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秩父の旅と丸山鉱泉旅館
旅先から持って帰ってきた地図を整理していたら、「旅館 丸山鉱泉」のチラシが出てきました。チラシには、「武甲山を臨む寺坂棚田」、「至れり尽くせりの夕食」、「緑に囲まれた長い渡り廊下」など数枚の写真がレイアウトされていました。
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インターネットで情報を取る時代と言われながらも、私の旅心に火をつけたのはこの一枚のチラシでした。そして一路埼玉の西にある秩父に向かったのでありました。
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日本の高度経済成長期を支えた武甲山、石灰石を原料にするセメントは建設ブームになくてはならない鉱物資源だったことを思うと、当時この土地がいかに栄えたかは容易に想像がつきます。そして私たちが宿泊した丸山鉱泉旅館からも当時が偲ばれます。
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渡り廊下の向こうには、団体旅行を迎え入れる大小の宴会場が設けられ、今にも“昭和のどんちゃん騒ぎ”が聞こえてきそうな佇まいです。宿の向かいには、朽ち果てたスナックやカラオケがありました。地元の景気が絶好調だったその頃には、飲み足りない客が入れ替わり立ち代わり、ここのドアを押して入ってきたことは容易に想像がつきます。その繁栄ぶりも今となっては“思い出の一頁”です。
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それでもこの宿は新たな時代を生き抜くために客室をリニューアルし、毎日薬湯を用意し、おいしい夕食を準備して、訪れる客を待っていてくれます。
葛の葉と思しき植物が渡り廊下にそのツルを伸ばそうとしているのをみたときには、宿はまたこうした自然とも闘わなければならないことを知りました。
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ときあたかもインバウンドが息を吹き返していますが、インバウンドには向き不向きがあります。猫も杓子もそれに続け――と言うわけにはいきません。交通インフラが十分でないところはなかなか難しい。こうしたことをすでに覚ってか、小鹿野町は「ウエルカムライダーズおがの」をキャッチコピーにライダーを歓迎する町として発展の方向性を打ち出しています。
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丸山鉱泉旅館のある横瀬町は小鹿野町に続いています。地域連携という発想はここで生きてくるのかもしれません。私は今回、横瀬町から小鹿野町を抜けて長野県の佐久を目指しましたが、横瀬町から小鹿野町にかけては信号も少なく、道路も整備され二輪車にとってはとても走りやすい環境です。今回の旅でも多くのライダーとすれ違いました。
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ちょっとした些細なライダー向けサービスがあるだけで、ライダーはじーんと来ます。丸山鉱泉旅館のある横瀬町も “ライダー心理”をうまくつかんでみてはどうだろう…、そんなことを考えた秩父の旅でした。