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ミャンマー内戦⑮ミャンマー・ラカイン州をめぐる戦い(意訳)


1.イントロダクション

アラカン軍(AA)は2009年に中国との国境地帯で結成され、当初はカチン州のカチン独立軍(KIA)とともに戦闘経験を積んだ。2014年初頭からラカイン州に勢力を移し始め、選挙政治には参加してこなかったが、カリスマ的なリーダーシップとネピドーの一連の失策によって、同州の政治状況を支配するようになった。

国軍との戦闘は2018年後半に激化し、2020年11月に両者が停戦に合意するまでの2年間、数十万人が避難する残忍な戦争に発展した。AAは掌握した農村部の国家権力を解体することに成功したが、いくつかの挫折も味わい、ラカイン族の人々から戦争を終結させるよう圧力を受けるようになった。とまれ、ラカイン地方の広大な地域を事実上掌握したことで、以前は想像もできなかったことだが、AAは国軍とラカイン族の人々の双方に侮れない勢力であることを証明した。

2021年2月のクーデター後もAAは停戦を維持し、ラカイン州の人々が全国に広がる反体制運動に参加することを思いとどまらせた。2022年の第2次戦闘により、AAはバングラデシュ国境地帯の支配を拡大し、新たな補給路を確立する機会を得た。2022年11月、両者は「人道的停戦」を発表、その後国軍は封鎖を部分的に解除した。

2023年11月、AAと軍の間で3度目の決定的な戦闘が勃発した。2023年10月27日、AAは他の2つの民族武装組織(タアン民族解放軍《TNLA》とミャンマー民族民主同盟軍《MNDAA》、総称して三兄弟同盟)とともに、中国との国境にあるシャン州北部で電撃作戦を開始した。中国が2024年1月11日にシャン州北部での停戦を仲介したことで、シャン州北部での戦闘はほぼ収まったが、ラカイン州での衝突は続いている(1027作戦)。

ラカイン州の大部分を掌握したAAは、支持者たちが「アラカン・ドリーム」と呼ぶ、ほぼ10年前に約束し始めたアラカン自治領の実現を目前にしている。これは、18世紀後半にビルマ王国がアラカン王国の首都ミャウウーを征服し、名目上初めてラカインが中央国家の支配下に置かれたことで失われた主権を回復することを目的とする解放運動である。

AAは「アラカン・ドリーム」はラカインに住むすべての人々のためのものだと言うが、それは主に多数派のラカイン族の野心を反映したものだ。AAは「アラカンのすべての住民のための自由、民主主義、社会正義と福祉、人間の尊厳」を約束しているが、州内の他の少数民族にも忠誠を誓い、「自由のための統一された戦い」を要求している。「自己犠牲の精神なしに、報酬を得るためだけに寄生するような生き方をしてはならない」と、同グループのリーダーであるトワンムラットナインは2020年の演説で述べている。

AAが期待しているのは、数十年にわたり国家が後押しする暴力と迫害を受けてきた、ほとんどがイスラム教徒のコミュニティであるロヒンギャも、自分たちの大義に忠誠を示すことだ。2017年、ラカイン自警団の支援を受けた国軍の残忍な反乱キャンペーンにより、およそ75万人のロヒンギャがバングラデシュへの亡命を余儀なくされた。現在の戦闘の波の中で、彼らは政権のために戦うために徴集され、紛争のすべての側面から無差別攻撃を受けていると伝えられている。

2.アラカン軍が掌握

2023年11月13日、AAはラカイン州の数カ所で国軍を攻撃を加えた。すぐにラカイン州北部の軍、警察、国境警備隊の前哨基地数十カ所を占領したが、パウトー(Pauktaw)の町を占領したと主張した直後に撤退を余儀なくされるなど、この初期段階では挫折も味わった。ただ国軍は戦略的により重要な場所に舞台を集結させるため、これらの小さな前哨基地の多くをすぐに放棄した。

AAにとって最も重要な最初の標的の1つは、インド国境への玄関口であり、カラダン川によってラカイン州と地理的につながっている南部チン州パレッワッ(Paletwa)郡区のタラワイン(Tarawaing)およびノネブ(Nonebu )戦術司令部だった。数週間にわたる激しい戦闘で多大な犠牲者を出しつつも、AAは12月4日にタラワイン、12月10日にノネブを占領した。これらの勝利は翌月のパレッワ陥落への道を切り開いた。またこの成功により、インドのミゾラム州を経由する新しい補給路を確保する可能性も開かれた。これは、後述するように国軍が封鎖を再開した際に特に重要だった。

AAが相当な資源を投入したパレッワの占領は、カラダン川回廊からラカイン州北部と中部に至る一連の勝利の始まりとなった。AAは、より平坦な地形を利用して、国軍が立てこもっていた大隊基地やその他の場所を包囲した。チャウッタウ(Kyauktaw)、ムラウク・ユー(Mrauk-U)、ミンビャ(Minbya,)、ミェボン(Myebon)、パウトー(Pauktaw)、ポナギュン(Ponnagyun)などの町が次々と陥落した。 2月8日、AAは15世紀から18世紀にかけて繁栄したアラカン王国の首都ミャウウーを占領した。この勝利は象徴的な意味を帯びており、ラカイン族の人々の間でのAA人気をさらに高めた。その後、AAはラカイン州北部のラテダウン(Rathedaung)郡区と州中心部のラムリー(Ramree)郡区を確保した。その過程で、チャウトー(Kyauktaw)の第9軍事作戦司令部を含む数十の大隊基地、警察署、その他の軍事施設を制圧した。5月18日、AAは数か月に及ぶ作戦の末、ラカイン州北部のブティダウン(Buthidaung)を占領した。

今後数週間から数ヶ月の間にさらなる成果が期待される。本稿執筆時点で、AAはバングラデシュとの国境の大部分を占めるマウンドー(Maungdaw)地区のほぼ全域を制圧し、ラカイン州中部の軍西部司令部があるアン(Ann)や、州南部のタウングプ(Taungup)、サンドウェー(Thandwe)、グワ(Gwa)郡区で激しい攻勢を仕かけている。またAAは、数ヶ月間、州都シットウェや、中国の重要なエネルギーインフラがある島のチャウピューを攻撃する態勢を整えている。これまで攻撃を控えてきたが、リーダーたちは「決戦」が迫っているため、民間人にこれらの地域から退去するよう警告している。

2023年に戦闘が勃発して以来、国軍は劣勢に立たされている。国軍は空軍、海軍、砲兵基地を展開しているものの、国内の他の地域でも戦闘を行っているので、AAの圧倒的な数に直面して陣地を強化する地上部隊が不足している。多くの地域でAAは、国軍が反撃や支援ができず、最終的に逃亡するか降伏するしかないと確信して大隊を包囲している。AAはすでに数千人の国軍兵士を捕虜にしており、少なくとも850人の国軍兵士がバングラデシュに逃亡している。

北部シャン州での一連の衝撃的な敗北に続いてラカイン州での敗北が続き、国軍の士気はさらに低下している。AAの成功のスピードは驚異的だったが、2023年12月までに国軍がラカイン州で町や主要基地を1つも失っていなかったという事実は、その根本的な弱点を覆い隠すだけだった。これらの地域以外では、少数民族武装勢力がすでに支配権を握っており、国軍の地上部隊は町に閉じこめられ、住民から軽蔑の目で見られていた。

敵を阻止できなかった国軍は、民間人を標的にして対応した。国軍は、AA支配下の地域にある非軍事的インフラを標的として定期的に空爆している。ある統計によると、戦闘開始から6か月間で民間人200人以上が死亡、600人近くが負傷し、その多くは空襲によるものだった。以来、その数は増える一方である。クーデター以来最悪の残虐行為の1つとして、国軍は5月下旬、シットウェ郊外のラカイン州ビャインピュー(Byain Phyu)村で民間人50人以上を殺害したと伝えられている。国連によれば、今回の戦闘以前にすでに避難を余儀なくされていた約20万人に加え、少なくとも30万人が州内および近隣のパレットワで避難を余儀なくされているという。 5月下旬、AAの人道支援部門である人道開発調整事務所(HDCO)は、AAの支配地域だけで避難民の数が57万2,300人に達し、そのうち61パーセントが女性であると発表しました。

国軍はまた、AAへの支持を弱めるために、民間人に経済的苦痛を与えるようとしているが、これまでのところ成功していない。戦闘が勃発すると、国軍は直ちにラカイン州全体を封鎖した。同州は、基本的な食料品、燃料、農業資材など、ほとんどの必需品をミャンマー中央部に大きく依存している。また国軍は、ラカイン州内での道路と河川による移動を禁止し、物資の流れを遮断した。これらの制限により、物資価格が急騰し、必須サービスへのアクセスが困難になり、ほとんどの大企業が閉鎖を余儀なくさた。さらに国軍は、州全体で電力を遮断し、ほとんどのインターネット接続を遮断し、公営銀行と民間銀行を閉鎖し、さらなる苦難を引き起こしている。

現在AA支配下の地域に住むラカイン族の人々は、危機グループに対し、AAの成功に勇気づけられたものの、生活はますます困難になっていると語った。戦闘前に食料品店を経営していたパウトー在住の1人は、2023年11月に妻とともに町を脱出し、近くの村の親戚のもとで暮らしたと説明した。3ヶ月後に戻ったとき、店は略奪されており、事業を再開するお金はなかった。「経済は完全に崩壊し、物価は日々上昇しています。私たちが考えるのは、生き延びるために十分な食料を手に入れることだけです」と彼は語った。「しかし、私たちはAAを信頼しています。彼らは私たちの気持ちや望みを理解しているからです」。チャウピュー在住のある住民は、国軍支配地域の状況は、特に食料価格の高騰により、ほとんど良くなかったと語った。「しかし、私たちは最終的にこの戦争に直面しなければならないことはわかっていましたし、それが困難をもたらすことも理解していました。私たちはこの困難な時期をできる限り乗り切ることを約束します」

3.三つ巴の対立

ラカイン州中部のカラダン回廊に沿った電撃的な進撃とは対照的に、AAはラカイン州北部のマウンドー郡区とブティダウン郡区ではよりゆっくりとした動きを見せている。これらの地域では、AAは国軍とムスリムのロヒンギャとの複雑な三つ巴の闘争に巻き込まれている。2017年には75万人がバングラデシュに逃れたにもかかわらず、ロヒンギャは依然としてこの地域の人口の75%以上を占めている。 足場を維持し敵の攻勢を遅らせることに必死な国軍は、仏教徒のラカイン族とムスリムのロヒンギャの長年の分断を利用しようと、ロヒンギャの武装勢力と協力し、ロヒンギャを徴兵してAAと戦わせようとしている。 ロヒンギャ族に武器を与えるという軍の決定は、両コミュニティ間のさらなる紛争の舞台を整えた可能性がある。 1942年以来、ラカイン州は2つの集団の間で定期的に発生する致命的な暴力に悩まされてきた。

A.分断統治

過去6か月間、ロヒンギャの男性を国軍が支援する新しい民兵組織に入隊させようとする取り組みは、マウンドーとブティダウンでの戦闘の複雑さとそれがもたらす危険を増大させている。2月10日、ミンアウンフラインは、休眠中の兵役法を発動し、全国で年間最大6万人の兵士を新たに徴兵すると発表した。最初の新兵は3月に区または村レベルで選抜され、4月初旬に訓練が開始された。 5月、6月、8月には、さらに5,000人の若者が徴兵されたと報告されている。ラカイン州では、2月10日の発表後、国軍はロヒンギャのほとんどを国民として認めていないにもかかわらず、彼らを軍隊に強制的に組み入れ始めた。ミャンマーの他の人々にはタイへの不法入国などの逃亡ルートがあるが、ロヒンギャが徴兵を逃れる手段はほとんどない。移動制限により国内での移動が禁止され、バングラデシュとインドは国境を厳重に監視しているからだ。AAが支配する地域に逃げた者もいるが、そこでは何千人ものロヒンギャがAAに徴兵を強いられている。

国軍は他の方法でも緊張を煽っている。 3月中旬以降、国軍はロヒンギャの男性に対し、ブティダウンやラカイン州北部・中部のその他の町で反AA集会を開くよう強要している。同時期、国軍はアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)を含むロヒンギャの武装勢力との協力を開始した。ARSAは2017年に警察署を襲撃し、国軍がロヒンギャの人々に対する残忍な弾圧を開始し、バングラデシュへの大量脱出するきっかけを作ったグループである。国軍は公式にはARSAをテロ組織とみなしているが、ARSAに弾薬を提供し、税金の徴収を許可し、ラカイン州北部の検問所の運営を許可している。 伝えられるところによると、国軍はARSAとともにAAと戦ったこともあるのだという。

一方、ARSAと、あまり知られていない別組織・アラカン・ロヒンギャ軍(ARA)は、バングラデシュのキャンプから難民を強制的に徴集し、国軍に移送している。国境を越えると、彼らは訓練のため、マウンドー近くの国境警備隊警察第5大隊などの国軍のキャンプに移送されている。4月下旬、第3の組織であるロヒンギャ連帯機構(RSO)がキャンプで大量のロヒンギャを一斉に逮捕し、少なくとも一部を国軍に引き渡し始めた。

国軍やロヒンギャの武装勢力に徴兵されたロヒンギャのほとんどは選択の余地がなかったようだが、自発的に入隊した者もいる。国軍は報奨金を主に提供したが、場合によっては市民権証明書の発行をも約束した。 民族間の緊張が高まり、ロヒンギャがAAを恐れるようになったため、4月と5月に志願兵の数が増加したと考えられている。

ラカイン州のロヒンギャコミュニティは均質ではない。ロヒンギャが多数派であるラカイン州北部では、ロヒンギャが少数派であるラカイン州中部よりもAAの統治に敵意を持っている。ブティダウンでは、国軍と長年のつながりを持つロヒンギャコミュニティのリーダーたちが、AAを存在の脅威として描くことで国軍の徴兵キャンペーンを支持してきた。あるロヒンギャの研究者は 「彼らはこう言っている。『AAは我々の敵だ。彼らは長い間、我々を拷問し、迫害してきた。今、我々は彼らに立ち向かわなければならない。国軍は銃や訓練で我々を助けてくれるだろう』」と延べ、そのために「多くの若者が彼らに加わっている」のだという。その結果、この地域に住む多くのラカイン族の人々やその他の少数民族、特にこの地域の小さなヒンズー教徒のコミュニティは、2024年初頭にシットウェやAAの支配下にあるラカイン州中部の地域に逃げた。

4月中旬、ラカイン族の男性2人が喉を切られた状態でブティダウンで発見されたとの報告が浮上し、民族間の緊張はさらに高まった。その後数日間で、ラカイン族が多数を占める地域で少なくとも1,500軒の家屋が焼き払われたというが、伝えられるところによると、ARSAのメンバーとして国軍に加わったロヒンギャによって放火されたのだという。 マウンドーでは、ロヒンギャ民兵のメンバーが、町の郊外にある2つの非イスラム教徒の村で数十軒の家屋に放火し、ラカイン族の女性1人を殺害した。

B.アラカン軍の反応

AAのリーダーたちは、コミュニティ間の緊張がラカイン州の統治を困難にすることを理解しているが、それを克服することができていない。過去には、彼らも克服しようと努力した。リーダーたちはAA結成当初は激しい反ロヒンギャの発言をしたが、最近はその論調を和らげていた。この変化は実際的なもので、ラカイン州で勢力を強めるにつれ、AAはロヒンギャの人々の支持を得たかったのだ。また国際社会から、特にバングラデシュから、国軍と同じように見られることを望まなかったというのもある。 「ラカイン州の安定と安全は、AAがアラカンのすべての人々と前向きな関係を築くことができれば可能になる」と、あるAA関係者は危機グループに語った。

したがって、2021年のクーデター後、AAが農村部への統制を強化し始めたとき、AAはロヒンギャへの移動制限の一部を解除し、ロヒンギャをAAの下層部に組み入れ、ラカイン族の人々との交流を促した。多くのロヒンギャはこれらの行動を慎重ながらも楽観的に受け止めていたが、一部の人々は依然として地元のAA当局者による虐待に不満を抱いていた。

最近の展開により、AAとロヒンギャの関係は逆方向に進んでいる。ロヒンギャの一部が国軍に志願入隊したという事実は、AAの最高司令官を激怒させた。AAのスポークスマンは、これは「最近ジェノサイドの犠牲になった人々や独裁政権からの解放のために戦っている人々に対する最悪の裏切り」であると感じていると述べた。国軍への志願入隊者と強制入隊者は、同じように扱われているようである。3月下旬、AAは「ラカイン州出身のベンガル人」が徴兵されれば国軍の一員とみなされ「攻撃される」と警告した。

この言葉は、重要かつ残念な変化を象徴している。ロヒンギャとの関係改善の取り組みの一環として、AAは数年にわたり「ベンガル人」という用語の使用を避けてきた。ロヒンギャは、この用語がバングラデシュからの最近の移民であることを暗示し、市民権の主張を否定するために使われるため、侮辱的だとみなしている。代わりに、AA軍は彼らを「ムスリム」と呼んでいた。それにもかかわらず、AAのリーダー・トゥワンムラットナインは「ベンガル人」という用語の使用を擁護し、「ベンガル人を『ベンガル人』と呼ぶことに何の問題もない」と主張した。これらの発言は、バングラデシュの難民キャンプを含むロヒンギャのディアスポラとバングラデシュ政府の間で落胆と怒りを引き起こした。その後まもなく、AA軍はロヒンギャの武装勢力を「ベンガル人イスラム教徒テロリスト集団」と呼び始め、2017年にロヒンギャコミュニティ全体に対するキャンペーンを正当化するためにネピドーが使用したレトリックを模倣した。

レトリック攻撃に加えて、ロヒンギャに対するAAの敵意は物理的な暴力で表現されてきた。過去数か月間、AAはロヒンギャに対する多数の人権侵害で非難されてきた。AAは危機グループなどに対してもこれらの疑惑を断固として否定しており、同州のほとんどの通信サービスが閉鎖されていることを考えると、疑惑の確認は困難である。それでも、超法規的殺害や民間人への無差別攻撃など、重大な人権侵害はAAによるものだというロヒンギャや人権リサーチャーの主張を裏付ける重要な証拠がある。こうした事件の中でもっともよく記録されているのは、4月中旬、マウンドゥーのすぐ北にあるタ・イェト・オケ村周辺で起きたもので、近くで5体の損傷した遺体が発見された。4さらに最近では、AAは8月5日にナフ川を渡ってバングラデシュへ逃げようとしたマウンドゥーのロヒンギャの人々を襲撃したとして非難されている。事件後のビデオ映像には数十体の遺体が映っているが、未確認の報告では死者数は200人に上るとされている。

さらに隣接するブティダウンでは、AAが数万人のロヒンギャを強制移住させ、彼らの家を焼き払ったと非難されている。4月24日から5月21日にかけて、ブティダウンの農村部でロヒンギャの家屋数千軒が破壊された。衛星画像によると、この地域の30以上の村がほぼ完全に破壊された。家屋の破壊を逃れていた非ムスリム(主にラカイン族)の町の一部も、5月17日から18日にかけて被害を受けた。 被害を受けた村のロヒンギャ住民は、AA兵士が村を焼き払う前に、ラテーダウン(Rathedaung)郡境に近いさらに南の村に強制移住させられたと述べた。事件発生時、この地域はすでにAAの支配下にあったと彼らは言う。同じ地域のラカイン族やその他の非ロヒンギャの村は、ほとんど被害がなかったようだ。

AAはこれらの報告を否定し、同軍のムスリム将校らが国際人道法に従い、ロヒンギャの人々に自らの安全のために村を離れるよう促したと述べ、国軍とロヒンギャとの戦闘中に村が放火されたと付け加えた。 またAAが町を占領した5月17日の夜にブティダウンに生じた被害は、国軍による「長期にわたる空襲」によるものだと主張した。彼らはまた、5月17日と18日の町の被害は、国軍とロヒンギャの武装勢力が4月中旬に非ムスリムの地域を焼き払ったときよりも大幅に少なかったと指摘しており、この声明は衛星画像によって確認されている。

AAがブティダウンのロヒンギャの村に行政を課したことによる人権侵害についても、住民はAAを非難している。ブティダウンの少なくとも4つの村落地区に住むロヒンギャの人々は、危機グループに対し、AAは若者を強制的に徴兵したと語った。これに対してAAは、ムスリムのリーダーたちが、逃亡する国軍兵士やARSAのメンバーから村を守るために「コミュニティの安全」の訓練を要請しただけだと反論した。

ロヒンギャの男性の中には、AAに無償労働力を提供することを強制された者もいるという。フォンニョ・レイク近郊のブティダウン南東部の住民によると、AAは過去2か月間、村長に対し、兵器、装備、食料を運ぶ労働者や塹壕を掘る労働者を提供するよう要求してきた。「行きたくない人は代わりに金を払わなければならない。AAは、自らの領土でロバのようにロヒンギャを扱っている。 ここにいる全員がパニックに陥っています」と ラカイン州北部の他の地域のロヒンギャも同様の証言をしている。

言葉と行為の疑いの組み合わせが分極化を助長し、より多くのロヒンギャが国軍や武装勢力に志願するようになった。8月5日、国軍との激しい戦闘の最中、AAがマウンドゥーで多数のロヒンギャの民間人を殺害したとされ、緊張がさらに高まっている。AAがラカイン州北部のロヒンギャ居住区や難民キャンプで傷ついた評判を修復するには、これまでよりもさらに踏み込んで、これまで取った措置が単なる形だけのものではないことを示す必要があるだろう。

4.バングラデシュの側面

ラカイン州での急速な情勢の変化は、国境を越えたバングラデシュにも波及し、ダッカの政策立案者の間でも、また約100万人のロヒンギャが暮らす難民キャンプでも波紋を呼んでいる。今年に入ってから、バングラデシュ政府とAAの関係は大幅に悪化しており、国境の両側でロヒンギャ武装勢力が果たしている役割によって、国境を越えた紛争の複雑さが増している。

A.難民キャンプをリクルートの場に

2023年11月に戦闘が勃発する以前から、難民キャンプでは暴力が急増していた。その一因は、ロヒンギャの武装勢力のうち2つ、ARSAとRSOの縄張り争いだった。キャンプでは、国際社会からの支援が減少したことで、生活はますます困難になっていた。2024年初頭以降、ロヒンギャ武装勢力が難民キャンプで徴兵を展開し、最初はロヒンギャの男性を自発的に入隊させようとしたが、ほとんど失敗したため、強制的な入隊に頼るようになり、治安状況はさらに悪化した。キャンプの人道支援活動家によると、正確な数字を得ることは難しいが、6月中旬までに少なくとも2,000人の難民が入隊したという。実際の数はおそらくもっと多いだろう。入隊者のほとんどは国軍に移送され、短期の訓練後、主にマウンドゥーのロヒンギャ民兵組織に配属されたようだ。

徴兵の大部分はRSOが担当している。その徴兵キャンペーンと国軍との明らかな協力は、ラカイン州におけるAAとの緊張の高まりを反映している。AAは長い間、ラカイン州に新たな武装勢力を受け入れることはないと述べてきたが、2023年11月に戦闘が勃発したとき、当初は両グループが互いに攻撃しないという合意があったように見えた。つい最近の2024年3月、RSOの関係者はAAを「支持する」と公言していた。しかし4月中旬、マウンドゥーで両グループが衝突し、RSOのメンバー6人が死亡した。同時期、AAはRSOを「国軍が支援するベンガル系ムスリムのテロリスト集団」と呼び始めた。それまでは、この用語はARSAとより小規模なARAにのみ使用されていた。 RSOはこれに対応して、徴兵を増やし、国軍とより緊密に協力していった。

5月、RSOは公開集会を開き、マジと呼ばれるロヒンギャ難民キャンプの職員に、潜在的な新兵リストを作成するよう命じた。メンバーはまた、戸別訪問を行って難民を拉致したり、徴兵を強要したりした。こうした措置は難民の恐怖を高め、多くの少年や若い男性がキャンプの外に隠れることになった(キャンプからは通常出ることが許されていない)。「若者はどこにでも逃げています」と、ある難民が危機グループに語り、他の難民や人道支援活動家も同じようなコメントをした。RSOは年齢をあまり気にしておらず、14歳の難民も徴兵している。危機グループは、難民キャンプの少なくとも1人の子供がミャンマーでRSOのために戦っている間に死亡したことを確認した。しかし、RSOは強制徴兵の報告を「根拠のないプロパガンダ」として否定し、成人のみを徴兵していると主張している。

多くの難民は、公式声明や報告された人権侵害のためにAAを嫌っているが、RSOの徴兵キャンペーンはキャンプで一般的に非常に不評である。ほとんどの難民は、暴力と恐喝を理由に、3つのロヒンギャ武装武装勢力すべてを嫌っている。5月17日、強制徴兵に対する怒りがキャンプ1で爆発し、夫や息子が徴兵の危険にさらされている多くの女性を含む難民が、棒を持って一斉にRSOメンバーを追い払おうとした。数週間にわたって、このキャンプや他のキャンプで毎晩同じ光景が繰り広げられた。バングラデシュのキャンプでは厳格な規則があるため、このような突発的な大衆動員はまれである。これらのRSO反対デモと、バングラデシュに対する難民保護の改善を求める国際的圧力が相まって、5月下旬以降、徴兵ペースは鈍化したようだ。しかし、人数は大幅に減少しているとはいえ、RSOはロヒンギャの徴兵を続けており、

B.バングラデシュとアラカン軍

AAがラカイン州北部に侵攻するにつれ、バングラデシュとの関係を管理する上でますます大きな課題に直面している。シェイク・ハシナ首相の政権は15年間の在任期間を経て8月5日に民衆の抗議運動により倒されたが、その政権下ではバングラデシュは近隣諸国の反乱グループと公式に交渉しない方針だった。その結果、AAとの主な交渉相手は軍情報機関であるDGFIであった。長年にわたり両者は友好的な関係を維持しており、武装勢力は人道的理由から限られた数の物資を国境を越えて移動させ、負傷した兵士を治療のためバングラデシュに送ることが認められている。元外務省高官は危機グループに対し、2018年以降、関係は「良好」であり、特にAAがバングラデシュに対し、ロヒンギャの人々の完全な権利を保障することに尽力していると伝えていたと語った。この非公式な交渉と並行して、ダッカは難民帰還の問題にネピドーとの正式な協議を集中させた。

しかし、AAが国境を完全に掌握する見通しが、関係の性質を変えた。2024年初頭から、バングラデシュの治安当局はAAに対し、ロヒンギャのリーダーたちと会うよう圧力をかけてきた。彼らはまた、AA支配地域への難民帰還に関する交渉の進展も模索していた。AAの視点から見ると、ダッカが交渉相手に指名したロヒンギャのリーダーたちはコミュニティを代表するものではなく、帰還に関する交渉は時期尚早であった(AAは原則として帰還に反対していないと主張し続けている)。

これらの意見の相違により、関係はひどく悪化し、双方の交渉者の間には個人的な敵意が生まれた。マウンドゥーとブティダウンでの紛争が激化し、RSOがキャンプでの徴兵を強化し、AAがロヒンギャの民間人に対する虐待の疑惑に直面するにつれて、これらの緊張は増していった。ラカイン州の情勢を注意深く見守るバングラデシュの治安当局者は、5月に危機グループに対し、AAはロヒンギャに対する「憎悪を吐き出し」、「大量虐殺行為」を犯していると語り、その結果、より多くのロヒンギャがAAと戦うために志願していると述べた。「AAのリーダーたちは近視眼的だ」と彼は述べる。「我々は彼らに、ミャンマー国内および海外在住のロヒンギャのリーダーたちと会談するよう伝えたが、彼らは興味を示さない。彼らはラカイン州で勝利の匂いを嗅ぎつけ、自信過剰になっている」。彼はさらに、国軍が非常に多くのロヒンギャの新兵を訓練していることから、AAは「ロヒンギャ危機を解決する」ためにロヒンギャの武装勢力と交渉する必要があるだろうとも述べた。

一方、AA軍は、バングラデシュがRSOを支援していると認識しており不満を募らせている。 6月8日、AA当局者は、ニュースやジャーナリストのポストを引用し、「バングラデシュ政権」がロヒンギャの武装勢力の徴兵を支援し、新兵に兵器を与えていると公に非難した。 RSOがバングラデシュ政府から公式の支援を受けていると信じているのはAAだけではない。多くのロヒンギャ難民やアナリストもこの見解を共有している。1980年代初頭に結成されたRSOは、少なくとも20年間武装勢力として活動していなかったが、2022年後半に再浮上し、キャンプの支配権をめぐってARSAに挑戦し始めた。ARSAは、2017年にキャンプが設置されて間もなく、キャンプをしっかりと掌握していた。長年、多くの反証があるにもかかわらず、ダッカはARSAがバングラデシュで活動していないと主張していたが、 2021年9月にARSAがロヒンギャの著名なリーダー・モヒブ・ウラーを暗殺した後、バングラデシュ政治はARSAの攻撃への関与を認め、ARSAのメンバーの逮捕を開始した。この取り締まりは、2022年11月にARSAがバングラデシュの軍将校を殺害した後、さらに強化された。

RSOとARSAの2つのグループ間の対立は2023年に激化し、キャンプでの暴力と犯罪が急増した。2024年初頭までに、RSOは33のキャンプのほとんどを掌握した。多くのARSAメンバーがRSOに乗り換えた。彼らの継続的な略奪的行動は、強制徴兵キャンペーンの前からRSOの人気をますます下げていた。危機グループが2023年半ばにコックスバザールのロヒンギャにインタビューした時、一部の人々はRSOがARSAよりも優れていると楽観的だったが、今日では難民の間でそのような感情を聞くことはまれである。

バングラデシュがRSOを支援しているという主張を裏付けるために、難民とAA当局の両方は、特に5月の強制徴兵のピーク時に、法執行機関がキャンプでのRSOの徴兵を阻止しようとしなかったという事実を指摘している。キャンプ内に武装警察大隊と国家安全保障情報局が存在していたことを考えると、RSOが主催した大規模な公開集会がバングラデシュ当局の知らないうちに開催されたというのは信じ難い。 武装警察大隊の将校は、少なくとも 1 回のそのような集会に出席したようだ。議員で元外務大臣のアブドゥル・モメンが 5 月にキャンプで集会を開いたとき、RSOの政治部門の責任者・コー・リンは、聴衆の最前列、彼の真正面に座っていた。武装勢力が、徴兵によって難民を国境を越えて移動させることができたという事実は、地元当局との共謀のレベルを示唆していると識者は主張している。

ラカイン州で急速に変化する展開にもかかわらず、ハシナ政権のミャンマーに対する公式の立場は変わらなかった。国軍はもはやラカイン州の大半を支配していなかったが、バングラデシュ外務省は国軍にロヒンギャの帰還を開始するよう圧力をかけ続けた。 5月12日のコックスバザールでの会合で、当時のハサン・マフムード外相は記者団に対し、ミャンマーの内戦は「ロヒンギャの人々の帰還を無期限に遅らせる言い訳にはならない」と語った。 7月中旬、彼はインドでの地域会議の合間にミャンマー政権のタンスエ外相と会談し、ネピドーにロヒンギャの帰還をできるだけ早く開始するよう強く求めた。同様に、シェイク・ハシナは7月の北京訪問中に、ロヒンギャの帰還開始に向け中国に支援を求めた。

ダッカは、ラカイン州北部での暴力から逃れてきたロヒンギャ難民がバングラデシュに入国するのを阻止しようとしたが、国境の抜け穴が多いため、数千人が入国に成功した可能性が高い。 最近の報告によると、AAが攻撃を激化させたため、主にマウンドゥーからすでに5,000人ものロヒンギャが国境を越えたという。 国境の両側にいる「ブローカー」と呼ばれる人身売買業者は、1人当たり100ドル相当の報酬でロヒンギャをナフ川に運んでいる。8月初旬のマウンドゥーでの戦闘激化により、さらに数百人のロヒンギャがバングラデシュに避難所を求めている。

ノーベル賞受賞者のムハマド・ユヌスが率いるダッカの新暫定政府は、ロヒンギャとAAに対して異なるアプローチを取る可能性が高い。ユヌスは、国連主導の、対応の有効性を損なってきた難民キャンプでの人道活動に対する制限を緩和すると見られている。一方、ユヌスの17人からなる内閣のうち2人、外国顧問のトゥーヒド・ホサインと繊維・黄麻省顧問のサカワット・ホサインは、AAとの関与強化を含む、ミャンマーに対する新しい、より現実的な政策を公に主張している。同時にユヌスがハシナ首相ほど国軍に対して影響力を持つ可能性は低い。そのため、DGFIやその他の治安機関は、国境沿いの出来事を方向付ける余地がさらに大きくなる可能性がある。今のところ、ハシナ政権後のラカイン州に対する暫定政府の政策は不明瞭なままである。暫定政府は、DGFI長官を含む、前首相に近いと見られる影響力のある将軍数名を排除している。

5.事実上の自治の課題

AAは驚くべきスピードで、ラカイン州とチン州南部の2万平方キロメートル以上の領土を完全に掌握した。今後数か月で、その領土はさらに拡大すると思われる。しかし、事実上の自治国家を樹立するという目標達成に向けて大きな前進を遂げた一方で、すでに支配下にあった地域を統治した経験があるにもかかわらず、この新しい組織を管理する上で直面する課題は膨大である。

A.経済

政府の怠慢により、ラカイン州はミャンマーで最も貧しい地域の1つとなり、この状況がAAが反乱軍として台頭する背景にある多くの不満を煽っている。しかし、この地域の地形も、その発展の停滞に一役買っている。肥沃な海岸地帯に川や小川が点在し、北部と東部では険しく人口の少ない山脈がそびえ立つが、その地形が近隣州やミャンマー中央部とのつながりを妨げている。2011年から2021年の改革期間中、道路の改善、新しい橋の建設、国営電力網への最初の接続の確立に向けた作業が行われたため、アクセス面は大幅に改善した。インターネットサービスもこの期間中に初めて登場した。しかし今日でも、州とミャンマー中央部を結ぶ主要道路は3本しかなく、インドやバングラデシュとのつながりは未発達のままである。シットウェからラカイン州北部への移動は、ほぼすべて今でも船で行われている。

AAにとって、ラカイン州での経済的持続性への道は、間違いなく困難なものとなるだろう。ミャンマーの無数の少数民族武装勢力が通常資金調達している方法の多くは、主にラカイン州に拠点を置いているAA軍には実行可能ではない。これらの収入源は、住民や企業への課税、天然資源の採掘(特に鉱物や木材)、近隣諸国との非公式貿易ゲートを通過する商品に課される関税などから得られる。一部の少数民族武装勢力は、麻薬製造、マネーロンダリング、サイバー詐欺などの違法行為に深く関与している。

ラカイン州には簡単に利用できる天然資源がほとんどなく、経済は主に農業と漁業に基づいている。送金や国際援助も、多くの家族にとって重要な支援源である。バングラデシュやインドとの貿易は、公式か非公式かを問わず、ごくわずかである。どちらの国も、少数民族武装勢力との国境貿易の経験があまりなく、AA軍が中国やタイの国境沿いに他の少数民族武装勢力が設置したような商業拠点を設置することに快く思わないだろう。

AAは、主な収入源はラカイン州およびラカイン州外に住む世帯や企業への課税だとしている。しかし、紛争は州経済に深刻な混乱を引き起こし、AAの徴税能力を損なっている。課税だけでは、公務員の給与など、AAが現在必要としているものを賄うのに十分な収入を生み出せない可能性が高い。

ネピドーは、AAには他の収入源もあると示唆している。国軍は長い間、AAがバングラデシュへの麻薬密売に関与していると主張してきた。 バングラデシュはヤーバーとアイスの両方を含むメタンフェタミンの有利な市場であり、そのほとんどはシャン州で生産され、ミャンマーを経由してラカイン州に運ばれ、国境を越えてコックスバザール地域に密輸され、最終的に国内各地で販売されている。AAは取引への関与を否定し、国軍とロヒンギャ武装グ勢力のせいだと主張している。おそらくそうなるだろうが、AAがラカイン州を完全に掌握し、麻薬の流通が妨げられずに続けば、AAがサプライチェーンとのつながりがないと主張することはより困難になるだろう

B.将来の地位と対外関係

AAのリーダーたちは、独立ではなくミャンマー国内での連邦としての地位を求めていると繰り返し述べており、シャン州北部のワ州連合軍(UWSA)の飛び地が享受している事実上の自治権を模倣している。 しかし、AAがUWSA モデルをラカインで模倣するのは難しいだろう。UWSAは中国政府と近く、その領土は中国経済に高度に統合されており、中国の電力、通信ネットワーク、通貨さえも使用している。一方、AAは、バングラデシュや近隣のインドとこのような関係を欠いているだけでなく、二国間統合のインフラも存在しない。実際、AAが管理する準国家は、ミャンマーの長い歴史の中でも、政府管理外領土としては異例中の異例の存在である。他のほとんどすべての少数民族武装勢力の飛び地は、中国とタイの国境沿いの山岳地帯にあるが、ラカイン州は、北部を除けば、バングラデシュよりもミャンマー中央部とより深く関わっている。

それでも、ラカイン州には中国にとって戦略的に重要な経済的資産がある。チャウピューには、中国、ミャンマー、インド、韓国の国営企業と民間企業が関与するプロジェクトの下、沖合のシュエ油田から天然ガスが陸揚げされ、中国の雲南省にパイプラインで送られている。それとは別に、ミャンマーと中国の国営企業が近くのマダイ島に石油ターミナルを所有し、ガスパイプラインに隣接する雲南省への石油パイプラインを運営している。北京はもっと大きな計画を持っている。チャウピューに深海港と経済特区を建設する初期段階にあり、雲南省への道路と鉄道の接続により、中国はインド洋に直接アクセスできるようになる。これらのプロジェクトのほとんどについて北京とネピドーの間ですでに契約が結ばれているため、AAがそれらの開発や運営の正式なパートナーになる可能性は低い。その代わりに、中国が支援するインフラが支障なく稼働させるために、北京や関係する国有企業に保護料の支払いを求める可能性が高い。

バングラデシュとインドの両国との関係構築も、AAにとって極めて重要となる。この任務には巧みな外交手腕が求められる。なぜなら、両国ともこれまでAAと水面下での対話以上のことは望んでいなかったからである。インドはこれまでは、AAを中国の利益の代理人とみなし、より慎重であった。AAは、中国との国境沿いにあり、北京と密接な関係にあるUWSA などの武装勢力と密接な関係にあるからだ。インド政府にそうでないことを証明するには、信頼構築の長いプロセスが必要となるだろう。インドは国軍との密接な関係を維持したいとも考えている。そのため、ネピドーと活発に紛争しているグループとの関係を深めることには消極的だ。不信感は相互的である。ラカイン族の間には、リーチ作戦に対する激しい怒りがまだ残っている。リーチ作戦では、インド軍諜報部がラカイン族の反乱をそそのかし、裏切り、1998年2月に(インドの)アンダマン諸島とニコバル諸島で6人の戦闘員を殺害し、70人以上を逮捕した。

とはいえ、インドとの関わりはすでに成果を上げているが、障害にもぶつかっている。インドの連邦制は、バングラデシュのような単一国家と関わるのとは対照的に、AAがニューデリーとミゾラムの両方の当局と関係を築く機会も生み出している。限定的ではあるものの、チン州(ミャンマー)のパレットワを経由したミゾラム州との非公式貿易は、ラカイン州中部の一部の商品の価格を安定させるのに役立ってきた。 しかし、ラカイン州の供給ラインが依然として脆弱であることは、ミゾラム州が4月のインド総選挙中に密輸対策の一環としてパレっトワとの非公式貿易を取り締まろうとしたことで明らかになった。その結果、一部の品目の価格が上昇し、品不足に陥った。 5月下旬以降、ミゾラム州を拠点とする有力な市民社会組織・中央ヤングライ協会(CYLA)は、チン州におけるアラカン軍の存在に抗議するため、国境への道路を2度封鎖した。その後、食品の取引は再開されたが、CYLAは燃料、医薬品、農業資材の輸送を引き続き阻止している。

少なくとも、長年首相を務めたシェイク・ハシナが8月5日に辞任するまで、インドもバングラデシュの外交政策で大きな役割を果たしていた。ニューデリーはハシナ首相の最も強力な支援者であり、両国の関係の中心となる信条は、ダッカが近隣諸国を弱体化させる武装勢力を支援したり、公に関与したりしないというものだった。この方針は主にインド北東部の反乱分子を対象としているが、AAにも適用されている。この理由もあって、バングラデシュ軍情報部が武装勢力との関係管理の責任を負わされた。ムハマド・ユヌス暫定政権の下では、バングラデシュの外交関係と国境警備におけるAAの重要性を認識した、より独立した外交政策をとる機会が今や生まれている。それでも、AAとバングラデシュの関係は、AAがロヒンギャとの関係をどう扱うかに大きく左右されるだろう。ダッカの中心的な関心事は、依然として100万人を超えるロヒンギャ難民の帰還だからである。

C.ガバナンス

AAは、その政治部門であるULAの傘下にあるアラカン人民政府として知られる官僚機構の構築に苦戦している。2020年11月の停戦から2023年11月に戦闘が再開されるまで、AAは行政および司法制度の強化に注力してきた。 AAは、支配下に入った多くの地域で国軍が任命した地方行政官をそのまま残したが、彼らには主にAAに報告するよう指示した。ラカイン州の多くの地域でAAが並行して設置した司法制度も、すぐに公式裁判所に取って代わった。しかし、行政官が名目上は依然として存在していたため、ネピドーは、事実上AAが運営していた州の多くの地域で教育、医療、電力を提供し続けた。

少なくとも10の郡区を完全に支配したAAは、現在、大規模な住民に公共サービスを提供する責任を単独で負っている。そのため、AAは莫大な財政的負担と人員負担を負うことになった。戦闘が再開されて以来、国軍は追い出された地域の公務員への給与支払いを停止し、電気やインターネットおよび金融サービスの大半へのアクセスを遮断した。公務員が授業や医療の提供を継続しているが、給与は支払われず、代わりにコミュニティが食料や宿泊施設を提供しているケースもある。このような取り決めは、長期的には明らかに持続可能ではない。AAが国家として存続するためには、兵士だけでなく、行政官、教師、医療スタッフ、警察官、その他の公務員にも給与を支払い、その他の支援を提供する必要がある。

2023年に戦闘が再開される前から高まっていたAAへの批判に対処したいのであれば、公務員の給与支払いと新規職員の確保が極めて重要になるだろう。苦情は、汚職、決定を強制するための暴力の脅迫や使用、職員の訓練、知識、経験の不足に集中している。AAは、ラカイン州民、特に高学歴の人々に、官僚機構のために働くよう定期的に呼びかけている。実際にそうした者もいるが、その数は少ない。

AAは軍事作戦と並行して、すでに行政が機能している地域でのサービスの回復と、新たに支配した地域への官僚機構の拡大を目指している。資源不足に加え、空爆の脅威が絶えず、進展は困難を極めている。戦闘再開以来、州の多くの地域ではサービスの提供がほとんど行われていない。「行政機構全体がすでに破壊されている」とラカイン州の政治家は述べた。「最も苦しむのは市民だ」。

戦場での勝利により、ラカイン州の人々はAAの官僚機構の欠陥や、軍が課した食糧価格の高騰やその他の負担を軽減できないことへの批判を抑えている。しかし、この蜜月期間がどのくらい続くかは不明である。都市住民の期待に応えることは特に難しいだろう。「AAは革命の道に沿って皆を引きずり回し続けるだろう」と前述した政治家は語る。「だが人々がどれだけ長く揺るぎない態度を保てるのだろうか」

AAの支配拡大は、特に意思決定における女性の役割にも大きな影響を及ぼす可能性がある。ミャンマーのほとんどの社会と同様に、ラカイン州の社会は極めて家父長制的で、伝統的な性別役割が依然として支配的である。しかし、2011年から2021年の自由化期間により、ラカイン州の女性が政治的、経済的、社会的に活動する新たな機会が生まれた。男性が引き続き支配的であったものの、女性は新しい政党や市民社会組織に参加し、新たな経済的機会や教育機会にもアクセスすることができた。

ほとんどの軍事組織と同様に男性が支配するAAは、これらの新たな現実を考慮する必要があるだろう。AAはミャンマーの他の武装勢力よりも女性兵士が多いように見えるが、女性兵士は主に下級階級に配属されている。さらにこのグループは権威主義的で、他の市民社会や他の政治勢力にほとんど余地を与えていない。封鎖により通信、銀行サービス、教育へのアクセスが制限され、男女間の機会格差がさらに悪化する可能性がある。AAは、軍事、政治、行政部門で実力主義を推進することが理念だとしているが、極めて保守的なロヒンギャ族コミュニティで「女性を解放」しようとすると困難に直面していることを認めている。

D.人道危機

ラカイン州での戦闘は州民全員に打撃を与え、人道的大惨事が迫っているのではないかという懸念を引き起こしている。国軍の封鎖により、ほとんどの人が失業しているのにもかかわらず、食料価格が高騰している。多くの人は銀行口座にアクセスできず、必需品を買うために現金を得るために資産を売却している。しかし、国軍の封鎖により、州への人道支援のアクセスは極めて限られており、国連は安全上の理由で多くの職員を撤退させている。その結果、多くのコミュニティは自力で生き延びるしかない状況に置かれている。

最も懸念されるのは、戦闘で避難を余儀なくされた人々だ。ULAのHDCO は 5月2 日、武力紛争やコミュニティ間の暴力により家を追われた人々を含む57万人が現在その領土内で避難していると報告した。AAは避難民に援助を提供しているが、資源は少なく、モンスーンが到来すると今後数ヶ月で生活環境が悪化する可能性が高い。HDCOは避難民の 80 パーセントが「緊急援助を切実に必要としている」と推定しており、そのほとんどは6月に始まった雨期に「悲惨なほど準備ができていない」とも述べている。このすでに悲惨な状況は、保健システムの崩壊によってさらに悪化しており、州中部と北部の約 160万人が病院の治療を受けられなくなっている。下痢などの水系感染症による予防可能な死亡や、出産前ケアの欠如による妊産婦死亡の報告が増えている。

戦闘と貿易封鎖はラカイン州の農業生産にも支障をきたし、食糧不安をさらに悪化させるだろう。モンスーン期の稲作は6月に始まるはずだったが、多くの農家は種子、肥料、機械の燃料を買う余裕がない。そもそも、それらを見つけることさえできない。来年の稲作の生産量は50%も減少すると予測する人もいる。また地雷や不発弾の危険があるため、仕事のために村から出ることを恐れる人も多く、その一部は水田に埋められていると報じられており、メディアは定期的に死傷者を報じている。

誰もが影響を受けているが、ロヒンギャは特に脆弱である。 11月以前は国際援助に大きく依存していた人が多く、国軍の封鎖により11月以降はほとんど支援を受けていない。その中には2012年の民族間紛争以来シットウェ郊外のキャンプで暮らしている約13万人のロヒンギャも含まれる。ロヒンギャは最近の戦闘で避難を強いられた可能性がもっとも高い。HDCOの数字によると、ムスリムの人口がかなり多いブティダウン、マウンドゥー、パクトーは避難の面でもっとも大きな影響を受けている。4月から5月にかけてAAがロヒンギャを移住させたブティダウン南部の村人たちは、特に厳しい状況に直面している。彼らは避難を求めている新参者を支援する外部からの援助をほとんど、あるいまったく受けていないからである。最近AA支配下に入ったチャウクトーとマウンドゥーの一部に住むロヒンギャは、危機グループに対し、自分たちも食糧が不足していると語った。 「今は緊急事態です」とマウンドゥーのすぐ北にある村に住むロヒンギャの住民は訴えた。「私たちのために祈ってください」

E.共同体の関係

マウンドゥーとブティダウンにおけるラカイン族とロヒンギャの間の最近の民族的緊張は、ミャンマー西部に限ったことではない。何十年もの間、全国の少数民族武装勢力は、自分たちの地域の支配者が自分たちの共同体の利益を代表していないと感じる他の少数民族からの抵抗に直面してきた。一方、国軍は、こうした民族的・宗教的分断を自らの利益のために利用してきた長い歴史がある。

過去数年間、AAは支配地域のロヒンギャを魅了し、国軍よりも見通しが良いことを示そうとしてきた。しかし、これはムスリムが少数派である地域でこの戦略を採用したため、ほとんど抵抗に遭わなかっただけである。マウンドゥーとブティダウンの統治は、国軍が同地域から追い出された後もロヒンギャの武装勢力が活動を続ける場合は特に、別の課題をもたらすだろう。ロヒンギャとラカイン族の関係は、州の他の地域では同程度には悪化していないようだが、AAがロヒンギャの人権を尊重して彼らを管理しなければ、他の地域でも緊張が高まり始める可能性がある。

規模は小さいが、AAはインドとバングラデシュの国境沿いのチン州南部の領土の支配を強化しようとする中で、同様の抵抗に直面する可能性がある。ラカイン族はパレットワの人口のわずか20%を占めるにすぎず、主にカラダン川の渓谷に住んでいる。残りのほとんどは山間の村に住むクミ・チン族である。AAは、その存在を正当化するため、この地域はかつて15世紀から18世紀にかけて現在のラカイン州の大半を支配したアラカン王国の一部であったと主張している。しかし、同地域の占拠は一部のチン族グループの怒りを買っており、彼らはこれを「侵略」にすぎないと表現している。 チンランド評議会の議長は、AAに対し、突然の優位性は民族グループ間の「分断を生み出す」と警告し、対話を通じて紛争を解決するよう促した。クミ・チン族は、強制的な徴兵やその他の人権侵害でAAを長年非難してきた。他のチン族グループは、兵器と訓練を提供してくれたAAの側に立っており、6月には隣接するマトゥピ郡区を占領するための共同攻撃を開始した。

F.紛争の終結

またラカイン州での紛争がどのように終結するか、そしてAAと国軍と間でどのような共存策が講じられるか(もし講じられるなら)にも大きく左右されるだろう。AAが州全体を制圧する寸前であるため、停戦の短期的な見通しは暗いように思える。AA関係者は危機グループに対し、国軍によるラカイン州封鎖はAAを交渉のテーブルに着かせるための戦術だと考えており、この圧力に抵抗する決意だと述べた。

5月、北京は中国・昆明で両者を会談に招集したが、合意には程遠いものだった。国軍は同州からの撤退を求めるAAの要求を受け入れなかった。北京は1月にシャン州北部の国境での戦闘を終わらせるため事実上停戦協定を強行したが、ミャンマー西部での合意を仲介する決意はそれほど強くない。中国はラカイン州に戦略的な投資を行っているが、戦闘は同州国境から遠く離れた場所で行われており、北京は勝利した者と協力できると確信しているようだ。

しかし、停戦はAAに大きな利益をもたらす可能性がある。前述のようにラカイン州はすべての必需品をミャンマー中央部に大きく依存しており、国軍の封鎖により物価が高騰し、品不足が生じている。ネピドーはラカイン州全域の電力、通信、銀行サービスの提供も管理しており、自由にオン・オフできる。空爆の脅威を終わらせる合意は、AAの行政部門が国軍の標的になることを恐れずに行政サービスを展開できるようにし、具体的かつ心理的な利益をもたらすだろう。また、ダッカとニューデリーは、AAと関わる自信を深めるだろう。

昆明会談が示すように、そのような停戦には、国軍が州の一部で足掛かりを維持することなど、重要な譲歩をしなければならないことはほぼ確実だ。これらの譲歩がなければ、軍事政権が一連の封鎖を終わらせ、AA支配地域との経済関係を完全に正常化する動機はほとんどない。

しかし、そのような合意をまとめるのは容易ではないだろう。戦場では負けているが、国軍は休戦を切望しているわけではない。ミンアウンフラインはAAに強い嫌悪感を抱いており、この時点で停戦に同意することには消極的かもしれない。なぜなら、それはたとえ非公式であっても、AAの領土獲得を認めることになるからだ。「過去には国軍は停戦に関心があったが、忍耐が尽きた」と国軍に近い人物は語った。「事態は、停戦が実施されていた1027作戦以前の状態に戻ることはできない」。たとえ国軍がラカイン州から追い出されたとしても、紛争が終わる可能性は低い。国軍に近い情報筋によると、国軍はラカイン州での損失を一時的なものと見なし、領土を取り戻す野心を抱いているという。 「ネピドーの計算では、徴兵により毎月4,000人から5,000人の兵士が新たに入隊することになる」とこの人物は語った。「これにより、ラカイン州で大規模な攻撃を開始できるようになる」。ただし、一連の挫折により立場が弱まっているミンアウンフラインが国軍総司令官の座を解かれた場合、国軍の計算は変わる可能性がある。

しかし、今のところ、AAにとって最もありそうな結末は、国軍の陸海封鎖に無期限に直面することであり、これによりラカイン州の人々は必需品やサービスに飢えることになる。HDCOのスタッフは危機グループに対し、「これらのサービスが私たちの住民の日常生活や国際社会へのアクセスにとって極めて重要であることを認識しています。この問題を解決する方法を見つける必要があります」と語った。ラカイン州がミャンマー中央部への依存を減らすための同グループの主な希望は、前述のように、バングラデシュとインドを経由した貿易を拡大することである。

AAはまた、国軍の封鎖を弱める別の戦略も追求している。AAは数年にわたり、クーデター以降に結成されたラカイン州周辺、特にチン州南部、マグウェ管区西部、エーヤワディ管区西部に拠点を置く抵抗グループを支援してきた。AAの新たな同盟者の中で最も強力なのは、マグウェを拠点とするヨー防衛軍とチン兄弟同盟で、両軍は6月末にマトゥピを制圧した最近の攻勢に加わった。AAにとって、この攻勢はミャンマー中央部からラカイン州への新たな補給路を開くことを狙ったものだった。AAは、州境付近の国軍を弱体化させ、封鎖に穴を開けることを明確な目標として、訓練や兵器の提供を通じてこれらの武装勢力への支援を拡大する可能性が高い。州とミャンマー中央部を隔てるラカイン山脈の反対側、マグウェ管区西部にある軍の軍需産業施設は、AAとその同盟者の標的になる可能性がある。

6.ラカイン州の安定に向けて

AAはまだ終わっていないが、AAは戦場での勝利によりすでに広大な領土を掌握しており、それに伴って重い責任も負っている。AAは、樹立を目指している小国に安定をもたらすために、複雑な政治、外交、経済、社会問題を乗り越えながら、そこに住むすべての人々を統治する方法を見つけなければならない。近隣諸国、援助国、離散民コミュニティなどの部外者もこの取り組みに関心を持ち、貢献できる。

A.ロヒンギャとの関係

事実上の政府であるAAの最優先事項は、ロヒンギャとの紛争を緩和することであるべきだ。ラカイン州北部でコミュニティ間の緊張を煽った最大の責任は国軍にあるが、AAの対応は事態を悪化させている。AAの扇動的な発言は多くのロヒンギャを遠ざけただけでなく、バ​​ングラデシュ政府と治安部隊に対するAAの立場を悪化させた。さらに深刻なのは、マウンドゥーとブティダウンでAAの部隊が深刻な人権侵害を行ったとの疑惑がかけられたことで、国軍とロヒンギャ武装勢力による徴兵活動が促進されたことだ。AAは今やラカイン州北部では国軍を倒せるかもしれないが、結局はロヒンギャの断固たる反乱に直面し、コミュニティ間の憎悪が深まり、あらゆる民族や宗教的背景を持つ民間人が苦しむことになるだろう。

AAの指導者がラカイン州北部を完全に掌握する数週間後に何を言い、部隊が何をするかは、今後何年にもわたって影響を及ぼす可能性がある。8月5日に民間人への攻撃が疑われるまで、AAは民間人の犠牲者を抑えるため、マウンドゥーでの武力行使に対してブティダウンでの攻撃よりも慎重な姿勢を取っていたようだ。犠牲者とその家族に与えた被害に加え、この攻撃(AAの犯行と広くみなされ続けると仮定すると)は、ラカイン州内および海外在住のロヒンギャ族との信頼関係構築をさらに困難にするだろう。AAがムスリムの少数派に自らの政治計画を堅持する強い理由を与える方法を模索すべき時期に、このような事件がさらに発生すれば、さらに大きな損害をもたらすだろう。

こうした背景から、AAは部隊が人権侵害に関与しないよう、直ちに措置を講じる必要がある。特に兵士の明確な行動規範を早急に公表し、自軍による不正行為の疑いに関する独立調査を支援することを約束し、違反者を処罰するために明確で目に見える適切な措置を講じるべきである。AAがブティダウンの数十の村を破壊したという疑惑に対処するもっとも具体的かつ即時の方法は、ロヒンギャがそれらの地域に戻り、再建を支援することを許可することだろう。

緊張を和らげるためには、AAとロヒンギャの有力者との会談も不可欠だ。統一されたロヒンギャのリーダーがいないことで事態は複雑化しているが、AAのリーダーは、双方の不信感の高まりを克服するために、州内および海外在住の穏健派と定期的な対話を確立すべきだ。しかし、両者がロヒンギャが独自の民族的アイデンティティを持つことを認めるかどうかという問題に焦点を当てるなら、そうした会談は成功しそうにない。なぜなら、それは必ず歴史記録をめぐる議論に発展するからだ。第一歩として、ラカイン州北部の緊張緩和、ロヒンギャの状況改善、帰還の見通しに焦点を合わせるべきだ。AAのリーダーは、これ以上の扇動的な発言を避け、「ベンガル人」という用語の使用を直ちに永久にやめるべきであり、民族性やアイデンティティに関する議論を始めたり巻き込まれたりしないようにすべきだ。

AAは、コミュニティ間の関係を安定させるために、ラカイン族の人々のロヒンギャに対する怒りを抑え、民間人同士の暴力が激化する可能性を回避するよう努めるべきである。またより高いレベルを含むより多くのロヒンギャを政権に組み入れ、移動の自由、雇用へのアクセス、教育や生計の機会、その他の必須サービスなど、ロヒンギャが享受する権利があり、国軍が長らく否定してきた権利を尊重するという約束をより明確に表明すべきである。AAは、統治地域では既にある程度これらのことを行っているが、最近支配下に入った場所を含め、権利を尊重することが標準的な慣行となるようにする必要がある。ロヒンギャや人道団体と協力して、2012年以来最大13万人のロヒンギャが収容されているキャンプの閉鎖を開始することは、強い意志を示すことになるだろう。このプロジェクトの一環として、AAは移住支援を提供するか、人道団体が支援を提供するのを支援する必要がある。

ロヒンギャのリーダーたちは、自らの役割を果たす必要がある。AAとロヒンギャの関係は、国軍が両者の対立を煽らない限り改善できるということを、海外在住の人々が心に留めておくことが重要だ。リーダーたちは、ラカイン州のコミュニティの力学に関して、誤解を招き、扇動的な可能性のある情報をオンラインに投稿しないように注意すべきだ。海外在住の人でも、難民キャンプでも、そして可能な限りラカイン州でも、彼らは、信頼できる対話者として機能できる、コミュニティの真の代表団体を結成するよう努めるべきである。

B.バングラデシュの役割

シェイク・ハシナの追放後、国内で大きな課題に取り組んでいるバングラデシュの新暫定政府は、AAとロヒンギャとの間の緊張が悪化するのを阻止する上で大きな役割を担っている。まずバングラデシュはAAと交渉するためのロヒンギャの指導者組織の設立プロセスを支援すべきだ。限られた国民の支持でリーダーを厳選するという前政権​​の慣行を続けるのではなく、難民キャンプでの市民社会活動に対する規制を緩和すべきだ。

ダッカとその法執行機関は、ロヒンギャの武装勢力が難民キャンプで徴兵するのを阻止する最近の取り組みを継続するとともに、彼らの資金源と兵器を食い止め、彼らの影響力を全体的に減らすよう努めるべきである。これらのキャンプのコミュニティリーダーは、ロヒンギャが自発的にロヒンギャの武装勢力に加わらないようにするキャンペーンを主導するのに最適な立場にあるが、そのためにはバングラデシュ政府と治安当局の支援が必要になるだろう。イマームやマジヒ、その他の影響力のある人物は、単独ではRSOのような武装勢力に対抗できないかもしれない。

ラ​​カイン州の人道危機が悪化しないようにすることもダッカの利益となる。ネピドーの抵抗により正式な「人道回廊」の宣言は実現しそうにないが、ダッカは地元や国際機関と協力して、必需品の国境通過をひそかに許可できるだろう。

もっと広い意味では、バングラデシュはラカイン州の新たな現実にどう対応するのが最善かを考える必要がある。ダッカの新政府とマウンドゥーでの国軍の差し迫った敗北の組み合わせは、AAとの関係を再構築する重要な機会を提供する。ロヒンギャ難民をミャンマーに送還することがダッカの第一目標であることは理解できるが、当面の優先事項はラカイン北部の安定を築くことであり、将来的に帰還をより現実的な見通しにするためでなければならない。国軍がラカインでの損失を短期的に回復する可能性は低く、AAはバングラデシュにとって避けられない交渉相手となっている。ダッカは、特に過去6か月間の緊張の後では、AAと公式かつ公に交渉することにまだ不安を感じているかもしれない。しかし、ダッカはそのような重要な関係を管理する責任をすべて軍の諜報機関に委ねるべきではない。信頼関係を築くために、第三者(おそらく双方が受け入れ可能な非国家主体)による仲介に頼ることができる。

一貫した政策を定めることに加え、ラカイン州とロヒンギャに関する暫定政府と治安機関との連携を改善することが重要となる。シェイク・ハシナ政権下では、治安機関はさまざまな戦略を追求したが、その一部は互いに矛盾し、バングラデシュの利益に反する可能性があった。暫定政府は、政府に代わって諜報機関と治安機関を監督し、ラカイン州とロヒンギャに関する政策の実施を主導する国防・国家安全保障顧問を早急に任命すべきである。この任命は、透明性と説明責任の観点だけでなく、機関の活動が戦略を弱めるのではなく、より広範な戦略に貢献していることを保証するためにも重要である。

ダッカは、AAがより安定し経済的に安全な小国を築くのを支援することで、自らの利益にかなうことができる。例えば、貿易のために国境をひそかに開放すれば、AAは基本的な物資に関してミャンマー中央部への依存を減らすことができ、それが経済的に持続可能な飛び地を築くAAの取り組みの鍵となるだろう。ラカイン州の経済状況の改善は帰還の前提条件となる。AAは、その居住地域が必需品を供給できなければ難民を受け入れる可能性は低い。同様に、ロヒンギャもそのような状況の場所に自発的に戻ることはないだろう。

C.外交関係

AAの飛び地はいくつかの重要な地域大国に近いため、国境を越えた関係において高度な柔軟性と実用主義を示す必要がある。AAは、両国間の疑念が残っているにもかかわらずインドとの関わりを通じて、またバングラデシュとの関係への影響を懸念してRSOとの衝突を回避しようとした当初の試みを通じて、ある程度これらの資質をすでに示し始めている。しかし、AAはバングラデシュとインドの治安部隊を超えて関わりを広げ、シンクタンク、市民社会団体、その他の影響力のある主体と関わるなど、さらに努力すべきである。

ラカイン州に大きな経済的、戦略的利益を持つ中国は、AAと国軍との協議を引き続き促進すべきである。上記の理由から、当面合意に至る可能性は低いが、特に国軍のトップが交代した場合は、完全に否定することはできない。したがって、対話のチャネルを開いたままにしておくことが重要である。一方、AAは、信頼できる合意の輪郭が浮かび上がった場合、国軍の痕跡をすべて消し去るという最大限の目標を追求するよりも、暴力と経済的困難に苦しむ住民に救済をもたらすことを優先すべきだ。

他の国際的アクターは、ミャンマーの近隣諸国ほど紛争当事者に対する影響力はないが、それでも重要な役割を担っている。まずバングラデシュの広大な難民キャンプにいるロヒンギャへの支援を強化すべきだ。彼らはロヒンギャ対策への支援を維持する必要がある。援助を削減すれば、安定した賃金を得るためだけでも、より多くの若者が武装勢力に加わるリスクがある。バングラデシュにもっとも影響力を持つ国々、特にアメリカ、EU、インドは、難民キャンプに悲惨な状況をもたらし、民間人としての性格を損なっている武装勢力に対して、ダッカに強力な措置を取るよう圧力をかけるべきだ。また、難民に対する脅威や暴力を監視し、危険にさらされている人々に安全な住居やその他の支援を提供する保護団体も支援すべきである。

援助国は、シットウェ周辺のロヒンギャ収容キャンプから始めて、ラカイン州の人々への援助も継続すべきである。国軍が支配していない地域への援助を認める見込みは薄いが、外国政府と国連はバングラデシュに対し、国境を越えた人道支援の流入を増やすよう圧力をかけるべきだ。中央政府の許可がなければ、解決すべき法的問題が発生する可能性があり、援助国は国境を越えた支援の提供に関する他の前例を参考にすべきである。援助国と人道支援団体は、バングラデシュからの救援物資がすべての民族コミュニティのメンバーに届くように、AAとより緊密に協力する必要がある。援助が公平に、必要に応じて分配されるようにすべきである。援助国と人道支援団体は、AAに対し、AAが民間人に対する虐待を直ちに停止することの重要性を明確にすべきである。また、報告されているロヒンギャに対する虐待について、独立した調査を許可するようAAに圧力をかけるべきだ。

援助国は、可能な限り、ラカイン州のメディア組織、市民社会団体、政党を支援し、一党独裁国家の樹立を目指しているAAに対する牽制と均衡の役割を果たせるように努めるべきである。AAは、これらの他のアクターを主に自らの権力に対する脅威とみなしているが、援助国は、彼らに活動の場を与えることが、長期的には正当性を築く上で重要となることを明確にすべきである。また、援助国は、紛争により女性のリーダーシップの機会が減少している状況に対抗するため、これらの組織内での女性の役割を促進するべきである。

国際的アクターはまた、紛争がラカイン州の”すべての”コミュニティに及ぼしている影響をより体系的に認識する必要がある。ロヒンギャは特に脆弱であり、2017年に彼らに対して行われた残虐行為が広く適切に報道されたため、ロヒンギャに焦点が当てられる傾向が依然としてある。 8月初旬の攻撃のような事件はそれ自体が懸念材料であり、当然ながら2017年の記憶を呼び起こす。それでも、ラカイン州では武力紛争の犠牲者が多数出ている。2021年のクーデター以来、政権は空爆や虐殺を含む虐待でラカイン族を標的にしてきた。この現実に注目することは、ラカイン州の人道的状況の全体像を明らかにするのに役立つ。特にロヒンギャに対する国際社会でのラカイン族の描写に対する長年のラカイン族の不満を悪化させないことも重要である。

最後に、外部の関係者がラカイン州に影響を与える人道的および安全保障上のあらゆる問題についてAAとどのように協力するかを検討する際、彼らはほぼ間違いなく、同集団が非国家集団であるという立場から生じる根本的な問題に取り組むことになるだろう。危機グループが以前に指摘したように、国際システムは国民国家間の二国間および多国間関係を前提としており、外部の主体は、特に自国の反乱軍や分離主義グループと争っている場合は、自分たちが設定している前例を心配するかもしれない。それでも、ラカイン州の大部分、あるいはすべてがAAの事実上の権威の下で自治権を持つ存在として出現する可能性が高まっていることを、外部の主体が回避する方法はない。したがって、人道、安全保障、その他の相互の関心事項にプラスの影響を与える可能性が最も高いのは、地元の主体と提携するための従来のアプローチに何らかの革新を加えることであり、これは慎重に検討する必要があり、紛争、人権、および発生する可能性のある法的考慮事項に留意する必要がある。

7.結論

ラカイン州と南部チン州の大半を電撃的に進撃したAAは、現在、人口と面積の両方でミャンマーの非国家武装勢力の中で最大の領土を支配している。この軍事的利益には、大きな政治的責任が伴う。AAは、ラカイン州を自治の未来に導こうとしており、困難な課題に直面している。AAは、今後数年間、複雑な地政学的、経済的、コミュニティの問題を乗り越え、州を安定させ、住民を保護し、実行可能な政権を構築する必要がある。ラカイン州の立地と独特の状況を考えると、ミャンマーにはAAがこの課題にどのように対処できるかについての青写真はない。

最大の課題は、ロヒンギャとの信頼関係を再構築することである。ロヒンギャの中には、現在、AAを国軍よりも大きな脅威と見なす者もいる。ここ数カ月、コミュニティ間の関係に大きなダメージが見られた。この展開の責任の多くは国軍にあるが、AAの暴言と虐待疑惑は火に油を注いだ。しかし、AAとロヒンギャの関係は、暴力的または敵対的であるように固定されているわけではない。AAは、ラカイン州のすべての人々のために統治できることを示す機会があるが、ロヒンギャの民間人を保護することに配慮するなど、そうするつもりであることを緊急に伝える必要がある。

AA領土拡大は、近隣諸国や他の外国の国家や機関にとっても課題であるAAの軍事力と人気は、ネピドーの軍事政権の弱さとそれが受けている非難とは対照的に、効果的に統治し国民のために尽くすことに苦労したとしても、その原型となる国家が存続する可能性は高い。ミャンマー西部の辺境に新たな小国が出現する可能性によって生じる課題を乗り越えるにあたり、バングラデシュ、インド、その他の国々は、自国のすぐ近くで人道的大惨事を防ぐことをはじめ、自国の利益とラカイン州の人々の利益を増進するために、AAのリーダーたちと関わる方法を見つけるべきだ。

以上。

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