30歳 スペインでのベビー服事情
病院では赤ん坊の下着は用意されたので何も持っていく必要はなかった。少しでも汚れると、看護師がすぐにきれいなものと取り替えてくれた。
また、手元のボタンを押して、天井のインターフォンに向かって「おむつお願いします」というと、すぐに看護師が来て替えてくれた。帝王切開だったからなのか、看護師がおむつ交換とお風呂はやってくれる。
壁の一部をくるりと回すと、忍者屋敷のように壁に備え付けてあるベビーベッドが処置室側になり、看護師はそこでおむつを替えたりお風呂に入れてくれる。だから母親は抱っこしたりおっぱいをあげるだけだ。生まれてからずっと隣にいて、おっぱい以外のものは口に入れない。
退院するときは持って行った新生児用の服を着せて、友人からもらった白い毛糸のケープで赤ん坊をくるんで温かくした。
家に帰ると、日本から姪っこが使ったという新生児の下着や服がたくさん届いていた。これだけあれば何も買う必要はないと思った。
1週間後、友人のビッキー(スペイン人)が大きなベビーバスを抱えてやって来た。中には赤ん坊の下着や服が山のように入っていた。
「娘の使ったものだけど、よかったら着せてね」と言ったが、どれもきれいで新品のようだった。
そして、私はベビーバスに気づき、
「あ、ビッキー、ベビーバスはもう買っちゃったの」と言って、浴室から買ったばかりのベビーバスを持ってきて見せた。すると、ビッキーは
「デパートで買ったのね、高かったでしょ。今すぐ返しに行こう」と言った。
「でもレシートもないし、もう使っちゃったからダメだよ」と言うと、
「大丈夫、一緒に行こう」と言って車でデパートに向かった。
デパートでは、私はビッキーの隣で様子をだまって見ていた。すると、何をどう説明したのか、しばらくして店員は返品に応じてくれた。ビッキー、あっぱれである。
ビッキーからもらったベビー服は、下着はかぶるタイプで股で留める。ロンパースは足先までありボタンが背中の上部だけについている。注文服のような素敵なワンピースも何着かあったがそれも後ろボタンだった。
早速、ロンパースを着せようとしたが着せにくい。なぜなら、日本から届いた衣類は前開きで、スペインの服は後ろ開きだからだ。赤ん坊を仰向けにして日本の下着を着せて脇のひもを結び、仰向けのままスペインの服の手足を入れて、最後にうつぶせにして背中のボタンを留めるのだ。
しばらくはそうやって着せていたが、スペインでは赤ん坊は皆うつ伏せ寝だったのでやりにくかった。胸にボタンがあると寝た時に邪魔になり、別の友人からさらに大量の服をもらった時点で、新生児の間は日本のベビー服は着せなくなった。
赤ん坊はほとんど寝ているだけだからロンパースのままにしていたが、何とこれはパジャマで、ベビーカーで散歩するときは服に着替えさせるという。だから素敵なワンピースも入っていたのだ。歩けもしないのに靴も履かせろというのだ。靴を履かせていないと貧しい人と思われるからだという。
赤ん坊が快適でいられるように、と考えるのが普通のことだと思っていたのでその考えはびっくりだった。
私はロンパースが気に入っていたので、パジャマと言われようが何と言われようがとっかえひっかえ着せていた。
たーくさんもらったからね。