26歳 愛犬コリーヌが帰ってこない
友人が住む団地の2階に子犬がひょっこりやって来た。
ドアをカシャカシャして訪ねてきたという。まだ小さくて体がコロコロしていてかわいいが、団地で飼うことはできないと私たちの家に連れてきた。
当時、私たち夫婦は空き家になっていた実家を借りていた。
それまで私は小鳥以外の動物を飼ったことがなかったが、夫は子供の頃に犬を飼っていて扱い方も分かるというので、その犬を飼うことにした。
犬はベージュ色で柴犬との雑種だった。名前をコリーヌと名付け、しつけは夫に任せた。畳の部屋だが家の中で飼った。お利口でとてもかわいくて、いつも私のそばにいる。私が洗濯物を干しに2階に行くとコリーヌも後を追ってカチカチと足音を立てながら階段を上ってくる。寝るときも私たちの布団の上だ。
コタツに入って夫とずっと話していると、コリーヌは部屋の隅っこの壁に向かって座り、プイッとあっちを向いたままだ。
相手にしてくれないので怒っているのだ。
「コリーヌ、おいで」と何度か言うと、ようやく機嫌を直してそばに寄ってくる。
まるで私たちの子どものようだった。
ある時、玄関の外の引き戸が開いたままになっていた。コリーヌはたまに外に出てしまうことがあったが、1,2時間もすれば帰ってくるので、その時もあまり心配していなかった。
ところが、夜になっても次の日になっても帰ってこない。
どこかで事故にあったのではないか、保健所に連れていかれたのではないかと心配で私は家の周りを何度も見に行ったがコリーヌはどこにもいなかった。
3日目の夕方、私が玄関の外に立っていると向こうから赤と青の縞々の犬がこっちに向かってカクカクと歩いてきた。よく見るとうちのコリーヌだ。4本の足に赤と青のビニールテープが交互にびっしりと巻かれていた。だから歩きにくくてカクカクしていたのだ。
コリーヌも困った顔で尻尾を振りながら私に近づいてきた。
「コリーヌ、どこに行ってたの?・・なにこれ、・・ひどい、ひどすぎる!こんなことするなんて・・」
コリーヌはまるで自分が悪いことをしたように下を向いていた。私はそんなコリーヌを慰めながら、足に巻かれた赤と青の床屋の看板のようなテープを1本ずつはがした。
夕方、夫が帰ってきて、コリーヌのことを話すと、大笑いした。
「笑い話じゃないのよ、ひどい恰好だったんだから」
「おとなしいコリーヌのことだから、遊んでくれてると思って黙ってじっとしていたんだろうね」と夫は言った。本当にその通りだ。
その後しばらくして、コリーヌは子犬を5匹産んだ。1匹だけ黒かった。その黒い犬だけ貰い手が決まらず家で飼うことにした。
その子犬には「おりこう」という意味のサージュという名前にしたが、コリーヌに似ずおてんばだった。私たちの子どもだったコリーヌも、しっかりお母さんになってサージュのそばを片時も離れなかった。