33歳 ベルギーで聞こえたスペイン語
ベルギーの幼稚園は義務教育で2歳半から入れる。
親は子どもが2歳半になる前に幼稚園を見つけ、園長先生と親子面接して、空きがあっておむつが取れていれば入園が決まる。娘は12月生まれで、夏の間に2歳半になるので新学期の9月からの入園となった。
入園時に必要なものはリストをもらっていたので、夏の間に用意した。登園時はリュックに10時のおやつとお弁当と連絡ノートを入れる。昼食は給食かお弁当か家に帰るかの三択で、家に帰らない場合は、昼食時に園児の世話をする先生に年間で約5000円を支払う。うちは幼稚園に早く慣れるようにお弁当にした。
娘は1歳から私設保育園に通ってはいたものの、フランス語はまだ話せないので私と離れる時しばらくは泣いていたが、お気に入りのぬいぐるみと一緒に登園するようになってからは泣かなくなった。
幼稚園は小学校と同じ建物で、終わる時間も小学生と同じ3時半過ぎだった。日本のように学年によって帰る時間が違うということはない。帰りは親やおじいちゃんおばあちゃんがお迎えに来ている場合もあるし、学童保育に行く子もいた。必ず子供と保護者を先生が確認しなければ帰れなかった。
いつものように娘と手をつないで家に向かって歩いていると、娘と同じくらいの女の子とその子のお母さんが後ろから歩いてきた。道を渡ろうとしたとき、そのお母さんが子供に向かって、
「気をつけて!」とスペイン語で言った。
(え?スペイン人なの?)
・・・うれしさがこみあげてきた。
私はカタコトのフランス語を使っていたが、いきなり耳に入ってきた懐かしいスペイン語に反応したのだった。
思わず、
「スペイン人ですか?」と聞いてしまった。
「いいえ、ポルトガル人です」と彼女は答えた。
「気をつけて」という言葉はスペイン語もポルトガル語も同じだったのだ。彼女は幸いスペイン語も話せたので、私のつたないスペイン語でも十分に理解してくれた。幼稚園も年齢も同じで家も近いということが分かり、娘にも私にも初めての友だちができた。
子ども同士はフランス語、母親同士はスペイン語で話すという関係はその後もずっと続いた。彼女はいち早くフランス語を獲得していったが、残念ながら私のスペイン語とフランス語は、いつまでたっても初級から抜け出すことができなかった。