秩父ミューズパーク
初めての楽しみが待っている旅にはそぐわない見事な曇り空を、余すことなく見せつける大きなガラス窓。
張りつく雨粒とガラスに刻まれる傷のような雨の斜線を目にして、幸先の悪さに笑ってしまいそうになる。
秩父へ向かう特急ラビューはなぜか車内がとても冷える。寒いぐらいだ。
スマホの画面に映し出されるアンテナマークの数が減り、私を非日常の世界へと誘う。
飯能で進行方向が変わると景色は一変した。
まだ色濃く残った青の山の懐へ飛び込んでいく。
まもなく音が鳴り始め、初めてちゃんと認識出来た金木犀の香りが鼻腔をくすぐる。覚えていないだけで、どこかで嗅いだことがあったかもしれない。そんなことをぼんやりと考える。
胸躍らせる音楽が野外の音楽堂を包み込み、やがて雨は止む。どこか遠くの空へ鳥たちが移動を始めた。
開放的な空間で味わう、どこまでも届きそうな歌声。思わず踵が、指が、頭が動いてしまう心地よいリズム。歌を聴いて鳥肌が立ったのは久しぶりの経験だった。
私は気づけば復路のシャトルバスの補助席に座っていた。それぐらいあっという間のひと時だった。
西武秩父駅で食べた味噌ポテトとちちぶ餅を思い出しながら、旅の思い出を一つずつ脳に刻み込もうとするが、まだ記憶として定着するには生々しくて鮮やかすぎた。
やっぱり、この特急ラビューはよく冷える。