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【書評】じわじわと迫る"粛清"の恐怖にあなたは耐えられるか/折原一『沈黙の教室』

折原一『沈黙の教室』を読了したので、レビューしたいと思います。

1,あらすじ

青葉ヶ丘中学3年A組———悪魔のようなこのクラスを、担任教師が名づけて<沈黙の教室>。何者かが不気味な恐怖新聞を発行し、つぎつぎと粛清の対象を指名していく。そして行われる残酷ないじめ。やがて20年がたち、クラスの同窓会の告知が新聞に載った時、報復を誓う者による大量殺人計画がひそやかに進行しはじめた!

2,ネタバレなしの評価

総合得点:89/100
文庫本約700頁に及ぶ大作。
叙述トリックの名士が手掛けるミステリ作品とあって、非常にテンポよく謎の追究に耽ることができる。
また本作においては、衝撃的な叙述トリック!よりもホラーめいた不安感の演出に主眼が置かれているので注意が必要。

3,叙述トリックとは?

叙述トリックといえば折原一。
折原一といえば叙述トリック。
折原一は、叙述トリックで非常に有名な作家さんです。(と言っても、著者は彼の作品を2冊しか読んだことがないのですが...)

因みに、叙述トリックとは登場人物にとっては自明の事実を隠蔽するトリックのことです。

例えばこんな感じ

八月某日——
研修医である青木は、勤務先である◯◯大学病院で事務作業をこなしていた。
正午12時、チャイムが昼休憩を知らせる。
青木は昼食をとるためお気に入りの喫茶店へ向かった。
エレベーターで6階から1階まで降りる。
「今から昼食ですか?」
偶然同じエレベーターに乗り合わせた、50代くらいの白髪の男が物腰柔らかく話しかけてきた。
「ええ、そうです。」
青木は無難に答える。
ふと不審な視線を感じると、首から下げている名札を何故か白髪の男がじっと見つめていることに気が付いた。
名札には、研修医 青木 と書いてある。
エレベーターが1階に到着すると、白髪の男は何事も無かったかのように立ち去った。 
何故あの白髪の男は名札を見つめていたのだろう。

続きです。

大学病院を出た青木は、アスファルトを焦がす陽光の中、お気に入りの喫茶店へ向かう。
「いけない、日焼け止めを忘れた!」
紫外線は女性の大敵。
何としても日焼けは阻止しなくてはいけない。
日焼け止めを肌の露出部に塗ると、ついでに口紅を付け直し、青木は軽快に歩を進めた。

これ、女性の方だと分かりにくいかもしれません。

変態の白髪男は、女性である研修医青木の名札ではなく、彼女の胸を見ていた。という下らないオチです。

研修医=男という固定概念を利用した、男→女の叙述トリックです。

そうだったのか!とパズルのピースが嵌るような爽快感が叙述トリックの醍醐味です。

4, 手に汗握る恐怖と多重構造の謎

そんな叙述トリックの名士、折原一が仕掛けるホラーサスペンス。それが本作『沈黙の教室』です。

叙述トリックの性質上、作品のオチが叙述トリックであると知られてしまうと、事実上のネタバレになってしまいます。

しかし、折原一の場合は、叙述トリックであることを前提に、敢えて複雑な多重構造によって物語を展開させることで、叙述トリックである事実が作品のネタバレになることを防いでいます。

また本作も例外なく物語の構造が非常に複雑です。

油断していると、「あれ、誰が誰だっけ?」という事態になりかねません。

マニアック向けの本かもしれませんが、巧妙な叙述トリックに陶酔したい方は、本作のような折原一の叙述トリック小説がおすすめです。

また、本作の魅力は叙述トリックに留まりません。

3年A組で繰り広げられる、陰湿ないじめ。
その名も”粛清”。

恐怖新聞によっていじめの対象が指名され、指名された人物は恐怖に怯えながら粛清を待つ。なんとも気分の悪い様式です。

さらに“粛清”の首謀者は謎。

クラスの根底に流れるどろっとした闇は、形容し難い不安感を読者に煽り、本作により一層の魅力を与えています。

700頁の大ボリュームで描かれるストーリーは、重厚かつミステリアス。

是非一読あれ!!







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