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30歳 スペイン人は蒙古斑が見たい


 
目が覚めてベッドが病室に移されると、すでに赤ん坊が部屋にいた。
 
初めてみる娘は予定より2週間以上もお腹にいたせいか、髪はフサフサで爪もだいぶ伸びていた。その爪が顔に当たって小さな傷がついていた。
 
娘は厚手の布でできた楕円形のベビーカゴのような中に眠っていた。それは病室の壁に取り付けられていて、忍者屋敷のようにクルッと回すと向こうの処置室側になる。そこで看護師がおむつを替えたり風呂に入れたりするようになっていた。
 
私も同室の女性も手術をしたばかりだったので思うように動けず、授乳以外はすべて看護師がやってくれた。とはいっても赤ん坊が泣けば放ってはおけず、お腹の痛みをこらえながらようやく起き上がり、ぎこちない恰好で娘を抱え、出るのかわからない乳をくわえさせた。すべて手探り状態だ。
 
同室の女性は35歳で7人目の出産だという。どうりで赤ん坊が泣いてもすぐ抱いたりせず、もう少しお腹を空かせてからおっぱいをあげるの、といって余裕綽綽だった。もう子供ができないように卵管を縛る手術をしたから入院していると言った。通常のお産だと3日目には退院するのだと教えてくれた。
 
病院の食事は1日に6回もあった。
朝食は7時頃で、ビスケットとミルクたっぷりのコーヒーと果物が出る。
10時のおやつはサンドイッチが出た。
昼食は午後2時頃にスープからメインまで5品ほどの豪華な食事が出る。
夕方6時頃にもおやつが出て、夜10時に夕食だ。昼ほどではないがそれなりに質も量もいい。そして、これで終わりと思ったら夜中の12時にヨーグルトや果物を持って来る。わざわざ起こしてまで知らせに来るが、私は眠たいのでいらないというと、お乳のためにも食べなくてはダメと言われ、眠い目をこすりながらバナナを食べた。
 
毎日、夫が病院に見舞いに来たが、豪華な食事に目が釘付けになり、私の代わりにきれいに完食してくれた。
 
出産後、毎日お医者さんが回診に来るが、毎回違う先生だった。
さらに、いろんな看護師が赤ん坊を見に来た。よほどアジア人の赤ん坊が珍しいのかと思ったが、実はそれだけではなかった。
 
病室に来る医者や看護師は赤ん坊のおむつを取ると体をひっくり返して背中を見る。
「ほほう・・これか・・」とかなんとか言って背中をまじまじと見ている。
 
みんながあまりにも同じことをするので、それが何かと聞いてみたら、なんと蒙古斑を見に来たのだった。医学の本で知ってはいたが見たことはなかったという。幸いというか娘は肩からおしり、足までびっしりと蒙古斑があったので、彼らを十分に満足させたのだった。
噂の蒙古斑が見られて、みんな大喜びで病室から出て行った。
 
そんなことなら蒙古斑を1回見るごとに100ペセタ(約百円)でも貰うんだった、と夫と冗談まがいに話した。
 
蒙古斑はヨーロッパ人はあまり知らないので、その後、保育園で虐待と勘違いされることになるのだが、娘はコロコロと太っていていつも機嫌がよかったので、一体どういうことなのかと不思議だった、とセビリアを離れる時に保育士から聞かされた。
 
あー、もっと早く聞いてくれればよかったのに。
 
 

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