HKTDC ・3
「先生にはご案内がないでしょうけれど、末端猫の尻尾どころではありません、一天万国のテレビ局で幹部から最下層部までの健康づくり、つまりは酔い心地を管理し、その素晴らしい重篤化を本人の精神が全く気付かないか気付いてもそれをまるで気にしないよう推進する最重要と云っていい、見た目はぱっとしませんが人目を忍ぶ首脳なのです、株主もその破廉恥な所業を分かってはいますが、テレビのオーナーはみなさん出処読売でポン助ポパイのポンプ族ばかり、当然そこはカマトトを決め込んで知らんぷり、ですから会社四季報で酒類部が問題になった事はトンとありません、そんな本丸が酒類部などという芳しくもしだらない名前を隠れ蓑に一体何んな任務を帯びているかというと、別に何でもないんです、万邦くまなく草の根分けて珍らでおいしい、そして申し上げた通り頭の大概を不可にしてしまうお酒を捜し出して来るだけですから、わざわざ隠れ蓑など要らないんですがファッションなのでしょう粋なコスチュムプレーですね、長襦袢の柄をワカメ・ノリスケの春画にするようなもんです、あん、おじさんすっごい、お兄ちゃんのと全然ちがうーっ、とか何とかね、それはいいとして、どういう訳かというとテレビ局の職員は全員、本当は中毒者ではないかも知れないという容疑をこりこりの人権派アルコールシンパな辣腕弁護士と陰で幼い頃からバックリ逆ってるくせに一見あろう事か正義の味方に見えなくもないすかした横分けのロンパリがかった検事正をしてさえ掛けるのがどうやっても無理な非の打ち所などあり得ないアル中です、それもテレシビレの連中は酒類部調達の世間一般とは絶縁したべら棒な酒に毒中ってるという選民意識が強かなのです、ここが日夜電波系で駄民を啓蒙、無理なら洗脳、これも無理なら愚弄しているのだという自信の源です、常軌が遙か彼方へ霞むほど脱輪した希代な酒で痺れを来しているからこそ裏書きなしに強靱な確信が持てるのだ、酒類部が渉猟する希代な酒が無ければこんな馬鹿げた、猿でもも少し増しにやるような芝居、どうせありもしない沙汰ならもっとパンキーに嬉々っと見せなくてどうするというような蕩けたおとついのニュース、いい若いもんが大勢鞠の一つばかしを追い回してる様子をどの辺が興奮するのか、イケーだのイクゥーだの、まだあるまだある、まだよまだよ、まだイカないでーだの理屈を投げ出した劣情の叫びをあげながら二時間も垂れ流すくせにお客がイクのはとことん妨げる蹴球、ぶっといTバック一丁の酸っぱデブをふたりづつどんどん変てこな丸い舞台へ上げ、ガイキチ装束の司会が素っ頓狂な声でイカれた醜名をがなるといきなりカップルをきつく抱擁させ、ウッウッアッっと唸らせたと思う間もなく、あんたなんか嫌いよあっち行きなさいよ、パンパンパンと痴話げんかさせたりの相撲、そんなものを電波に配らせている事に素面で自信など持てる訳がないと分かっているのです、口幅ったいようですが我が党の仕事は純粋な特級テンプラです、しかしそこにはきちんとした自認があるのです、ですから酒類部が一等頼りにされ重宝とされる訳です、同じ事をするにしても三千世界から選ったパン太郎酒をたっぷり染みこませた痺れきりの頭で楽しく柔軟な信念を持ってやるのと、油の抜けきった神経症な気持ちで溜息つきつきするのでは大変な違いです、受け手に対する影響も、胸を張って、どうです今回の出し物は、見逃す訳にはいきませんよ、皆さん方は果報者だ、今ここに存在する間合いを神の思し召しだか何かで努力も辛抱もなしに得たのですから、という態度で迫られれば絶大です、片端モノの不随意運動会や出鱈めったらな河川敷ドラマもゲロマンチックなバカチンアイドルも、何かこれは面白いのかなあ、よく見れば凄いのかも知れないぞ、あれえ、いやいやなかなかオレにもわかりかけてきたぞ、なるほどなるほど、大したものじゃないかテレビの奴、これからも贔屓にしよう、というように我々痺れ集団のスッペラ電波の狂言ポンにすっかり毒中ってしてしまい、それからは始終文句は付けますが決して視聴をやめないのです」
「ほほう私も、『何やかやどっさり負ぶって塵芥は遠き道を膝行るが如し』などと康さん気どりなカッタイ眉の顔ばせにちょくちょく出合いますよ、いえ友達ではありませんが知り合いです、私見ですがこの労働フェティシズムに蹂躙された妄想を、馬鹿の振りでやり過ごすにはきついアルコール飲料が是っ非の必須と、そのうち振りでは済まない事も服した上で全体隅々まで心得ておりますが、テレビの方もそうなっていましたか、私はたまさか出るだけで、確かにこちらの方々は皆さん精神の様子がどうもアレだな、とは思っていましたが、ははあ、なるほどなるほど、そりゃそうです、キツい中毒もなしにこのザマはないですよ、いや実に結構そのままどんどんおやりいただきたい、お客様がテレビ毒中りされているのであれば、死なない程度に毒の度数にさえ注意を払っておれば電波に乗せる出し物のあれこれは気に病む訳もなく、何か肩の凝らない晴れがましい心地なのでしょうねテレビのお勤めは、晴れがましい中毒者というのも言葉のお尻がむずむずしますが、これで視聴側の中毒連の方々も晴れがましいと、万事めでたいと同時に休すのでしょうが、さすがにああいったり、こういったりだののあれこれを見せられてはインポテンシャルですね、ハレがましい、というよりあっぱれ豪儀な猿唐人共めと持ち上げた方が多少見込みがあるでしょう、しかし考えてみると両者お互いを慮るなど全くなしに息の合った役割分担が機能しているのは実に無駄の無い醜悪さですね、やはり本物の中毒者同志には無自覚ながら見えない絆のような、出来れば知りたくなかったあの気味の悪い螺旋に巻いた鎖がお揃いなのでしょうか、そうですちょっと不用意に勉強部屋で煙草に火を点けたついでに電子顕微鏡を覗き見るだけでゾワリと手のひら足の裏を除く体いっぱいにイボイボが出るようなあれです、しかしこれが平凡にやっている心の中に突如ニヤリと不気味な顔を出すと元々不自由なやる気がとことん削がれます、ご存じでしょうか、専門家がああいったいやらしい紐を詳しく調べたところこいつ等は私ども全員の体にぎっちり隈なく詰まっていて、牡牝の別があるかしりませんが彼ら彼女らがホモサピに限らずあらゆる有機体に関するいろいろ一切の決め事を取り仕切っているらしいのです、それに思い到るたび心中に畸形動物を燻すような黒紫の煙りがあららっという間に満ちてしまうのですが、そのうち上手い発明や開発か何かが出て、吸い出しの様なものでも全身に塗るか服むか注射するかして、すっかり抜いてしまえるとしてもダメなんだそうです、詰め物を出してしまうと気持ち悪くてイボイボが発症した本人がもう本人ではなくなり、抜け殻かというとそんな痕跡さえ無いものになる、というか何にもならないというか、そんな立つ瀬のないことらしいのです、私にはさっぱり理解が及びませんが、例の晴れがましい部と天晴れな部の話し合いや談合も持たない見事な連携の裏にもきっとこんなおぞましいアレがずるずるしているのでしょうね、ふとそこに思い付いてしまうともう駄目です、止めどなく気持ち悪いったらない厭な活動が後から後からカタカタ乾いた映写音を響かせ奇怪な笑いと共に踊り出てきますから怖くて何をする気にもなれませんね、あんなヒトの気持ちを逆なでするデザインのモノが大量に入っている自分がやりきれなくて、そんなメビウスベルトの干した熨しミミズが入っていなければ自分ではなくてと、けだし仕様が無いという状況なのでしょうかね、そうなると何もする気がしないにも拘わらず、この不穏当極まった螺旋の鎖をシンパに解説した信用のおけない入信の手引き書などを、知り合いに見られるのを憚り隣町の図書館迄寒暖お天気模様を問わず目出し帽にサングラス、日傘をさして捜しに行ったりしますが、翌日はその隣町へ次の日はその又隣の図書館へとハルシネッたように徘徊し出すともうやり切れなさの嵩はパンパンの表面張力、喫水線はとうとう上甲板を越え乗組員は大慌て、そして私はゆっくりと左巻に廻る巨大な不安の渦の中、どこに居るのかも分からず為す術なく身を委ねていると、その身は渦の目にコロンと賽の目質の音と共に嵌まります、世界の音量は零に視界は距離なしのペタッとした鼠色に固定され、不安の意味が認識出来る範囲からかき消されます、やり切れなさは霧散しその占めていた場は入居者待ちとなり、いきなり解消された不気味な気持ちを叩き出した間男おんなの行方が気になるようにキョロキョロ捜しながら、果たしてもう大丈夫だと思っていいのだろうかと突然襲った安心に眉間のシワを寄せていると、今度は別の安心めいた不安定が担当になりますがこれは刹那なものです、渦の目に嵌まっている間は十三の童貞のように瞬時ですぐに元の心から厭な気持ちにかえり、不覚にもほほが緩み誰かに見られやしなかったかと急いで上下左右を確認しているところを私は私の事だったかよその人の様子だったかはっきりしませんんが見かけたうろ覚えがあります、そこいら中に実際はさして重くもないものを大そうな懲役のつもりで抱え込み黄色い白目で始終薬臭い溜息をつきつき、愚民の罪を一手に引き受けたようなイザリ間もない足どり重く、どうか私の後光でもエンジェルウィングでもお好きなだけご覧になって下さい、というようにメガロマニアをすっかり曝し、あてどなくさ迷うのがうようよしており実に汚濁汚穢にして第一視界への干犯ですが、眼病ではありませんから目んしゃに診せても知るもんかという態度です、旧陸軍付属生化学班へ問い合わせると、半日コースの生体実験かぶり付き見学と実習体験、そしてその人に話さずにはいられない凄い内容を出来るだけ秘密にする事を条件に、さしあたり近所のハル患から捕獲、愛玩、使役、研究、処分という順で駆除してもらえるらしいのですが、当の本人の気持ち、ここでは私のということになりましょうが、これがはっきりしないのですよ、塵芥生ゴミ連中を本心厭がっているものやらどうやら己のことながら読み切れずに苦心しております、駄目なんですよ、気持ちが削がれ通しで全く困っているのですが、駆除、という言葉の響きに何か心にグサリとくるような、油虫を潰してしまってからハッとこの虫はどこぞの神さまに専属するお遣い姫だったことを思い出すような事態に駆除した途端に打つかるのではないかというような、そんなぐずぐずした調子なのです、もともとこういったどっちつかずな質ですからイーヂプトの水道管なぞへ逃げ込んだのでしょうかね」
「先生はミソタポアメだけではないんですね」
「ああミソポアだけでも十分ですよ、まあそっちの方面、西方ということですが気にしなくっていいんです、東方へ向かったってどうせ西まで行きます」
「はっはあ、北へ向かうと見せかけて南を目指すというあれですね」
「あれってのを私知りませんが、何か話しが濁り気味になって来ましたね、少し巻き戻して吹き込み直しましょうか、粘ついた味蕾は軽くイソジンでうがいをすると又酒の味が快復するもんです、いいですか、さんはいっ、おはようございますご案内の通りわたくしバッツ・シゲリです、今宵手応えなしの軟らかさだけがちょっぴり自慢のシゲリンとのひとときをどうぞ気軽にお楽しみ下さい、さて今朝は番組を投げてしまわれたご様子ですが放ってしまったとはいえ放送はしっ放しですから視聴覚教室に置き去りにされていらっしゃる重篤な患者さんもいくらかおいででしょう、だからといって昔の上水管に下水が詰まっただの下水管にタナゴが戻っただのという話題ではいくら相手は後期中毒者だとはいえあんまりです、そこでちょっと目先を変えて爽やかなお話をお届けしましょう、一般にはさほど漏泄していませんがあの一帯イージップタでもミタソメでも初っぱなから酒が佳くって豚が旨かったんです、何千年だかという大した古い時ですので酒は葡萄酒とビールだけ、白だの黒だのホッピだのという神経質な注文はつきません、女の子が四五十人も入るわざわざ縄文から豚を土産にもらってきた、あそこの産は亥ばかりなので豚を喜ぶんですが、大きな瓶に大勢のグレープ娘達が熟れた葡萄の実をポクポクもいでは笑いながらカメへ投げ込んだら始めは小さな子等がパンツやスカートを脱ぎ裸足で中に入ると手をつなぎ輪になってステップを踏みます、中心に向かって輪はキューッと縮むとすぐに外へ向かって大玉の花火の型に拡がると又縮んでは又拡がるあのダンスです、葡萄がほどよくくずれてきたら又しばらく実を足して次のもう少し大きな子達に交代します、だいたい四サイズの子供四チームで構成されており仕上げには全員上着も脱ぎ裸になって泳ぐので葡萄皮のイーストに女の子等の酵母菌も加わり彼女等の笑い声や歌声も溶け込み素敵なお酒になる訳で、老いも若きも皆でどこにいようがいつでも忘れず飲んだのです、お金のまだ涌かない清潔な頃ですから買うなんという、うすらみっともないことはしなくてよかったんですね、おいしいお酒をいつでも好きなだけ飲むので醸造は忙しく酵母付きの良い子は三つから十三になる迄大瓶ダンスを楽しみ十四からは彼女たちも飲む方にまわったそうです、そして豚なんですが、どうも今私どもが知る豚とは少し違うようなのです、おそらく世界に例を見ないでしょうミソタポ豚に掛かりっきりの研究者に田中というのがおりまして、あ、ご存じですかあの頭の悪い大男を、いやそんなはずはありませんよね、彼も独り学者で次席なしの第一人者ですから、その馬鹿の説によれば彼の豚は小さかったのです、今の瓜坊が当時の大柄な牡豚見当という具合で味が詰まっていたそうです、一頭あての旨味は一緒ですから小さいほど濃い口でもてたというのは薬草とおなじですね、大きな下の葉より小さな天辺の葉が人気をとっているように、一葉あたり一頭あたりの効き目が平等なんですね、それで田中の豚は煮る、焼く、蒸す、お造りその他どんなデザインに仕上げるにしても、刻まず丸のままドサッと大皿に横臥させられ、あの少女酒と共に皆で飽くことなき宴を日々休みなく楽しむための贄となったのです、食べ盛りの若いタポメンのみならずタポメレスでさえ大量にダンス酒を呑む体力を蓄えようと一人で一頭くらいはいったそうです、そんな風に申し分ない豚酒で世の中に決めつけ式付きの仲間や話し合い殴り合いなど全然発症せず過不足なく三四千年だかそこら経ったところでメジャーでは三番手のいたずら坊主、マッド・ムハンが出て酒も豚も禁止にしたのです、彼は比類なきウワバミ中の大将にして豚狂いの頭取、その二点についてのみ向上心も又強かなこと限りなく、日夜もっとイカレぶっ放しもいいかげん怖くなるほど頭抜けた酒、鼻曲がりド脂ズル剝け舞いっきりな豚をと悩みつづけ、とうとう何でも神の教えぶったような強力なタガこそ民を至福に導く術だと思いついたのです、ムハンは天才の素地を頑丈に備えた概ね千年先も見通した予言のはったりも利くカント学派とはいえ亜流も亜流、本流から遙か彼方に酔眼逞しくどっかり胡座をかいた誰が見たってドすけべをあそこの間からチラリとしかしはっきりと丸出しにする意図もまた丸出しなカント野郎でした、飲酒死罪法の下、命を危うくしてこその脳天痺れ割りな美酒、四面から鬼畜非人の扱い、打ち打擲に堪えながら欲望のありたけを総てこの醜い家畜に献げてこそ秘匿されたヒトをダメにする艶めかしい真の味わいがまとったスケスケの人絹ベールを悩ましい衣ずれの微かな響きと共にするりと滑り落とす、社会の埓外へまろ裸で蹴出され、しのつく甘美なる唾の罵声を浴びてこそ知る腐臭を克服した臓物の深淵なる脆美、脂ハムでさえ一口でハムラビの誓いを反古にしこれへ帰依するを躊躇しないこのミソッタくれポークのたまげた脂身、そして酒淫豚喰らいを断罪するムハン自身の官能計画はというと、ぎりぎりまで真っ赤な白身に包囲された目玉をこぼれ落ちなばニ玉揃いだ、とズル剥けにむく狂おしい欲をキチガイじみた歯ぎしりで抑えに圧えて後、一気の八丁鼓膜破りな爆音を伴う破戒なのです、そう唱える田中は真面目なでくの坊でコツコツと努力を惜しまない屹度与太話など出来ないウドですがお聞きになってお分かりのように彼の説はどうしたって出鱈目に違いません、学説としてというより無駄話としてさえ使い物にならないこの思い込みをトレースし、恥ずかしながら私は彼の拵えたミソポンタアメの始終歓喜あふれた世界を想い描き深い憧れの溜息を漏らすのです、本当のところ私は糞尿じみたブスったっれ豚より馬鹿そうでも清潔な綿羊や同じく足りなさそうでもうなじの絹めいた山羊がずっと好みなのですが、田中の案によるとあそこではミポ豚の、馴れないと不快と区別がつかない下品な至福を凌駕する肉はないんだそうです、そして後世フランドン農学校種へ零落することになる原種である不様なこの獣が、酸っぱすぎず甘すぎづ、とはいえ口に軽く含むとたん瞳は自ずとゆるく閉じ体中すみずみまであの子たち由来の甘酸っぱさが瞬時にふわりと拡がり軽やかなアルコールがほほ笑ましいなどと油断をしていると彼女らのはじける歓声と共に鮮やかなキックが入る、そんな葡萄酒と共に飯台に並ぶのならば、その酒席に連なる時期をのがさんがために喜んで打ち棄てないものが全体この私のどこにあるというのでしょうか、そんな風に焦点を緩めた目で呆けのように夢想するのはちょっとした悪くない楽しみではありますので田中にもこの世に在るべき価値がないではないのです、ただ惜しむらくはこの男大きいも大きいので大喰らいの大酒呑みですが根が真面目なために料理の味わい酒の良し悪しが分からないのです全然、どうしてこう大男というものは人が善良で頭が悪く味音痴なんでしょうか、しかしだからこそ皆に愛され意地悪な気持ち抜きに心からさげすまれるのですね、実に快哉叫ぶべき果報者です、そうそうそれでね田中は大真面目ですがきちんとした考えなしに生きておりますから子供が多いんです、どんどんこしらえる、一度私大変感心しましたが、真っ黒な子が生まれた時に細君にこう云ったのです、あれっ今度は下男のキンタが仕込んだ子のようだな、すると女房、あらいやですわお気づきになって、わたくし大きな殿方を大変好みますけれどクンテのは大きすぎるんですよ、ですからあまりやらせてなかったんですけれど、やっぱりあれだけ極太長大になると当たりがいいんですわね、あの男もまだ若いんですから激しいばかりでもう少し緩急がつけばわたしもいい気持ちなんでしょうが、まあそのうち巧くもなるでしょうから飽きずに青田カリの了見でもっと贔屓にしてあげようかと思ってますの、貴方よくって、とニッコリ笑うと田中は女房をじっと見つめて涙ぐんだらしいのです、下男のバンツーニグロにさえ心のみならず気軽に体まで開く性根のつくづく優しい女をめとった自分はなんと果報者なのだろうと思わずぐっとこみ上げるものがあったそうです、田中はただの馬鹿ではなく感受性の発達のしかたが世間一般の馬鹿とは一線を画した、かなりめずらしい型の馬鹿野郎なのです、それはともかくこの女房というものが実によろしい、彼のうちで飲んだくれているといつもです、おい花穂の面倒をみてやれと友達思いに彼女を貸してくれるんですが、私はこみ上げるものこそありませんが驚くほどいい使用感なんです、もう大分呑んだし大儀だなあと思いながらも田中に悪いしここはひとつ恰好だけはつけてやろうと奴さんを無理に引っ張り出すんですが、本人も眠い目をこすりながら不承ぶしょうのくせに彼女を拝んだ途端、やれ、いつものご馳走だっ、と酔ってぐずぐずしていたことなどすっかり忘れて一気の怒張という塩梅なのです、田中もちゃらっぽこ学者にしておくのが惜しいくらいないい大男ですが、奥方も負けてはいません、田中の細君にしておくのは実に勿体ないほどのアソコもかしこも素敵な女性です、気になるようでしたら今度田中のうちに遊びに行ってみますか、ご案内しますよ、一杯おやりになって借りてみて下さい、絶品を請け合います、そうなると貴方が事に及び我を忘れて、いいっ、いいっ、凄いっ、とか何とか馬鹿が移ったように叫びますから田中は歓びにむせび泣きます、女房を褒められるのが大好きなんです、そうそうそれから彼女には年の離れた妹があって、その旦那さんが出張勝ち、寂しいのでその間は田中のところへいるんですが、この子もお姉さん似の大らかで気立ての優しい女性なのです、そうですその通り、彼女も常時貸し出し歓迎で、お道具の方はお若いだけあって熟れ具合は少々楽しみが先ですが、その満開前のちょっと酸っぱい香はこれぞ旬迫るわずかの間でこそ味わえる、まるっきりのご開帳に及んではさぞやという高品位なフルボディーを充分に予感させるに足る逸品です、精根がピンと張っている折ならば姉妹丼ですっかりアブ抜きのダメにされてみるのも冒険です、自分の中にちっとも気づかなかった被虐嗜好の萌芽を今さらながら発見し、その気持ちよさにびっくりしながら遅ればせながら人生を見つめ直す好機に恵まれるかも知れませんよ、するとここで田中は体格も考えず又もや感極まって泣きますね、ためしに皆さんもこの一家に面会してみて下さい、きっとあなた方の胸とはいわず腹とはいわず体中に激しい悦びと発酵戯けがあっという間に混濁充満し、一体どうしていいか判らずあそこやかしこの皮がむけるほど笑いながら引きつけをおこしたシャム猫のように鳴きますからしばらく誰も近寄れません、それから申し上げた通りこの夫婦には子供が多く一等上は女の子で双生児、十三になりましたからもう使用していいんです、ヌーボーがお好みでしたらどうぞこちらも上がってみて下さい、男の子の方は幾つまでお預けという決まりがありませんのでそういった気味がおありの方はどの子でもご自由にご賞味いただけます、しかしこうしてお話してみると田中のところは実にほがらかな家庭ですねえ、人を選ばず優しい奥方、全身肌理の美しい健康な子供たち、彼はなんと仕合わせのいい男なんでしょう、しかし土台から馬鹿であることは幸福の根本条件ですが、なろうと思ってなれるものではありません、そう生まれつくという間の良さが味方してくれなければどうにもなりません、羨ましい限りです、田中はお母さんに感謝しないわけにはいきませんね、というのはお父さんがあの池龜病院の院長先生、盗視眼科が専門で医者の腕だけでなく経営の方もお上手、とても才長けたスマートな方、小柄ながらキリリと引き締まった体躯、目元涼やか凜々しいお顔、馬鹿丸出しの大男とはどこも似ていません、そうですこのお母さんも全方位外交全体位歓迎の人見知りしない誰の無理な欲求にも親身に応える明るく健全な女性なのです、田中はどこからか世間とまともなつき合いなどしないですむ幸運な血統をもらったんですね、そんな素敵なお母さんですから人気者だったのでしょう、大勢いるきょうだいも皆お父さんはそれぞれのようです、いづれにしても院長先生が真性のホモだったことがこの家庭の幸いをゆるぎないものにした元なのです、おわかりですか、私の親身な言い掛かりを」
つづく
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