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29歳 スペインの家電は慎重に使おう
アパートには冷蔵庫はあったが、洗濯機はなかった。
でも、すぐに大家さんが中古屋から見つけてきてくれた。
しかし、それは見たこともない不思議な形をしていて、回る部分がついているが洗濯槽の下ではなく横についていた。だから洗い物を入れても何となく水が動いているだけで洗うというには程遠いものだった。
名ばかりの洗濯機は脱水機能もなく、ただの大きなバケツで本当に使えなかった。子供が生まれたら洗濯物も多くなるし、この際、大家さんに交渉してみることにした。
大家さんは洗濯機の話を快く聞いてくれて、アパートにずっと置いておくのなら半額を負担してもいいと言ってくれた。そして新品を購入した。
新品のドラム式洗濯機にはボタンがいくつもついていて、よく見ると温度が最低でも40度、最高は90度に設定出来るようになっていた。そんな高温で何を洗うのかと思ったら、説明書に木綿のシーツや枕カバーなどを洗うと書いてあった。
翌日、私は新しい洗濯機で、汚れたシーツを90度のお湯で洗ってみることにした。
ドラム式洗濯機は初めてだったが、取扱説明書を見ながら指示通りに洗剤を入れスイッチを押した。
しばらくすると、浴室から焦げたような匂いがしてきた。
見ると洗濯機の後ろから白い煙が出てきた。
え? どうしたのかな?
慌ててスイッチを切って、買った電気屋に電話した。
電気屋はすぐに来て、「何をしたのか?」と聞いたので、90度に設定したと答えた。すると電気屋は、
「えー?説明書通りに使っちゃダメだよ!」と言った。
「え?!!」
「そんなことしたらすぐに壊れるから、設定を低くして使うんだよ」と教えてくれた。
幸い、買ってすぐだったので新品と交換してくれることになったが、説明書通りに使ってはいけないなんて、日本ではありえないことだった。
洗濯機の交換には大家さんも立ち会った。
浴室のタイルの床が濡れていたので、私はスペインの丸いモップでふいて浴槽の水道で洗った。すると、大家さんは近くにある洗面器を指さし、「これで洗ったらいい」と言った。洗面器とはプラスチックでできた丸いサラダボールのようなもので、コロンとして可愛くコーヒーカップのような持ち手がついていて、なかなか使い勝手が良かった。
それを本当は何に使うものなのかは知らなかったが、手洗い桶としても、風呂のお湯を背中にかけるのにも重宝していた。だから大家さんが汚いモップをそれで洗ったらいいと言ったのが私は気に入らなかった。
「え? これって何に使うのですか?」と聞いた。
「これ? これはおまるだよ」
「おまる? 子どものですか?」
「これは大人用。夜中にトイレに行かなくて済むようにベッドの下に置いて置くんだよ」と言った。
ひぇー、そんなものだったのか・・・
セビリアのような都会ではアパート住まいの人がほとんどで、夜中にトイレの水を流すのを避けるという意味もあるらしい。どうりで店にはいろんな色やサイズのが売っていたわけだ。各自のベッド下に置くから、誰のかが分かるように色別にするのか。
用途がわかってまじまじ見ると、ふちが3cmほどぐるりと平になっていて、確かに座りやすそうだ。
いやぁ参った。
それからも(決しておまるとしては使わず)私流の使い方で洗面器として使い続けたが、スペイン人が家に来るときは、見えないように棚にしまうことにした。