![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/154524777/rectangle_large_type_2_5c37d89b6883010c683be93dc40ca570.png?width=1200)
20歳 回るファックスの登場
1978年、ファクスが社内に設置されることになった。
大阪に支店ができて、会社間のやり取りはもっぱら電話だった。
扱っている金属部品は、種類や大きさの違いなどで数が途方もなく多いので、電話でのやり取りでは聞き間違いも多かった。勿論書面でも送られてくるのだが、少しでも早くアメリカの本社に注文したいため、型番や数の間違いはできるだけ避けたかったし、注文から納品までを早くするためにもファックスは必要だったのだ。
機械部品の種類が増えるとともに取引先の数も増えていき、アメリカ本社へのテレックスも一日に何度も送信するようになっていた。
ファックスといっても、現在のもの(現在も存在するが、ほとんど使わなくなったもの)とはまるで似ても似つかないものだった。
まず電話のダイヤルを回して相手と通信できる状態にする。
送る側は直径15cm長さ30cmほどの円柱形のローラーに原稿を巻き付けて固定する。スイッチを入れるとそのローラーがグワングワンと音を立てながら回り始める。
針が動いてそれを端から読んでいく、と同時に相手側のローラーにセットされた白い紙に端から青色に印刷されていくというものだ。
1枚送るのに約3分かかった。
それも、元の原稿が薄すぎて読み取れなかったり、全体が青すぎてよく見えなかったり、毎回電話で確認しなければならなかった。ファックスの前からなかなか離れられなかった。
1日に何回も繰り返す確認電話のおかげで、大阪支店の人と話すことも多くなり顔を見ないのにすっかり親しくなった。大阪弁の冗談交じりの会話がとても楽しかった。ファックスはその後もなかなかスムーズにはいかなかったが、活字と図面の原稿がそのまま電話回線で送れることによって、明らかに仕事の効率は上がった。
「私の若い頃、回るファックスがあったのよ」と人に話しても、
「えー? 一体いつの時代の話よ」
と笑われてしまうが、当時は本当に画期的なものだったのだ。
先日、息子が帰省した際、iPadを持ってきて、今仕事には無くてはならない物になっていると言った。そこにはたくさんのデータが入っていて、紙にすると何枚にもなる大きな図面も細かいところまで確認することができるし、さらにその中にペンで書き入れることもできて間違いを極力減らすことができると話してくれた。
回るファックスから40年後にこんなにも進化するとは誰が想像できただろうと思う日々である。