大宮八幡宮・らんまん・熊楠・明治神宮外苑
今年2023年は 4年に1度の例大祭の年。神社周辺に提灯が灯り、おみこしの休憩場所の「神酒所」が設けられ、都内もすっかり秋祭りの気配です。私も早速、杉並区の大宮八幡宮の「秋の大祭」に行ってみました。
大宮八幡宮、驚いたのはその敷地面積です。約1万4000坪という広さは明治神宮、靖国神社に次ぐ広さだと言います。こんな広い敷地が東京のど真ん中に!?と、とても不思議な感じがします。
うっそうとした森の中を静かに歩きながら本殿に向かう、その空間の奥行と高さを感じることができるのは、木々を切らないで残しているからでしょう。マツ、ヒノキ、クスノキ、シラカシ、ソメイヨシノなどが神社の深い森を作り上げています。
こうしたまとまった敷地は“開発の餌食”になるのが常ですが、古くは11世紀に遡るその由緒と縁起が、こんにちの大宮八幡宮の形を守っているのだと感じました。
ところで、話は朝ドラ「らんまん」です。第117話は、南方熊楠氏の手紙を牧野万太郎氏が受け取るという、交流の始まりを描いていました。当時、南方熊楠は、平田東助内務大臣のもとで強化される「神社合祀令」に、エラい剣幕で反対していました。
それは、山ほどある神社を合併し、1町村1社を標準とするもので、やり方は府県知事にゆだねられましたが、結果として整理統合された神社は払い下げられ、境内の樹木は伐採されるという運命にありました。
熊楠のような博物学者・生物学者・民俗学者である、“真の教養人”はこれを見過ごすことができず、体を張って覆そうとしました。牟婁新報(現在の和歌山新報)が主催する座談会(記者会見のようなもの?)では、実に6人を相手に大乱闘になったとか(水木しげる『猫楠』)。
“お上の決定”もものともせず、それを覆す論拠「神社合祀に関する意見」を熊楠が牟婁新報(現和歌山新報)で発表したのは1909年、文字数にして3万3883字の実に膨大な意見書でした(「南方熊楠コレクション第五巻 森の思想」河出文庫)。
以下は意見書(同書)からの抜粋ですが、熊楠が古木が伐採されることをどれだけ憂いているかがわかります。
「合併社趾の鬱蒼たりし古木は、伐り払われ、売られ、代金はとくに神事以外の方面に流通し去られて、切株のみ残りて何の功なし。古木などむやみに伐り散らすは人気を荒くし、児童に、従来あり来たりし旧物一切破壊して悔ゆることなかるべき危険思想を注入す。」
冒頭で「こうしたまとまった敷地は“開発の餌食”になる」、と書きましたが、まさに“令和の餌食”は神宮外苑です。
奇しくも本日(9月16日)のニュースは、ユネスコの諮問機関であるイコモスが発した「明治神宮外苑の再開発に中止を求める警告」でした。
イコモスの文化景観委員会は「樹木が破壊されるのは受け入れられない。今や全世界は気候変動を意識して」(NHKニュースおはよう日本)と訴えています。
気候変動もさることながら、私たち日本人にとって「樹木を守る」ことは、古来から脈々と受け継がれてきた使命であるかのようです。
今から100年以上前の熊楠も身を賭して闘いました。現在は多くの団体が外苑再開発反対に声を上げています。
森や木とともに呼吸をひとつにするのが日本人、開発主体の三井不動産には早くそのことに気づいてもらいたいと思います。
神社があって、森があって、人々が集う…大宮八幡宮の秋祭りは、とても味わい深いものがありました。