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味のしみた大根を食べながら、中年女の生き方を考えた

色んなことに衰えを感じ始める年頃ですが、これからも元気いっぱいに生きていきたいという思いを込めて書きました。

大根がおいしい季節がやってきた。あわただしい毎日の中で作るみそ汁の具に大根を加える。味がしみた大根をみそ汁といっしょにかきこむと、一瞬気持ちがゆるんで息がつける。若い頃は、料理に入っている大根に気をとめることもなかったが、年を取るにつれて大根のうまさが内臓に染みわたるようになってきた。おでんや鍋のわき役を味わいながら、今年もあと1ヶ月、あっという間だな、などと考える。

10月に子宮の摘出手術を受けた。ネットを検索して、私と同じように子宮を摘出した人たちのブログや漫画を読んで知ったのだが、子宮摘出は閉経として扱われるそうだ。婦人科健診を受ける際に、直近で生理が来た日を記入する問診票があるが、子宮を摘出した場合は閉経に◯をする。まだ先のことだと思っていた閉経が、突如として10月28日の手術日にやってくることが分かった。計画出産ならぬ、計画閉経だ。

閉経というと、老化の始まりや体調不良、女として終わってしまうなど、ネガティブなイメージが強い。でも、どんなことにも光と闇があるように、閉経にもメリットとデメリットがある。閉経に関しては、ことさら闇の部分に焦点が当てられがちだが、光の部分がもっと知られてもいいと思う。生理痛やPMS、ホルモン性頭痛から解放されるし、温泉や旅行もいつだって計画できる。閉経後の女性の体は、女性ホルモンより男性ホルモンが少し増えて、やる気や行動力が高まるそうだ。女性ホルモンに翻弄される生活が終わり、心も体もとても安定する。閉経後の55歳から65歳は、女性の黄金期とも言われているそうだ。元気なおばさんには理由があったのだ。

確かに、子宮を摘出してからというもの、私のこころと体は驚くほど安定している。複数の婦人科系の病気の治療をしていたこともあり、文字どおり女性ホルモンに振り回された数年間だった。しかし、それがまるで幻だったかのように、今は凪のように静かな日々を過ごしている。

先日ジャーナリストの稲垣えみ子さんの著書「もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓」を読んだのだが、料理を通じて50歳で大きく人生観が変わった経験について書かれていた。旬の食材を使い、日本人が昔から食べてきた汁、メシ、漬物を作ったところ、一食200円ほどで、信じられないほどうまいごちそうメシができたそうだ。人が生きていくために必要なものなんて、実は全然大したことがないと気付いたことで、50歳にして「稼がねば」という無限地獄から脱出できたそうだ。

彼女は、ごちそうメシに辿り着くまでにたくさん料理をして、たくさん食べてきただろう。それらの経験があったからこそ「これが自分にとってのごちそうメシ」だと確信することができた。社会の雑音に左右されることなく、自分だけの何かを見つけることは、人生経験を重ねてからの方が上手にできる。人生の折り返しを過ぎると、病気も料理も、いろんなことを消化・吸収して自分の血肉としてきている。刻んできた歴史が面構えを変えるのだ。

本の中で、干し大根が紹介されていた。冬に葉っぱがついたままの大根を買い、ベランダで2〜3日干しておくそうだ。するとうまみが凝縮してどんな料理にも合う美味しい干し大根が出来上がる。これで作った大根おろしは絶品だそうで、富士山のようにてんこ盛りの大根おろしをのせた厚揚げの写真が掲載されていた。今すぐにスーパーへ行き、まるまるとした大きな大根を買ってきて干し大根を作りたい。衝動が私の中を駆け抜ける。世の中には、まだまだ私の知らない世界が無限に広がっている。

カーテンの隙間から見上げると、師走の澄んだ青空が広がっている。太陽の光を浴びて細胞のひとつひとつに水が行き渡るよう。病気の治療中には決して感じることができなかった感覚だ。天気予報によると、あと2〜3日は晴れの日が続くそうだ。絶好の干し大根日和。薄くメークをして、髪をととのえながら、口いっぱいに広がる干し大根の香りを想像してニンマリとする。

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