公共交通機関で行く北海道限界旅行記1日目/4泊4日

【1日目:2020年8月1日(土)】

6時41分、すずらん1号は千歳の駅を滑り出た。今回の切符は特急にも乗り放題であるから、千歳札幌間ぐらいの短距離であっても心置きなく特急を利用できる。室蘭始発のすずらんは乗車率15%程度と閑散としているが、千歳から乗り込む乗客も意外と少なくない。こういう周遊券でなくとも、これぐらいの短距離で懐を気にせずに特急に乗り込める財力と精神力をいつか身に付けたいものだと思う。

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札幌で特急宗谷に乗り継いで7時30分発。こちらは結構な混みようであり、特に1両しかない自由席は半分以上座席が埋まっている。4時間以上の長丁場を通路側では辛いのでここは予め指定券をとってある。窓口で進行方向左側でお願いしたのだが、いざ席に向かってみると取れていたのは右側であった。午前中は東からの日差しが強いのと、宗谷本線で景色が良いのは西側であるので左側を希望したのであるが、次からは列名で指定する必要があるかもしれない。

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およそ1時間半ほどで旭川に着き、ここから宗谷本線に入る。宗谷本線は素晴らしい路線である。まず、沿線に何もないところが素晴らしい。冬はいうまでもなく一面が雪原であるが、夏のこの時期もほぼ原野か牧場の緑一色であり、たまに音威子府の辺りで名物の蕎麦畑に咲く花の白色か、ゆったりとした天塩川の川面の青色が混ざってくるぐらいものである。この景色のなかを特急で飛ばして行くのも壮快で良いものだが、長時間電車に乗っていることが苦でない人なら一度宗谷本線の鈍行に乗ってみることをお勧めしたい。旭川から稚内まで約6時間、ほとんど利用者のない駅を1つ1つ拾いながら最果てへと向かっていく際の旅情は、日本のどの路線にも勝るとも劣らないと思っている。

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旭川からおよそ3時間走り、11時59分豊富着。豊富は国内最北の温泉郷として知られる豊富温泉があり、特に泉質が石油臭いことで有名である。5年前の2月に一度訪れたことがあるが、実に効能がありそうな温泉で、長期療養の湯治客も多いという。今日もぜひ入ってみたいところだが、バスの本数が少ないためどうなるかわからぬ。

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今日は羽幌に泊まるつもりであるので、豊富駅前17時15分発の沿岸バス羽幌行きが終バスとなる。まだ5時間以上あるが、ここ豊富における目的地サロベツ原野と豊富温泉は駅を挟んで反対側、それもそれぞれ駅から7kmほど離れている。バスはサロベツ原野までが2往復、温泉までが休日4往復と、とても乗り継いで行って帰ってこられるような様相ではない。幸い駅前の観光案内所で自転車を借りられるから、駅から原野と温泉の往復計30km近くを走れさえすれば両地点の訪問は可能である。私はまずその案で行くことにした。

豊富駅併設のカフェで昼食を済ませ、ママチャリで海岸の方へと走り出すと、早々に民家は途切れて道の両側ともに原野が広がってきた。この辺りがサロベツ原野であり特急の愛称にも使われているが、国内で3番目に広い湿原だという。釧路や尾瀬には行ったことがあるが、サロベツは周囲に森や山の少ない平地の湿原であるので抜群に見通しが良い。

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30分ほどでサロベツ原生花園ビジターセンターに着き、木道で湿原内を歩いてみたが、野鳥や野性動物には特に出会わないし、遠くに見えるはずの利尻富士は霧で隠れてしまっていたり、どうにも不完全燃焼感が否めない。本来湿原とは草木を楽しむものなのだろうが、私自身あまり植物には造詣が深くないし、そもそもシーズンを外れていたからかあまり花も咲いていなかったのもよくない。楽しみにしていたエゾカンゾウの大群落も、行ってみれば枯れかけのものが一輪あるだけであった。

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そんなわけで、原生花園からさらに7km西にある海岸の稚咲内まで向かってみることにした。現時点で14時を回っているが、借りた自転車を豊富温泉で乗り捨てられるのと、羽幌行きバスが温泉を経由するのでうまくやれば稚咲内に寄ってもまだ間に合う。

ビジターセンターから稚咲内までの7kmはそれまでにも増して原野であった。道の両側は水平線を見通せるほどであり、海岸近くの防砂林までの間、人工物らしきものはバス停が1つとその近くの観光看板ぐらいのものであった。そのバス停は周囲一面が原野であり、周囲に施設や木道、分岐する道があるわけでもなく、ただサロベツ原野についての説明看板がひとつあるだけ、という壮絶な立地であった。確かにバスからここに降り立ったときの爽快感はこの上ないものがあるだろうが、仮にも営利企業である沿岸バスがとても需要が見込めなさそうなこの地にバス停を設置した意図は不明である。しかもここを通るバスは1日2往復しかない。

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海岸の稚咲内集落は小さな漁村であり、利尻富士は依然として靄の中、原生花園も花少なであった。ここまで来て何もないならそれはそれでもう仕方がないと諦めもつくし、そもそも原野というのはそういうものということだろう。ただハマナスの群落を拝めたことが救いであった。

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稚咲内からは来た道を引き返し、16時半頃に豊富駅着。ここで観光案内所のおばちゃんに豊富温泉で乗り捨てる旨を告げて温泉に向かいひとっ風呂浴びて、豊富温泉発17時25分発の羽幌行きに乗り込む計画だったのだがここで想定外の事態が起きた。温泉のレンタサイクル営業所を17時に閉めるから、今からでは間に合わないので温泉での乗り捨てはできないと言うのだ。駅から豊富温泉までは6.5km程度であり、普段私が自転車通勤で同じような距離を25分弱で走っているから大丈夫だと説得しても無理であった。とはいえ私が間に合わなければ余分に店を開けていなければならず、その相手側のリスクを考えると強行も難しく諦めざるを得なかった。せめてあと10分早く着いていればおばちゃんの対応も変わったであろう。ビジターセンターでのんびりと芋餅など食べていたのがよくなかった。

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気を取り直して17時15分豊富駅発のバスに乗り込んで羽幌へ向かうが、その前にここから留萌までの区間で使用できる沿岸バスのフリーパス「萌えっ子フリーパス」を購入しておく。券の両面にはでかでかと美少女が描かれているが、決して私がこういう趣味を持っているからそのような絵柄のものを購入したわけではなく、全てのパターンの券面に美少女キャラが起用されているのだ。

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沿岸バスはその商圏に留「萌」を持つためか美少女キャラクターの起用に熱心であり、10年以上前から毎年新しいキャラクターを数人デザインしていて既に累計では40を超える数を産み出している。グッズ展開にも熱心で缶バッジ等をとらのあなに委託しているほか、某巨大匿名掲示板でツアー案と参加者を募って風変わりなツアーバスを計画したりと独特な取り組みが多い。バスによっては車体にもキャラクターが描かれているというが、あいにく今回乗るバスは普通の車体であった。

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今回乗る路線は旧国鉄羽幌線の代替路線であり、留萌幌延・豊富間140kmあまりを結ぶ長距離線である。海岸沿いの原野のなかを走る風光明媚な線であるが、鉄道が廃止されたのも納得するぐらいに沿線の人口密度は低く、この長い距離の間で街と呼べるほどの集落は数えるほどしかない。しかしこの留萌から幌延を経て稚内に至るまでの沿岸道路はオロロンラインとも呼ばれ絶好のドライブコースとされているだけあって、人口に比して車両の交通量は多かった。

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天塩、遠別、初山別と数少ない集落を拾いながら、19時39分羽幌ターミナル着。19時42分発の留萌行きが待機しているが、こいつには明日乗ることになる。

本当は羽幌線の廃線跡や廃駅探訪でもしたいところだが、残念ながらこの路線の遺構はほとんど残っていない。都市部ならともかく北海道の原野の真っ只中のような地域で遺構が残らないというのは不思議な気もするが、無いものは無いのだから仕方がない。

今日羽幌に泊まるのは、羽幌から船の出る天売島と焼尻島を1日で回りきるためである。両島への船便は夏季1日4往復であり、いかに1周10km程度の小島と言えど観光と食事に各最低2時間は見たいので、そうなると羽幌港8時発の高速船第1便に乗るしかなく、それを満たすには羽幌に泊まるしかない。

羽幌は人口6000人、旧羽幌線沿線では留萌に次ぐ街で、甘エビの水揚げ量が日本一だという。加えて島嶼部の天売島はウニ、焼尻島は羊のサフォーク種が名産であり、食べるものには事欠かない。ウニと羊は明日のお楽しみにとっておくとして、晩飯には宿の併設食堂である二島物語で甘エビをふんだんに使ったラーメンをいただき、温泉に浸かってゆっくりと眠りについた。

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