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29歳 オリンピックの種目だった

セビリアのアパートは家具付きだったが、どれも古いもので、とりあえず使える程度のものだった。まあ家賃が安いのだから贅沢はいえない。

食器もスプーンもシーツもすべてそろっていたが、それでも買わなくてはならない物もいろいろあって、その中でも高額なのはテレビだった。テレビなどいらないと思っていたが、情報を得るものが他に何もなかったので買うことにした。

スペインの中古屋にはまだ白黒テレビがあった。白黒テレビなんて日本では私の小学生時代の話だが、店の人はまだまだ使えるという。どうせテレビを見ても言葉が分からないからカラーでなくてもいいね、と夫と話し、小型のテレビを約15000円で購入した。

同じアパートに住む少年フアン・カルロスがうちのテレビを見て
「日本は先進国なのに、今でも白黒テレビを見ているの?」と聞いてきた。日本ではもうとっくに白黒テレビは売ってもいないことをしっかり伝えた。
 
まもなくしてソウルオリンピックが始まった。テレビで放映するのはその国が活躍するスポーツばかりで、日本では見たことがなかったバスケットボールが予選から放映されていた。

他にも馴染みのないスポーツが続いていたが、そのうちに水泳競技が始まった。スペイン人で注目の選手がいるようで連日水泳が見られた。

すると、なんだかよく聞き取れないが、テレビのアナウンサーが私の名前を呼んでいるような感じがした。
テレビに耳を近づけてよく聞くと「マリコサン」と言っているようだ。

え?何?スペイン人にそんな名前の人がいるの? 

疑問が残ったまま翌日もオリンピックの水泳を見た。
「マリコサン」とまた言っている。
何だろう?この競技は何だ。・・・種目はバタフライだった。
バタフライ・・マタフライ・・どう言い換えてもマリコサンにはならない。バタフライは蝶のことだがスペイン語で何というのか調べてみた。
 
蝶はマリポーサだった。
マリポーサ・・・マリコーサ・・・マリコーサン・・・と聞こえたのだ。
なんだ、私の名前ではなかったのか。そうよね、おかしいと思ったのよ。
夫はテレビを見ながら大爆笑した。

バスケットボールはバロンセストでバタフライはマリポーサ、
オリンピックで二つのスペイン語を覚えた。
          
 

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