先輩起業家の皆様に学ぶ:起業家の構造的な悩み、そして成長とは【BONX社長ブログ 】
起業家は構造的に悩む生き物だと思う。
自分も悩む中で、色々な先輩経営者の方に相談に乗って頂いた。本当に感謝している。
今回はそのたくさんの会話の中で自分が得た学びの一つを、自分の体験も踏まえてまとめてみた。これは起業家や起業を考える人にも読んでもらいたいし、広くリーダーシップに関する学びにもなるかと思う。CEO、特に創業CEOは本当に悩みの多い仕事で、自分自身の精神状態を保つことが実は最も難しいスキルだとBen Horowitzは言っている。
CEOに求められるスキルは多岐にわたり、そのほとんどはCEOをやることでしか身につかない。CEOに点数をつけるなら平均22点ぐらいなんだろうが、本人は世の中の平均が22点であることを知らないから、100点からかけ離れている自分のスキル不足に悩む。辛い決断も全部自分にのしかかってくる。会社でうまくいかないことがあると(いつでもあるが)、全部自分のせいだし、他責にしても自責にしても辞めたほうがいいのではと思ってしまう。でも辞めたらそこで終わりだ。
What’s The Most Difficult CEO Skill? Managing Your Own Psychology
という感じのことを言っている。
自分も5年以上に渡って創業CEOというポジションを努めてきたが、上記については100% Agreedという感じだ。
スキル不足による悩みも多く、もちろんこのブログで解決できるものではない。しかし今日ここで共有する内容を知ったことで、自分の場合はとても前向きに創業CEOという苦行を続けようというマインドになった。だから、このことを教えてくれた先輩方への感謝も込めて、この投稿を書くことにした。
というわけで本題に入る。
冒頭で「構造的に悩む」と言ったが、それはどういうことなのか?
起業からの時間軸で説明していきたい。
起業家視点で見たときに、大きく3つのフェーズがあるのではないかと思う。
1.全能感のフェーズ:俺だったらできる。(だから起業する)
2.無能感のフェーズ:あれ、俺って何にもできない?
3.第三のフェーズ:俺しかできないことをやろう
1. 全能感のフェーズ:俺だったらできる。(だから起業する)
起業はリスクが高い。
リスクが低くてリターンが大きいならそんなことはもう他の人がやっている。プロダクトもマーケットも立証されていてない中で始めなければならない。どれだけビジネスプランを練ってみても、やってみなきゃわからない部分は残る。それでもやろうという人には、全能感に満ち溢れた人種が多いんだろうと想像する。というとちょっとキモい人たちだなという印象を受けるので、「自分だったら努力すればきっと大抵のことはできると思っている人」と言ったほうがマイルドかもしれない。
やはり根本的に自分に自信がないとなかなか一歩は踏み出せないだろう。
そういうマインドセットが育まれる背景には、家庭環境や、強烈な逆境を乗り越えた体験、学歴や職歴など、色々なものがあると思う。
そして実際に起業してみるとどうなるか?
自分がすごくパワフルに感じられるはずだ。オフィスに行って、自分がビシバシ決めると物事と進んでいく。どこで読んだのか忘れたが、「スーパーマンみたいな感じがする」という表現をしていた人もいた。自分がビジョンを作った創業者であり、特に初期メンバーはそのビジョンを実現したいと思って集まってくるので、意思決定権が自分に集中しやすい。もちろん知らないこと、できないことは山ほど出てくるし、細かな挫折も日常茶飯事。やってる最中は大変だ。でも基本的には前述の通り「やればできる」と思っている人だし、それなりに地頭も良い。だから「大変だけど楽しい」と、思い描いた自己成長をしながら、存分に裁量を振るうことを楽しみながら進んでいく。
2. 無能感のフェーズ:あれ、俺って何にもできない?
採用の鉄則として、「自分より優秀な人間を雇え」というのがある。
それを続けていくと、各所で自分より優秀な人たちが溢れてくることになる。そして、自分がドライバーシートに座ることに慣れきった創業社長という存在が邪魔になるケースも増えてくる。
そうなってきたところで、だいたい何か事業上でもうまくいかないことが出てくる。創業者は必ずしもビジネスのプロではないし、もともと不確実なことをやってるわけだから、当初の計画通りに行くことなんてむしろ奇跡だ。
スタートアップのほとんどは大なり小なりのピボットをするが、それは想定通りにいかなかったから進路変更をするということ。創業者としては、自分のプラン通りにいかなくなったということ。
そして、自分がやらないほうがうまく行くというシーンを次々を目にするすることになる…。
そうした状況が訪れると、「チームがたくましくなったなぁ」とか言ってる裏で、創業者の全能感が一挙に無能感へと変わる。
「無能」というと少し大げさかもしれないが、前の全能感のフェーズからの自分の立ち位置の変化があまりにも大きいので、それぐらいに感じられる。「自分が作った会社なのに自分はいないほうがいいかも…」というのは苦しい心境だ。外から見ると会社は成長してるのになんで自分はこんな悩んでんだ、という思いもあいまって、精神的に苦しい状況に追い込まれていく。
3. 第三のフェーズ:俺しかできないことをやろう
その中で、「創業者」という唯一無二の存在だからこそできることについて考え始める。そして行き着くところ…
それがビジョンとミッション。
行き着くというか、帰り着くというべきか。
日々の成果を出す、KPIを達成する、上場する。そういったことも重要だが、スタートアップにジョインするような人材は、「なぜこの会社で働くのか」という理由を求めている。
それがビジョンやミッションだ。
そのビジョンやミッションを、誰よりも信じ、最後まで信じる。
それが自分の存在意義である。
色々な創業経営者の方にお話を伺ったが、上記のように自分の役割・存在意義を定義している方が多いのに驚いた。
もちろんチームの状況は千差万別で、人によって他にも色々な役割を担っているわけだが、これは一つの共通項だったと言えるだろう。
このように自分の存在意義を再定義すると、チームに対する考え方も変わる。起業家には特に主人公マインドセットの持ち主が多そうなものだが、ここに来て主役は自分じゃなくてチームであることに気づく。実際に日々事業を前に進めるのはチームだからだ。そうすると、だったらこのチームにリーダーとしてどう貢献できるのかという考え方になり、リーダーとして新たな成長のステージに入る。
ビジョン・ミッションを軸にして、その人にふさわしいスタイルのリーダーシップを学んでいく。そして会社にとって唯一無二の存在として、第一のフェーズとは違う形で、もっとレバレッジの効く形で組織を率いていき、経営者として成長していく。
以上が、自分が様々な経営者との話や、自分の体験を踏まえて知った一つのパターンである。あくまで一つのパターンであるので、違う変遷をたどる起業家もたくさんとは思う。
一方でこのパターンにハマりやすいのは、若くて組織のリーダーとしての経験も少ない起業家かもしれない。
まさに自分もそういう起業家だったように思う。
昔のブログを読み返すと、なるべくポジティブな感じで書いてはいるがフェーズ2にいたんだなというのがわかる。一方で、フェーズ3についてようやく理解できてきたので、先日はビジョンについてのブログを書いたわけだ。フェーズ2の渦中で苦しいとき、このパターンを知っている先輩方に本当に助けられた。
そこで、その恩返しとしてこのブログを書くことにした。
フェーズ2は結構苦しいし、そこで辞める人もたくさんいるだろう。
「起業家とは0→1に優れた人であり、自分はそこに特化する」という考えならそれも全く構わないし、社会的には人材の最適化という面でありなのかもしれない。ただ、「こういう段階があって、そこを順調に進んでいるんですよ」と言われればきっと気持ちは楽になる人もいるだろう。
そして新たなリーダー像に向かって成長していくことができる。
この後のフェーズについては自分も体験してないのでよくわからない。その先にはまた違うフェーズがきっと待っているし、そこで悩むこともあるだろう。そのときはまた周りの人に教えてもらいながら、前に進んでいきたいと思う。
社内外の人がいるからこそ、今の自分がいることに、感謝しています。