「Here there, everywhere」

※「六神合体ゴッドマーズ」ブルーレイ版発売記念SS。地球編最終回後、ほんのりナオタケ。全年齢向き。

    バトルキャンプ内のフリースペース。
    間接照明の中、タケルが窓越しの夜空を見上げていた。その横顔に浮かぶのが焦り、悲しみ、怒りではなく、穏やかさであることに、ナオトは安堵していた。
   いつ終わるともしれない過酷な戦いの日々は、タケルの魂を追い詰め、削り取っていく。その中で手にしたマーグとの絆も絶たれてしまった。それでも彼が戦い続けるのは、自分を育んだ地球への思いと、理不尽に命を奪われた大切な人たちに報いるためだ。
   背負うものを代わってはやれない。ならば、その背中を守れるだけの強さを身につけていくしかない。

「……ナオト?どうかした?」

「いや、何となく寝付けなくてな。おまえこそ、こんな時間にどうしたんだ。」

「オリオン座を追って、月が昇ってくるんだ。」

    指さした先にあるのは、オリオン座の三ツ星。冬の代表的な星座だと言うことは、ナオトも知っている。宇宙開発が進んだ今、星座を見るために空を見上げることもなくなっていた。
    だが、タケルには彼にしか見えない何かが映っているのかもしれない。

「さそり座が昇ってくると、宿敵を避けるのにオリオン座が沈むんじゃなかったのか。」

「そういう神話もあるよ。オリオンは月の女神のアルテミスと狩りを通じて意気投合していたんだ。けど、アルテミスの兄のアポロンは、妹がただの人間と親しくなることを良く思わなかった。ある時、海に浮かんでいるオリオンを遠くからアルテミスに示して、あの海に浮かぶ島を、おまえの自慢の弓で射抜いてみろと言うんだ。アルテミスの弓は、オリオンを射抜いた。自分がオリオンの命を奪ったことを悲しんだアルテミスは、オリオンを空に上げて星座にした。オリオンを追って、月は今でも昇ってくるんだ。」

「随分ロマンチストなんだな。宇宙を相手に日々戦う中で、神話のことなんて考えもしなかったぜ。」

    つい、軽口を叩いてしまった。しかし、タケルは遠い瞳で空を見上げたまま、答えた。

「どんな形でも、大切な人がそこにいてくれたら、きっとそれは幸せなのかもしれないって思う。─今度こそ、守り通すために。」

   違う。おまえが弱いからじゃない。
   生まれて間もなくこの星に送り込まれて、長い時間をかけておまえを呪い、絡め取ろうとする悪意が、理不尽に奪っていったからだ。
   もう、自分を責めるな。おまえが全て背負って、立ち向かおうとするなら─その背中は、俺が守るから。

「だったら俺は、悪意を吹き込むアポロンの言葉には耳を貸さないし、自分を狙う矢は全力で避けてやるよ。」

「ナオト……」

「運命が覆せないものかどうかなんて、誰にもわからねえんだ。だったら、俺は抗ってみせる。俺に言われる間でもなく、おまえはわかってると思ってたが、違うのか?」

「わかってる。だからこそ、俺は……」

「その先は言うなよ。俺が弱いみたいに聞こえるからな。宇宙すべては無理でも、おまえひとりくらいは守れるって、少しはカッコつけさせろ。」

   タケルの表情が和らいだ。
   ……なんだよ、ちゃんと笑えるんじゃないか。いつもそうしていてくれなんて、無理だってわかってる。ただ、俺といる時くらいは……その笑顔でいて欲しかった。


    ズールを倒したタケルは、ゴッドマーズと共に旅立ってしまった。その行方は、地球防衛軍の追跡システムを持ってしても掴むことが出来なかった。
     おまえ自身が神話の英雄みたいに、遠い宇宙の果てに去るなんて、カッコつけすぎだろ。
    夜空を見上げて、ナオトは呟く。
    星座になった英雄を追って、夜空を駆ける月の女神を、タケルもどこかで見ているだろうか。女神が放つ弓矢のような流れ星が一筋、
夜空を流れていった。

おわり




    

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?