神州無頼街 静岡公演初日レポ&静岡旅行記
日帰り遠征のはずが、たまたま(本当にたまたま)公演前日に有給をとっていたので静岡を満喫してきたオタクのただの旅行記、後半にネタバレありの公演レポです。ぜひ後半まで飛ばしてください。
前半・静岡旅行記
まずは清水次郎長親分のご生家に。
オリックス劇場で見慣れた「笠に長」の屋号ののれんがかかったお宅の中は資料館になっています。次郎長親分の功績が紹介されていたり、産湯に使ったとされる井戸があったり。これが釜ゆで地獄と向こうを張る井戸か……と面白く見物しました。
清水からも富士山が見えますが、この裾野までと思うと大変な距離ですね。ロゼシアターまでとしても徒歩だと6時間ほどかかるようです。道中静岡と言えばのさわやかハンバーグを挟みつつ(画像略)富士市へ。富士山にずいぶん近付きました。
富士駅前の、富士山に向かって伸びる商店街。無頼の宿の一点透視図法的なセットを思い起こさせます。
ところで、静岡名物に「黒はんぺん」というものがあるそうで。草臥が血止めの湿布を「これははんぺんか」と言って「そういうボケはいいから!」と永流に怒られるあのシーン、日替わりかと思いきや台本のようで不思議だったのですがご当地ネタだったんですね。静岡ではんぺんと言えば黒はんぺんらしく、白い湿布をはんぺんと言った草臥は地元出身ではないという示唆でもあり(深読みしすぎるオタク)……。そんなことも思いつつ静岡のソウルフード、はんぺんフライを頂きました。
ホテルではファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生をみてテセウス・お兄ちゃん・スキャマンダーに黄色い歓声をあげ、そんなこんなで夜が明け静岡公演初日の朝です。まだ劇場には行かず、富士と桜を撮影すべく歩き回ったり(写真は雁公園あたり)
静岡茶を求めてさ迷った結果お餅屋さんにたどり着いたり。
遠征と言えば東京・大阪・宝塚の3択なのでこうして普段立ち寄ることのない地域に来られるのは嬉しいです。昨日と合わせて26000歩も歩いたらしくすでに体力が限界を迎えていますが午前中を満喫し、いよいよロゼシアターへ向かいます。
後半・神州無頼街静岡公演初日レポート
ここからひたすら文字です。
一般発売で2階のS席を取りましたが、手すりや前の人の頭が舞台にかかることもなく(この点ブリリアホールとオリックス劇場ときたら……)。座席が千鳥配列ではないので平場だと分かりませんが、2階はストレスフリーな視界でした。
OPの曲が流れ始めてからバタバタと入場する方が多く見られ、シアター前の交通規制のせいなのか観劇慣れしていないのか分かりませんが個人的には地方公演だな〜という感じがしてほっこりしました。
大阪からの変更点
さていざ始まった静岡公演、端的に言ってかなりブラッシュアップされておりました。一幕で特に大きな、そして良かった変更点は2つ。
永流が初めて「草臥」と呼ぶときこれまで力強い「草臥!!!!(低音)」だったところが「……そうが」と柔らかく、おずおずと、といった雰囲気に変わっていました。これは解釈の一致。わかる。と言うかずっと気になってました。
そしてもう1つが麗波と草臥の密会のシーン。
草臥「いい女だねぇ、あんな歳の息子がいるとは思えない」
麗波「年齢なんて関係ないでしょ」
だったところ、
草臥「いい女だねぇ、あんな息子がいるとは信じられない」
麗波「そんなこと関係ないでしょ」
に変わっていました。いやそうなんですよ女性に対して年齢云々なんて野暮も極まりない、まあ草臥はそんなに格好のつくキャラクターでもないので構わなかったのですが、より耽美なシーンになったように思います。
続く二幕で印章的だったのは凶介が、草臥が出ていってからの心境を語る部分。これまで通りの「御庭番の期待の星!みたいに言われて、俺がどんだけ辛かったか」の前に「ほうき1本持たされて、広いお庭に1人ぼっち残されて、俺がどんだけ寂しかったか、心細かったか」と、草臥を慕っていたことが伺える語りが加えられていました。切なさが強まり、草臥に対する怒りも分かりやすくなってとても良かったです。
そのほか、
・お銑さんの台車にお地蔵さんの飾りが追加
・草臥にもピンクスポットライトの爽やかスマイルタイムが追加(しかしつまぎには相手にされない)(それどころか床にポイされる)(ポイされた方角を切なく見遣る草臥……)
・犬吠の三男の弔いに読経BGMが追加
など遊び心もふんだんに加えられていました。
また福士蒼汰さんの芝居が見るからに大きくなっていて、新感線に染まってきたな……と感じました。この座組の中では福士さんは細やかな芝居が強みで、後述の音響の問題もあり大声を出してもあまり通らないので必ずしも良いとは限りませんが馴染んできた感じがして微笑ましかったです。
ロゼシアターの音響
個人的にとても気になったのはロゼシアターの音響。なんとも上品な響きで、新感線とは思えないまとまった音がします。オリックス劇場とはかなり印象が違いました(それはそう)
オリックス劇場は「とにかく大音量ドーン!!!!」という感じで、声が小さくても確実に聞こえるかわりにつまぎ・さざれなどが叫ぶように話すとほとんど聞き取れなくなってしまうのが難点でした。また歌では出しにくい音域は鳴らず出しやすい音域は鳴りすぎる、宮野真守ソロコンサート爆音上演状態だったのも特徴的でした。
一方のロゼシアター、こちらは音は良いのですがかなり奥まって聞こえる劇場のようで、ある程度声を張らないと通りません。しかし反響もあるので音量を上げすぎる訳にもいかないのでしょう、全体的に控えめな印象でした。もっとも、新感線=爆音のイメージがある?のと、オリックス劇場と比較するからそう聞こえるだけで普通なら「よくまとまって良い音響だな」くらいです。というか単純に比較すればオリックス劇場より音響はかなり良いです。
奥まって聞こえる特性+反響があり柔らかく聞こえるので、少し強めに発音したり硬めの音を出す必要がありますがこの点強かったのは草臥、麗波、揚羽、千之介あたり。特に声量を出すところの草臥は圧巻でした。残響2秒はあるんじゃないかと思われるような明朗な語り。一方で声量を落とすところで落としすぎて拾われていないことがありました。
また苦戦して聞こえたのは前述のように少し芝居が大きくなってきたような永流。声を張ってもあと一歩鳴りが弱く、張りすぎると台詞も滑りがちになってしまい舞台経験の少なさが伺えました。蛇蝎も歌詞の文字数が多く早いパッセージは聞き取りづらかったです。歌詞の表示があってよかった。
アドリブと気付き
無頼の宿を訪れた草臥さん、串焼き?を美女にあーんされそうになるのが好きでいつも見ていたのですがなくなっていて悲しかったです。宮野さんと美女の絡みが好きなので……。
博打のシーンで揚羽ちゃんが2階から小判を投げ、お梅さん家の長男坊がキャッチして喜んでいたのがキュートでした。長男は時々セットから落ちる蝋燭や髑髏を回収してくれていたので、今日は良いもの拾えてよかったね……!となりました(誰)
永流が引っ掛けて?傾けてしまった鍋を蛇蝎が「あちっ」と小芝居を打ちながらもどしていて、謎の生活感にきゅんとしました。
血止めの湿布を草臥が「はんぺんか」と小ボケして永流(瀕死)に「そういうのいいから」と窘められるシーンは静岡名物の黒はんぺんにかけていると知ったのでもう少し擦るかと思ってましたがそのままでした。
お衣装観察が好きで、大阪ではひたすら裏地を見ていたのですが(裏地レポート:https://twitter.com/bonvolu_lnp/status/1507694231217143811?s=21&t=_8egKq38GWyVYHKF8rqhxg )、千之介と百千代が着物の裏地だけでなく、ネックレス・はちまき?(額飾り?)・帯までお揃いだと気付きました。仲良すぎか?
身堂夫妻と永流/草臥が対比だと思ってましたが実は千之介/百千代/揚羽と永流/草臥/拾った赤ん坊も対比なんですか……?たしかに千之介は永流っぽいし百千代は草臥っぽいけれども……
所感とまとめ
多くの変更点に加えて、すこし期間を空け芝居自体もより煮詰まったような感触で目を見張りました。
個人的に今回のキャスト陣で1番芝居が化けるとしたら福士蒼汰さんだと踏んでいましたが、芝居が大きくなってきた部分もあり、深めてきた部分もあり、少し兆しが見えた気がします。
音響的な問題や、箱が変わった分殺陣がすこし重たくなったように感じることもありましたがまた公演を重ねて良くなっていくと思いますし、なにより多少の音響の変化には左右されないベテランの方々の存在感を再認識して益々これからが楽しみになりました。
私は静岡公演はこれきりですが東京公演を待ちながら、カンパニーの健康と静岡公演の完走を心からお祈りしています。富士の裾野のロゼシアターから、永流と草臥の無頼伝が聞こえてくるのが楽しみです。
おわり