリットを一人一人が個人のレベルで持っていることが大切なのだ。

「このチームは私のことをちゃんと考えてくれる。だから私もこのチームのために全力を尽くそう」というメンバーが多いの方が強いチームだと思うし、それが「信頼」に込められた想いである。

③全体の視点 : 共有

最後に来るのが「共有」である。

共有するべきものはビジョン・ミッション・バリューやパーパス、そして目標が挙げられる。
いくら一人ひとりが一生懸命を楽しむというゴキゲンなマインドを持ち、お互いが信頼関係で結ばれていても、目指す方向がバラバラであればベクトルが合わずに組織としての出力は出ない。

「共有」が特に僕らにとって大事なのは、「個々が役割以上のことを出来るチーム」を目指しているからだ。

変化の早いスタートアップでは、与えられた役割以外のことをみんながやらないとお見合いや漏れなど業務上のエラーが発生する。「スタートアップに必要なのは、船が浸水したときに真っ先に穴を塞ぎにいく人間だ」というのは良く言ったものだ。
またスタートアップは変化が早いというか、自分たちで努力して変化し続けなければならない。これをやっていれば十分儲かるというビジネスモデルがないのだから、チームとして試行錯誤をし続けなければならず、同じことを変わり映えなくやっていてもダメだということだ。
集団として試行錯誤するには自分の役割以外のことにも意見を出してチームを動かしていくことが必要になるが、それは簡単ではない。少なからずコンフリクトが生まれるし、ストレスの元になるから、楽に働きたいならそんなことやらない方がマシだ。

そこで重要なのが、目的や目標を共有していることだ。
スポーツでチームメイト同士が言い合うシーン(例えばFWがDFに「もっとディフェンスラインを上げろよ!)があるが、あれが成り立つのはお互いに「ゲームに勝つ」とか「優勝する」という目標を共有しているからだ。FWがDFに「もっともみ上げ短くしろよ!」と言っても、髪型に関する目標を何も共有していないからコミュニケーションは成り立たない。(「チームとしてかっこよくある」みたいな目標を共有しているなら話は別だ)。ビジネスでは「世界を◯◯な場所にしたい」のようなビジョン的な話もあるが、資本主義は競争であるという側面は厳然として存在しているので、「勝つ」というシンプルな目標もしっかりと共有する必要がある。(なぜかその側面が軽視されがちな文化がこの界隈には一部ある)

「僕たちは目的・目標を共有しているんだ」という意識も含め、ここ数年で市民権を得た「心理的安全性」が重要なのはこのためである。
みんながナチュラルにズケズケと人に意見を言える性格ではない中で、「役割を超えて意見を出し合う」文化を作っていくためには、「言っても大丈夫なんだ」という感覚を持ってもらうことが必要だ。
不機嫌な人には意見しづらいから、一人一人が「ゴキゲン」でいることが大切。
信頼できない人には意見しづらいから、みんなが「信頼関係」で結ばれていることが大切。
そして一緒の方向を向いてない人には意見しづらいから、チームとして「共有」することが大切。
結局全てつながっているのだ。

総括すると…
みんなで同じものを目指すことを通じて、遠慮なく意見し合える信頼関係と毎日を一生懸命に楽しむゴキゲンマインドが育まれ、そのチームで働くこと自体が最高の報酬になるようなチーム
というのが理想像だ。

そして、
そのようなチームでビジネス上の結果を出し、従業員や顧客までをも物心両面で豊かにしたい
というのが僕が経営者として目指すことである。

最後に前提を一つ補足すると、「スタートアップはプロスポーツチームのように運営されるべき」だと考えている。
これがNetflixの考え方であることを知っている人も多いだろう。
いかに綺麗事を並べようが、ビジネスでも競争に勝って利益をあげなければ、その企業の明日はない。その世界では、チームが求めるパフォーマンスに満たない人がいる場所はないし、チームが求めるものが変われば人の入れ替えも起きる。この投稿を読んで暖かさを感じてくれた人も多いかもしれないが、実際にはそのような側面はある。
そのようなシビアな世界だからこそ、「ゴキゲン」「信頼」「共有」といったものを大事にして強いチームを作ることが必要なのだ。勝つために。

このフレームワークを作った後に、辻先生の『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル 』という最近の本を読んで非常に似通ったフレームワークが提唱されていてビックリした。このフレームワークを考えたのは本を読む前だったので決してパクったわけではないが、そもそも辻先生にしっかり影響を受けているのだから同じようなフレームワークに行き着いてもなんの不思議もない。

だからと言ってこのフレームワークが正解だと言うつもりもないし、実際にそうも思っていない。組織には様々なあり方が存在し、違うやり方で成功することはできる。

どのような組織モデルが良いのかは、やっている事業の特性にもよるが、何よりリーダーのキャラクターにもよると思っている。そしてリーダーのキャラクターはなかなか変わらないので、結局はそのリーダーに合った組織を作っていくしかない。

実はそのように「リーダーに合わせて組織を作る」という割り切りをするのには時間がかかった。新米起業家として「自分はこう言う性格だからこう言う組織を作ろうと」と言うところまでクリアな自己認識を持てている人間はどれだけいるのだろうか。自分はどちらかと言えば「組織として足りない部分はリーダーとして自分に足りない部分なんだな。もっと成長しなきゃ」と言う思考が強かった。例えば自分は人を怒ったりプレッシャーをかけたりすることが好きでも得意でもないから、組織の規律が弱まるんじゃないかと考えたりした。

実際に組織はリーダーの鏡だから、組織を見ることを通じて自省し、気付き、成長していくことも一定必要だと思う。

しかし岡本太郎が言うように「人間は誰もが未熟」であり、組織の問題を全て自分自身に内在する問題に帰結させてばかりいるとキリがないし、段々と自信が無くなってしまい、リーダーとしての役割を果たすことができなくなると思う。
岡本太郎に言わせればこうだ。

未熟ということをプラスの面に突き上げることが人間的であり、素晴らしいことだと思わなければならない

このバランスの塩梅は本当に難しいし、実践を通してしか得られないものだと思うが、どこかで「自分はこう言う人間で、このような特徴があるから、こう言う組織にしていこう」という割り切りが必要になってくると思う。

なのでこの僕が考えたフレームワークは結局僕が作る組織にしか当てはまらないのかもしれないが、それでもいいと思っている。大事なのは、僕が信じた組織像を追求することと、それに共感してくれる人を集めることだと思う。

という意味も込めてこのブログを書いている。
これを書くのにそれなりの時間を使ったが、BONXへの入社を検討している人がこのブログを読んで考え方にマッチしているかどうかを自分で判断してくれ、採用のマッチ度が向上したらそれよりROIの高い仕事などCEOにとってはない。

ここに書いたことは形而上学的なレベルでは多くの人の共感を得るかもしれないが、実際に本当にみんなが行動に移すかと言うとそうでもないことを僕は知っている。いつもゴキゲンであることは結構努力が必要なことだ。仲間との信頼関係に投資するよりさっさと帰ってネトフリでも見ることを選ぶ人は多い。この文章を読んでなんとなくその気になった人にも、その辺りは改めて胸に手を当てて考えて欲しい。

フィル・ジャクソンの言う通り、そのような素晴らしいチームで毎日プレイできること自体が最高の報酬となるはずだ。それが最高の人材をチームに惹きつけ、チームとしての最大の成果をもたらす。

ここに書いたことは所詮ひとつのスタートアップを10年程度経営してきた人間の考えには過ぎないが、こうした思いに共感してくれる仲間と一緒にチームをつくっていくことは本当に幸せなことだと思う。


当記事はCEO宮坂のブログ記事(2024年10月1日公開)と同内容を掲載しています。元記事は下記リンクよりご覧ください。