見出し画像

父、76歳の人生記-第11話:病院勤めのぼんちゃんの両親-

はじめに

 このnoteを書いているのは、主人公”ぼんちゃん”、の息子です。
 戦後間もない大阪出身で現在76歳の父が、自身が年老いていくことを理解しながら、自身の人生を振り返りパソコンにしたためてきた文章。
 それを私が読みやすく校正し、名前や地名は仮のものに変えながら、ほぼそのままで掲載していこうと思います。
 父が辿ってきたのは波乱万丈の人生なのか、平々凡々な人生なのか、私も楽しみです。皆様も楽しんでいただければと思います。
※”()”は私の補足です。

第11話:病院勤めのぼんちゃんの両親

 そうこうしてるうちにオトンが病院に勤務したな。
その後おかんも勤務した。オトンは事務職、オカンは配膳係や。
それから暫くしてオトンは精神病棟に変わり、看護師になった。

 ごめん一寸待って、オトンが病院に勤務したのん、もう一寸前や。
井出のおばあちゃんとこへ引越しする頃や。日曜日、家に居てても退屈な時にはオトンの職場にいった。
 男子1号病棟のドアをノックして名前をいうとオトンが鍵を開けて入れてくれた。
 そこは心を患った人や心に障害を持った患者が起居していた。皆んなおとなしくて、ビックリするような事は起きなかった。ある患者さんは肩車して楽しそうに歩いてくれた。
 治療の一環としてインシュリンショックがあったな。インシュリンを入れてその後砂糖水をのましてた。電気ショックもあったな。額にアンマ器みたいなん当てて電流を流すんや。すると全身が痙攣したみたいになってしばらく震えとったな。
 怖かったけどこれが病気治す治療方法やとおもたら嫌悪感起きなかった。 それから重度の病気を治すため、”ロボートミー”(ロボトミー手術。現在は禁じられています)いうて、コメカミのとこに穴開けて神経切る手術があるんやて。
 ああ怖。そやけど心が戻るんちゃうねん。心が虚ろになるだけやねん。幻聴幻覚が取れるんやけどな。当時もまだ完璧に治す術が無かってん。

 あれは三年の時やったかな?
 先生が父親の職業を答えさすんや。俺はドキドキしながら順番を待っていた。
「次は藤井くん」
「ハイ!甲斐田病院精神科 男子一号病棟看護主任 です」 やて。
必死になって答えたん覚えてる。アホの一つ覚えや。おれ今考えたらオトンの仕事、ちょっとぐらい誇りにおもてたんや。 少なくとも病気治す仕事に就いてるからや。
 オトンは子供が好きやってんな。宮島の家に行った時、オトンがお化けの真似してビビらしとってんな。オトンのこと 「こわいの!おっちゃん」言われてたな(^O^)
 オトン、わりと男前やってん。俳優の佐野シュウジそっくり言うより、もっと男前やってん。佐野シュウジに悪いからこれくらいにしといたる。
 行方不明の写真あるねん。オトンの青春時代のんや。フランス人との合いの子ちゃうかと彷彿させるねん。
 いちびり精神は遺伝もんかな!?おれもそうやし、ふっ君(息子。私。)もやし!ふっ君には真剣にいちびって欲しい!! ほんまやで!

 オカンの職場もよう行ったな。
 学校帰りに、3日に一度は行ってたんとちゃうかな。
オカンは配膳の仕事や。病状に合うた食餌を提供せんなあかんねん。まちごうたら大変なことになる仕事や。そやけど病院はその認識が甘かったな。
 最初はネームプレートに「配膳係」と記されとったのに、後でオカンの仕事のこと「雑役夫」て名づけたんや。差別化図ってんな。
 オカンも少しは頭に来てた。屈辱的な名称やからや。

 オカンの仕事は「腎臓しょく 糖尿 潰瘍 術後 軟菜 ごぶがゆ(五分粥) その他」って、一食一食、患者さんに合う食餌を配膳せなあかんねん。
一人一人全部ちゃうからな。間違わんとちゃんと配膳せなあかんねん。
 ところがなんべん言うても間違うおばちゃんがいててん。オカンは言わずと知れたしっかりもの、リーダー役やってんな。テキパキと仕事こなしてた。そやけどよう間違うおばちゃんにも、偉そうにせんと仲ようしてたな。オカンのええとこや。

 オカンも病院に慣れてきたんか、
『クランケー、、患者』、『マーゲン、、、胃』 『アッペのオペ、、、盲腸の手術』、『ステルベン、、、死体』…《捨てる便》と思てた…とか。ドイチェ(ドイツ語)もいけたで。『エッセン(ドイツ語で食事)』、『胃潰瘍の薬はソルコ』とか、痛み止めにはカンポレジンがよう効くとか言うてたな。

 その当時、病院に組合できてん
職場の環境改善、賃上げやら様々な要求があったんやな。そやからオカンは積極的にデモ行進に参加してたな。オカンは鉢巻き巻いて駆け足デモしとった。オカンと組合の頑張りで雑役夫の名称はスポイル(破棄)された。それから給料上がった言うて喜んでた。オカンやるなあ!!

 病院には従業員のための風呂の設備があった。お風呂を沸かすのが一寸変わってた。ボイラーの蒸気で沸かすやつや。その風呂夜間にようヤッサンと行った。
 袋谷君が居てたな。時々一緒に風呂に入った。ぼくらは「フクロウ君」言うてたな。夜だけの友達やから。 チャンチャン!

(第11話ここまで)

息子から

 前回も言いましたが、祖父も祖母も病院勤めをしているとは知らなかったので非常に興味深く読んでいました。
 それにしても時代を感じますよね…精神病を治すためにロボトミー手術を行っている病院が日本にあって、それを私の祖父母の勤め先でも行っていたとは…。
 ぼんちゃんにとっての両親、私にとっての祖父母の仕事っぷりを少しだけ垣間見られた11話でした。知らないことがどんどん出てきます。
 ここまで読んでくださりありがとうございました。イイねやコメントをくださったり、また読んでくださると幸いです。


いいなと思ったら応援しよう!