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64歳 なぜか買ってしまった楽器

姉は65歳からピアノを始めた。
 
コロナ禍で思うように出かけられなくなって家に籠っていてもしょうがないと、姉はヘッドフォンが使える鍵盤88の電子ピアノを買った。それまではパッチワークをしたりして楽しんでいたが、突然ピアノがやりたくなったのだという。姉はそれまで音楽とは無縁の生活だった。
 
姉は近くのコミュニティセンターで大人のピアノ教室をやっていると聞きつけて申し込んだ。生徒は全員65歳以上の女性で、小学生の頃習っていた人や子どもが使っていたピアノが物置になっていてもったいないから始めてみたという人たちだった。コロナ禍でピアノを始めた人がいるとは聞いていたが、それがいいきっかけになったのだろう。
 
楽器店には、「大人の初めてピアノ」といった類の楽譜も充実していて、聞いたことのある曲を初心者にも弾けるようにアレンジしてある。バイオリンと違ってヘッドフォンをつけてできるので、いつでもどんな家でも練習できるのはうらやましい。
 
姉夫婦は高齢の義父の願いでアメリカに戻った。姉はアメリカでも電子ピアノを買い日本で習っていた先生にリモートレッスンをお願いして続けることにした。時差があるので先生の忙しい時間を避けることができてちょうどいいそうだ。LINE通話でも最近は音楽の話が多くなってきた。
 
先日、姉は一時帰国で私の家に遊びに来た。来るなり、「ウクレレを買いたい」と言った。姉の夫が欲しがっていて、アメリカのリサイクルショップでも売っているが値段が高く、初心者が簡単に手を出せる金額ではないらしい。ウクレレなんてハワイアンでしか使わないのにそんなに需要があるのかと疑問だった。近くにリサイクルショップが3軒あるので、そのどこかにはあるだろうと姉と一緒に行ってみた。
 
1軒目で早速店に置いてあった。値段も手ごろどころかすごく安くて買うのに悩む金額ではなかった。せっかく時間もあるし別の店にも行ったら、そこにあったのはネックに桜の螺鈿が施してあるおしゃれなウクレレだった。ケースもしっかりしていたが、これではスーツケースいっぱいになってしまうので却下となる。最後の店には6台もの色とりどりのウクレレが置いてあった。値段も最初の店と変わらず安かった。姉はその中から一番軽くて木目がきれいに出ている新品のウクレレを買った。
 
家に帰ってチューニングをしてポロリンと弾いてみたら、軽くてやさしい音がする。ギターと違って4弦しかないので、左手の押さえ方もあまり複雑ではなさそうだ。重さも280グラムという軽さで姉はとても喜んだ。
 
動画でウクレレと検索するとたくさんの演奏が聴けた。もちろんハワイアンの音楽にも使うのだが、ギターのようにいろいろな曲を演奏している人がいた。ギターより小さいというだけで、何でも弾けるようだった。「ボヘミアンラプソディ」をウクレレで見事に弾いているのを聴いて、私の無知をウクレレにわびなければならないと思った。
 
翌日、姉を見送った後、なぜか急に私もウクレレが欲しくなり店に再び向かった。姉が買ったのと同じ物がもう一つあったのでそれを買い、楽器店で楽譜も購入した。
 
家に帰って楽譜を見ながら音階練習をした。普段やっているバイオリンと違って音が確かで安心する。(バイオリンは私が弾くとドがシになったりレになったりする)
 
夕方、娘にウクレレの話をしたくてLINE通話した。
 
「今日これ買ったの・・」と言ってウクレレを見せた。
 
すると娘は、「ちょっと待ってね」と言った後
 
「うちにもあります・・」と言ってウクレレを見せた。
 
えー?・・・
 
娘の夫が同僚からもらったのだという。彼は内緒で2週間前から練習しているのだと言った。年末にみんなで集まった時に何気なく披露しようと思っていたそうだ。
 
我が家はすっかりウクレレブーム到来である。
 
リサイクルショップにたくさん売っているということは、ブームはもう去っていったのかもしれない。いや、確実に去っていったのだ。
 
うちのブームは披露するまで続くかな。
 

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