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5歳 戸越公園の池を渡る

家から歩いて十五分ほどの所(5歳児にはそんな距離だったような)に、戸越公園があった。
公園といっても、広い遊び場があるとかではなく、公園の中央に大きな池があって、周りが遊歩道みたいになっていた。池の向こうは登り坂になっていて、上には大崎高校があった。
公園は家から少し遠いけど唯一の広い遊び場所だった。

公園の池の向こう側に行くには、大きな石をいくつも渡らなくてはならなかった。
池の深さはそんなにないと言われていたが、石の上を渡って歩くのはいつも怖かった。
向こうから来る人とこっちから行く人が石の上で鉢合わせになり、そのたびにびくびくした。

その時も何の用があって石を渡ろうとしたのか覚えていないが、自分よりも大きい男の子が向こうから渡ってきた。
男の子は体を左右に振ってふざけて先を越そうとする。私も負けじと越そうとした。

すると、バランスがくずれて

「あっ、あっ、あー・・・ボチャン!・・」

私が負けて落ちてしまった。

思った通り池は浅かったが、胸ぐらいまでびしょ濡れになった。
服にドロがべっとりくっついて重たかった。
周りにいた人に助けられて、ようやく岩から離れた。

家で怒られた記憶はないが、怒られなかったはずはない。
その後も公園に行くことは何度もあったが、石を渡るときはさらに慎重になった。

大人になってから一度だけ戸越公園に行ったことがある。
その時には、もう池の石はなくアスファルトで舗装された歩きやすい小道になっていた。
きっと私のように池に落ちる人が続出したからだろう。

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